間夜2
ラージス王国王太子ヴィラーシュが、その信じられない報告を聞いたのは、ジルクニア辺境伯領を訪問する半月ほど前のことだった。
国王陛下の執務室に呼ばれて行くと、そこには陛下の最側近が顔を並べていた。
何事かと思い、話を聞いていると、それは信じられない内容だった。
『魔獣の領域』から降りてきた、フェンリルとブラッドウルフ。
フェンリルたちを大人しくさせ、『魔獣の領域』に帰した黒い少女。
おそらく黒い少女が原因であろう、突然出現した夜空。
そのどれもが、あり得ないと言いたくなる。
けれど報告を上げたのは、かのジルクニア辺境伯。
かの方の報告なら、嘘も誇張もないだろう。
そして陛下から、ジルクニアで起こったことを調査するよう命じられたのは、言うまでもない。
そして、隣国のツェアドラ帝国もまた、同様の動きを見せていた。
辺境伯の嫡男リカルドと共に、急ぎ準備をして出発したが、辺境伯領は遠い。
片道1週間はゆうにかかる。
辺境伯領までの、1週間はとても落ち着かなかった。
辺境伯領の入り口でツェアドラ帝国皇帝ヴァルドルツィオ陛下と合流し、辺境伯家に向かった。
前はそこそこの頻度で、辺境伯家に来ていたが、ここ5年ほどは足が遠のいていた。
だが、久しぶりに見た辺境伯邸は、5年前とほとんど変わらなかった。
辺境伯と皇帝陛下との会談を終え、用意してくれた客室に行こうとすると、辺境伯から呼び止められた。
「殿下、1つご報告したいことが。」
「ん?」
「今朝早く、早馬にて知らせがありました。今回の我が領の訪問を、何処から聞きつけたのか、キャロライン妃がこちらに向かっているとの事です。」
「なっ…。」
「後3日ほどで、到着するとの事です。」
「はぁ…すまない、辺境伯。どうやらネズミかおしゃべりな鳥がいたようだ。キャロライン妃はこちらで対処しよう。何かあれば、遠慮なく教えてほしい。」
「かしこまりました。」
久しぶりの辺境伯領で、羽を伸ばせるかと思ったが、そうはいかないようだ。
厄介事の予感に、頭が痛くなってくる。
「何事もなく、終われば良いが。」
ヴィラーシュの本音に、辺境伯は苦笑いで返した。




