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夜を待つ  作者: 氷桜 零
王国編
4/37

3夜


上空に転移する。

そこは、まさしく戦場だった。


狂ったフェンリルと、そのフェンリルに引きずられたブラッドウルフ。


まだ死者は出ていないようだが、それも時間の問題だろう。


辺境伯が出てくる前に、終わらせて戻らないと。

辺境伯は優しい方だが、国の権力者だ。

国の権力者は、総じて面倒な存在。

面倒事にならないよう、早く終わらせよう。


人に掛からないように、フェンリルとブラッドウルフを少し威圧する。

魔獣は、例え狂っていたとしても、本能で動く。

私の意図した通り、人と一定の距離をとって、唸っている。


空いた空間に、ふわりと、音もなく降り立つ。

私は誘うように、フェンリルに手を伸ばした。


人も魔獣も、一様に私を警戒する。



さあ、可愛い子よ、愛しい子よ。

怒らないで、嘆かないで。

大丈夫、私はここにいるわ。

さあ、可愛い子よ、愛しい子よ。

お家にお帰り。

今夜の眠りは、私が守りましょう。

さあ、おやすみなさい、可愛い我が子。



静かな詩が、紡がれる。

空が暗く染まり、太陽が隠れる。

双子の月と、星々が夜の闇を照らす。


フェンリルたちは、次第に唸るのを止めて、一斉に伏せをした。


詩が終わると、クーンと甘い鳴声を1つ。

背を向けて、『魔獣の領域』に帰って行った。


闇が晴れ、夜が終わった。

また、太陽が空に現れる。


フェンリルたちを見送っていると、騎士たちが騒めき出した。

よく知る辺境伯の声も聞こえる。


それを横目に見つつ、転移でその場から消えた。



ーーーーー


部屋に戻ってすぐ、魂の中に精霊力を仕舞い込んだ。


久しぶりに使ったから、すごく疲れた。


〈さすが、レイシィ様。〉


〈お疲れ様でした。〉


「疲れた…。信仰も弱いし、光が強い中での行使は、とても疲れるね。あなたたちも、フォローありがとう。」


〈いえいえ。〉


〈お気になさらず。では、我らはこれで失礼します。〉


「ええ、ゆっくり休んで。」


ゼスとジスは、そう言って精霊界に帰って行った。


精霊界も騒つきそうだが、地上にいるよりは、落ち着いて休めるだろう。


少しウトウトしていると、部屋の扉が叩かれた。

ハッとして扉を開けると、侍女ナタリーがいた。


「外は落ち着いたそうよ。通常の動きに戻るよう指示があったわ。」


「ありがとうございます、ナタリーさん。私は、夕食の準備を手伝って来ます。」


「なら、私と同じね。一緒に行きましょ。」


「はい。」


部屋に鍵をかけて、ナタリーさんと並んで歩く。


「今回は、早めに終わって良かったね。数日続いた時は、もう、大変だったわ。」


「そうですね。皆さん、ご無事なら良いんですけど。」


「そこは心配しなくても、良いみたいよ。怪我人はいるけど、重症者や死者はいないって聞いたわ。」


「それは、良かったです。」


ナタリーさんと雑談をしていると、あっという間に、厨房についた。


「じゃ、今日最後の仕事を頑張りますか。」


「はいっ。」


2人で、グッと胸元で手を握り、それぞれの仕事場へ分かれて歩き出した。


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