2夜
今日は、晴天。
昨日も、一昨日も、その前も晴天。
きっと明日も明後日も、ずっと晴天だろう。
曇れ、雨よ降れ、と空を睨んでも、まあ、そんな事は起こらない。
夕方の、太陽の日差しが少し緩む頃、それが私の外の活動時間だ。
朝や昼は、日差しが強くて危険なので、外に出ないで、室内仕事をしたり勉強をしている。
今日は、侍女長からお使いを頼まれた。
青と黒の刺繍糸が、足りないらしい。
ついでに、お小遣いもくれた。
これで、好きなものを買っていいらしい。
私は外出装備を整えると、ルンルン気分で街に降りた。
そんな私を、門番たちが笑って見ていたのは気付かずに。
ーーーーー
まずは、お使いを先にしなければ。
刺繍糸は、服飾店が並ぶ通りにある『糸のアリー』で購入する。
ここの刺繍糸は、色が豊富で、糸の質が高い。
だから、辺境伯家はいつもここで購入している。
「こんにちは。」
「あら、いらっしゃいませ。レイシィちゃん、お使い?」
店主のアリーさんが、にっこり笑う。
アリーさんは、よく飴をくれる。
「はい。青の12番と38番、黒の2番と21番を20束ずつお願いします。」
「はい。いつも通り、辺境伯家にお届けでいいかしら?」
「はい、そうです。」
「お使い、ご苦労様。はい、ご褒美。」
アリーさんは、りんご味の飴をくれた。
「ありがとうございます。それでは。」
「こちらこそ、ありがとうございました。」
アリーさんにお礼を言い、店を後にした。
次に向かうのは、食料品の通り。
目的は、私、と、お友達のおやつ。
私がお友達と出会ったのは、辺境伯家に引き取られてから、割とすぐだった。
庭の日陰で休んでいると、どこからともなく現れた。
濃紺の毛と黄金の目の二又を持つ猫ゼスと、濃紫の羽と黄金の目の小鳥ジス。
それ以降、私が1人の時に、度々やってくるようになった。
誰にも言えないため、こうしてお小遣いを貰ったら、彼らの分のおやつも買うようにしている。
味にこだわりがあるようで、合わないものを渡すと、すごく微妙な表情をしているのが面白い。
動物なのに、その表情がはっきりとわかる。
クッキーのお店に行って、日持ちするものを幾つか包んでもらう。
良いものが、手に入った。
私がクッキーの袋を手に、店から出てすぐのこと。
ピィィィーーー
街中に、警笛の音が鳴り響いた。
音は1回。
この警笛は、『魔獣の領域』から魔獣が降りてきた合図。
1回は警告、2回は避難準備、3回は地下に避難、4回は総攻撃、5回は、街の放棄。
今のは1回だから、警告。
魔獣の数が少ないのだろうか?
私は、走って辺境伯家へ帰った。
ピィィィ………ピィィィ
今度は2回。
やっとの事で、辺境伯家についた。
汗が滝のように流れて、息が苦しい。
辺境伯家内は、慌ただしく動いている。
「あ、レイシィ。無事で良かったわ。あなたは部屋にいなさい。誰かが行くまで、出てはダメよ。」
「はいっ。」
侍女長から、すれ違いざまに早口で言われた。
もちろん、そのつもりである。
部屋に戻ると、ベッドに座り込んだ。
ホッと一息ついていると、窓から器用にゼスとジスが入ってきた。
鍵をかけていたはずなんだけど。
〈フェンリルが、ブラッドウルフを連れて来たみたいだよ。〉
「ジス、見て来たの?」
〈ひとっ飛びして来てね。フェンリルは、だいぶ、狂っているみたいだ。〉
〈どうしますか?レイシィ様。〉
「…フェンリルは守護者の一角。放ってはおけない。私が出るわ。」
〈〈御意に。〉〉
私はベッドから立ち上がると、目を閉じた。
魂の奥、普段は押さえ込んでいる精霊力。
自身を精霊力で、漆黒に塗りつぶす。
髪は白から漆黒に、目は赤から紫水晶に。
漆黒のドレスとベール。
そこには、私本来の姿があった。
〈行きましょう。〉
ゼス、ジスと共に、最前線へ転移した。




