7夜
この地上に、闇魔法を扱える者はいない。
私がそれを、許していないからだ。
「それの適正は火であって、闇ではない。加護も与えられていない。まあ、その火も瘴気で穢れているようだけど。」
瘴気。
それは、人の負の感情が生み出す、世界の穢れ。
瘴気は、全ての生物を汚染し、死の世界へと変えてしまう。
見つけ次第、浄化、または鎮静化しないと世界に禍をもたらす。
「そんな…あれが、闇魔法ではなく、瘴気だったなんて。」
誰もが愕然とし、キャロライン妃に視線が集まる。
「ヴィラーシュ殿下、キャロライン妃を捕えても?」
「許可する。」
「ギーク。」
「はっ!」
ギーク副団長がキャロライン妃を拘束し、連行して行った。
「あれを闇魔法と勘違いするとは、神官も落ちた者だ。」
「申し訳ございませんでした。」
私の呟きに、皆が頭を下げて謝罪する。
「…妾に聞きたいことがあるようね。」
「は、はい。」
「いいでしょう。場所を変えて、話を聞きましょう。」
隠し通すのも、そろそろ無理だろう。
いつまでも、1か所にいられない。
それに、辺境伯様たちの人柄は、この約6年で、ある程度知っている。
彼らの誠意と人柄に報いて、真実を話そう。
ーーーーー
場所を移して、ここは城壁にある砦の一室。
おそらく、ここで作戦会議などができるようになっているのだろう。
私は手を振り、内と外の空間を分ける。
こうすることで、中の様子を外から探れないようにした。
手を振らなくてもできるのだが、この方が分かりやすいと思ってやった。
「これで、ここでの出来事は、外に漏れないでしょう。」
彼らから、ほう、と感心する声が漏れる。
私は、被っているベールを、肩に下ろした。
室内からは、息を呑む音がする。
驚愕する声も。
私を知っている人と、知らない人の差だろうか。
「レイシィ…?」
「ええ。」
「どういう…?」
「私はレイシィであり、闇を司る、闇の精霊王でもあります。」
闇の精霊王ノワール。
それが私の、本当の名前。
私は、地上の様子を直に見るため、自らの領域から出てきた。
見つけた村で、子どものいない夫婦に、自分の子どもだと錯覚させた。
誤算だったのは、私の見た目と体質が、夫婦にとって、村にとって負担だったこと。
それで、捨てられてしまったこと。
けれどそのおかげで、辺境伯様に拾われた。
運が良かったと思う。
そうして、現在に至る。
私の見た目と体質は、闇の精霊の力を極限まで抑え込んでいるから。
表に出て、助けたのには理由がある。
1回目は、フェンリルがいたから。
フェンリルは『魔獣の領域』の守護者の一角。
死なせるわけには、いかなかった。
今回は、地竜から瘴気を感知したから。
瘴気は、放っておくと大地を穢す。
だから、瘴気を鎮静化する必要があった。
「と、言うことです。質問があれば聞きましょう。」
口火を切ったのは、皇帝陛下だった。
「あの女、自分で闇魔法が使えると言っていたが、嘘をついたのか?」
「さて、嘘をついたのか、自分でそう思い込んでいたのかは、本人しかわからないこと。けれど、確実なのは、あれと闇属性は全くの無関係。あのまま放置していれば、禍を招いたでしょう。」
「まさか…王都での原因不明の病は…」
「もう、影響が出ていましたか。あれが王都で、瘴気を魔法のように使っていたなら、すでに瘴気が蔓延していてもおかしくはありません。」
「どうすれば、瘴気を消せますか?」
「光で浄化するか、火で焼くか、闇で鎮静化するか、ですね。」
王都の状況は、思ったより悪いようだ。
「…何故、今、だったのですか?」
おそらく、1番聞きたいのは、闇の精霊王が人のことをどう思っているのか。
きっと、誰もが夜を取り戻したいのだろう。
「私は夜を取り上げてから、約300年間、眠っていました。けれど、祈りの声も反省の声も聞こえなかった。」
眠っていても、心からの祈りや反省は届く。
けれど実際は、届かなかった。
つまりは、そう言うこと。
人の心は、欲望だらけ。
夜を取り戻したいから、子どもが欲しいから、疲れを癒したいから祈り、反省する。
欲望だらけの声は、私には届かない。
本当に心から祈る人も反省する人も、ほんの僅かしかいないのだろう。
私は、酷く残念に思った。
この約300年は、試しの期間だった。
でも、ダメだった。
だから、最後の試しとして、地上に降りて観察することにした。
これが私の、闇の精霊王の、地上に降りた理由。




