前夜
ある日、この世界から闇の精霊が消えた。
この世界には6属性の精霊がいた。
その中で、闇の精霊はこの世界の人から嫌われていた。
闇の精霊の加護を持つもの、闇魔法の適性を持つもの、闇の精霊を信仰するものが世界中から迫害を受けていた。
闇の精霊王は怒り、悲しみ、ついに世界から闇を取り上げ、自身も姿を消した。
多くの人は闇が消えたことで喜んだ。
しかし、次第に気づくのだ。
いつまでたっても、夜が来ないことに。
初めはそれでも、気にする者はいなかった。
月日が流れ、徐々に異変に気づきはじめた。
夜が来ないことで安寧な眠りが来ない。
眠っても疲れが取れず、生きるのに大切な魔力がなかなか回復しない。
草木や作物がうまく育たず、それによって動物が弱っていく。
逆に魔獣は凶暴化するばかり。
不安定な精神と肉体の疲労と魔力が回復しにくいことで、魔獣による被害が拡大した。
それは精霊にも同じことが言えた。
闇の精霊は、精霊同士の緩衝の役割を持っていた。
相性の悪い精霊同士が、ぶつかり合うことになってしまった。
それだけでなく、精霊に唯一安らぎを与えられる存在であったため、それを失くした精霊は次第に弱り、または暴走しはじめた。
精霊の弱まりや暴走は、天変地異を引き起こした。
次に、ずっと日が出ていることで次第に水不足に陥った。
普通なら寒い地域であるはずが、雪は降らず、時おり雨が降って水が溜まったとしても、日照りで乾いてしまう。
そしてもう一つ。
すべての生き物に、子どもが生まれにくくなってしまったのだ。
子どもは生まれないが、死はいつでもすぐそばにある。
少しずつ、生き物の数が減少していった。
闇の精霊が司るのは、闇、夜、精神、眠り、調和、生死。
その全てがなくなったことで、世界は緩やかに、しかし確実に滅びへと向かっていた。
こうなって初めて、人は思うのだ。
闇の迫害が、この世界の根源たる精霊王の1柱を怒らせたのだと。
しかし、もうすでに遅かったのだが…。
嘆いても、祈っても、人々の願いは叶わない。