遥かなる旅路
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遠い昔、その惑星はダリアと呼ばれた。数学と天文学がその文明を支え、高度な天文知識が農業を繁栄させて、秩序を維持する法体系も整っていた文明だった。
だが権力に執着する粗暴な一団はその法を無視し、叛乱を起こした。星の一地域から拡大した紛争は、全土に波及し、繁栄をきわめた文明は、ゆっくりと終焉を迎えた。このとき、紛争に嫌気を抱いた数百人規模のダリア人は、何機もの恒星間宇宙船に乗船して惑星ダリアから脱出した。
もとより目的地のあてがあるわけではなかった。
船団は、惑星ダリアの引力圏を離脱すると、自動推進で、宇宙空間を飛行した。一番先頭を飛行する船の操縦室では、ロムという名の男性が制御卓の装置を操作していた。
「目的の星をしぼるだけでも大変だ。みんなの様子は?」
これは背後に立っていたルーという女性搭乗員に訊いた。
「少し疲れているけれど元気よ」
「君も今のうちに休んでいたほうがいい」
ロムがそう言うと、
「わたしは平気。この操縦室にいるのが好きなのよ。この宇宙の深淵に神秘を感じるわ」
そう言って展望窓の外の暗黒に視線を向けた。
船団は、間隔を開いて飛行していた。
ロムが操作した装置が選んだ星系には、大気と水の存在する惑星が確認できた。
ロムが後続の船団に通達する。
「各船へ、空間転移航法に移行するぞ」
別の宇宙に跳躍するための駆動システムだった。ロムがボタンを押す。
窓の外の星が滲んで見え、船団は途方もない空間を一瞬にして移動した。
窓の外の景観が一変した。そこに存在したのは、故郷のダリアに酷似した青い惑星だった。ロムがルーに言う。
「僕たちの新しい世界だ」
船団はその惑星に着陸した。着陸の目印は大きな二つの河だった。
彼らは、船に積まれた機材で簡易な住まいを作った。土地を耕しダリアから持ってきた種子を植えた。困難の数ヶ月が過ぎ、不慮の事故で何人かが命を落とした。ロムたちダリア人は、生まれた星を忘れることのないようにと、階層式の神殿を建てた。やがてロムはルーと結ばれ、二人の間には三人の子供が誕生した。
他にも新しい家族は誕生し、人々は生きるために苛酷な自然に立ち向かった。
のちに彼らはシュメール人と呼ばれる。
今から5500年前、二つの河、チグリス河とユーフラテス河に領域を囲まれた肥沃な土地で彼らの高い技術に支えられた文明はオリエントの歴史の黎明期を迎えた。
シュメールを象徴する神殿、ジックラトは彼らの崇高な歴史を今でも物語っている。
………国連イラク支援ミッション、UNAMIの隊員がジックラトの古代遺跡の近くで、楔型文字の刻印された金属片を拾った。隊員は、珍しさでしばらく眺めていたが、それは紀元前に飛来した宇宙船の船体の素材であることには気づかなかった。
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