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第七話 人形少女の過去

「え、あの日記帳の正体ってゼロさんなんですか? 」

「えぇ、そう。そして日記帳という表現は少し違いますね」

「はぁ……?」

「言葉にするのも悲しい。ここは主が見たくないものを、絶対に見ないようにする為の場所。言うなればゴミ箱とも言えますね」


 この変な人形が言うには、あの本の正体はゼロさん自身だという。

 偶然、私が本を開いたのを利用し、魔術を使用して私の意識だけを本の中に入れたそうだ。

 

 そして本の役割。

 ゼロさんは記憶の管理と言っていたが、どうやらルリンさんには隠したいどころか、頭から消し去りたいものがあったらしい。


「……私の中?に来て大丈夫なんですか? 一応、本の中で番人をしてるんですよね?」


 今考えることでもないけど、この人のやってる事はだいぶ凄い。

 私の意識に干渉出来るタイプの魔術には、初めて出会った気がする。

 

 ……というかこの手の魔術を初めて受けて理解した。

 やっぱりあの蟲達は、私以外の全員を幻術に嵌めていたようだ。

 

「勿論、駄目なんでしょう。やってしまったものは仕方ない」

「えぇ……」

「でも私はお話をしてみたかった。主が興味を持つ人間と」

「私は別に人形と話す趣味は無いんですが」


 申し訳ないとは思うけど、温かさ()を感じない者に、時間を使う気にはなれない。

 なんというか、おもちゃに向かって話しかけてるみたいで虚しくなる。

 これに近い理由から、ルリンさんに会おうってせがんでいた訳だけど……


「あぁ、悲しい。主も私達を壊す前に、同じ事をおっしゃってました」

「うっ……」


 そういえば心を読まれるんだった。

 まぁ、隠し通す必要もないか。

 相手は人間じゃないどころか、心を持ってないであろう機械だし。


「それで何を話したいんですか?」

「お話というよりは、こっちから一方的に伝え、お願いをするだけ」

「…………」

「フウカ様は主と出会ってから、余計な事しかしていない……という私の文句も兼ねて、色々とお伝えいたします」

「はぁ……?」


 機械生命体と話すのが初めてだからだろうか。

 なんかこの人形の話を聞いていると、頭が痛くなってくる……

 

 とりあえずさっさと話を終わらせ、あの本を閉じ、何も見なかった事にする。

 もうこれが1番丸い気がしてきた。

 そうすればきっと怒られない。

 

「貴女は主に会いたいようですね?」

「まぁ地上に戻るまでには、顔を合わせたいと思ってますけど。近くにいるのなら、助けてくれたお礼も面と向かって言いたいですし」

「なら、会わせることは叶いませんが、主が貴女と会いたがらない理由を見せてあげましょう」


 見せる?

 記憶の管理人と言うのだから、記憶を見せてくれるのだろうか?

 だけど……


「別にいいですよ、そんなの。もう無理に暴こうなんて思ってないですから」

「貴女はきっと、主本人と出会う事になる。だけど前提知識もなく出会えば、間違いなく殺されるでしょう」

「それ、全く笑えないですよ」

「そして貴女は戦闘面においては主どころか、人形の私達にすら劣る本当の木偶の坊」


 ……人形だから人の心が分からないというのは理解できるけど、ストレートに言い過ぎだと思う。


「そうだというのに貴女はこの地に訪れてから、魔族の尾を踏むという行為に等しい事を、延々と続けている……自分から死に向かおうとする人間を止められないのは、とても悲しい」


 そんなくだらない事を言いながら、涙のような液体を目元から流している。

 

「この口の悪さは確かに、ルリンさんの作った人形って感じがしますね。人形なのが惜しく感じます」

 

 ……正直、会いたいとは思うけど、それもまともに体が動くようになるまでの時間の中でのお話だ。

 義肢を使いこなせるようになったら、ここを出て地上に戻るのが確定している。

 この間に会えなかったら、それはそれで仕方ない。

 ただこの屋敷での生活が、とても寂しいもので終了するだけだ。

 

 魔王を討伐して日本に帰り、このふざけた世界には二度と戻らない。

 それが私のビジョン。


「残念ながらそれは叶わない夢……」

「は?」

「おっと……失礼しました」


 彼女がそう言い終えると、一冊の本が私の目の前に舞い降りてきた。


「魔王……魔王、とても良いですね。丁度良い。それは主の記憶にも大きく影響する存在」

「魔王とルリンさんに関係が?」

「きっとこの記憶は、貴女の魔王討伐の旅路に大きく役立つでしょう」


 くっ……その誘い文句は強い。

 少しでもリスクを抑えるために、魔王に関する情報は欲しい。

 この迷宮に来た理由も、魔王を殺すためのアイテムを手に入れる事だったのだ。

 情報はどれだけあっても困らない。


 なので申し訳ないけど……本当に申し訳ないけど、ルリンさんの隠し事を覗かせて貰おうと思う。

 

「あぁ、嬉しい。心は決まったようで何よりで」

「……ゼロさんって結構お喋り好きなんですね」


 人形のくせに……は余計か。


「えぇ……えぇ。私には主の初めての友人という役割も兼任していたので」


 そう、何でもないような顔でゼロさんは言った。

 

「……そうですか」


 初めての友人。

 あんまり話をしっかり聞いてないけど、ルリンさんはこの人形を友人として扱っていたのに、最後には自分で考えて動く人形達を壊したのか。

 私がさっき言った『人形と話しているのが虚しい』という理由で。


「さて、貴女はあの魔導書を日記帳と読んでいました」

「まぁそうですね」

「ならば物語の紡ぎ方も、それでいくのが良いとは思いませんか?」

「……?」

「では大魔導師の軌跡を、私達で辿るとしましょう」


 ゼロさんがそう言い終えると、私の目の前を漂っていた本が、突如開き出し、世界を書き換えるかのように光が私達を覆った。




 

 光が徐々に弱まり、そして静かに消えていく。

 まぶたの裏に焼き付いていた白が薄れ、ゆっくりと目を開けると、視界に広がったのは見知らぬ街だった。


「これは……もしかして地上に戻った?」


 そう思うのも束の間……一体の人形が私の先を歩いていく。

 

「いえ、そうではなく。これは私が再現構築した、主の記憶領域の中」


 そうだ……そう言えばそんな話だった。

 

 記憶の再現、それもルリンさんのを基に。

 つまりここは……


「そう。この土地は私の主が生まれ育った故郷」

「なるほど」


 とても豊かに見える城下町だ。

 私達を召喚した王国以上だろう。

 あそこにはあまり余裕を感じられなかった。


「それはそうでしょう。この時間軸はまだ魔王……いえ、()()などという存在が生まれる、ほんの直前の風景ですから」

「魔族が生まれる前の風景……」


 どういう事だ……?

 一応私は、この世界へ勝手に呼び出した人達から、少しだけ歴史を教わっている。

 話では魔族という存在が、突然姿を現したのは、1000年以上も前だと聞いた。

 そうなるとルリンさんの年齢は、少なくとも4桁を超えている。


「フウカ様。思考にばかり囚われていないで、目の前をよく注視しながら歩いてください。」

「……いきなり何ですか、前って……」

「何故気づかないのか……私は悲しい。何の目的も無しに、街の風景だけを見せる馬鹿がどこにおりましょうか」


 うるさい人形が貶してくるので、一度思考を取りやめ、視線を前に向ける。

 

 よく眼を凝らして前を見ると、特徴的な鉛色の少女が、かなり前を歩いているのが見えた。

 最近はよく目にする人形の姿…………ではない。


「に、人間?!」

「えぇ……えぇ、その通り。主は人間。今は城での仕事を終わらせ、帰宅をしている最中でございます」

「城での仕事……」

「それもついでに少し説明いたしましょう」


 ゼロさんが言うには、どうやらルリンさん13歳という年齢で、宮廷魔導士?のリーダー格を務めていたという。

 私にはルリンさんが、丸腰で歩いているようにしか見えないので、誰か悪い人に狙われたりしないか心配だったけど……どうやらこの国では知らない人がいないほど有名で、誰も近寄らないらしい。

 

 ……いや、何を心配しているんだろう。

 それ以前に、ここは過去の記憶だというのに。


「お考えもひと段落つき、街の風景も大雑把に見る事ができたですね。では少し時を進めましょう」

「え?」


 言葉を待たずに馬鹿人形が、私達を別の場所に移してしまった。





 ---

 

 


 次はどこに……


「ル、ルリンさん?!」


 視線を左に移すと、ルリンさんがすぐ隣を通り過ぎていった。


「何故、口を手で覆っているのです? いい加減理解してもらえると助かるのですが、ここは……」

「記憶の世界なので何を喋っても聞こえないし、相手に見られる心配もない、って言いたいんですよね。まだ慣れていないだけなので黙っててください」

「あぁ、悲しい。ついでに主が向かう先にも気づいていただきたい」

「言われなくても気づいてますよ。屋敷ですよね。ここまで来ると驚きもありません」


 これも見覚えしかない。

 一面が青い花で埋め尽くされた庭と、奥に建つ屋敷。

 ルリンさんの屋敷だ。

 ところどころ違うところがあるが……ん?


 花畑の奥に、30代くらいの女性の姿が見えた。


「主がお母上の方へと向かわれました。どうせならもう少し近づいて、お二人のお話を伺ってみましょう」

「……これに魔王と何の関係があるのかと、聞きたいところですね」


 

 

---



 

 

「お母さん、ただいま!」

「あら、おかえりなさい。もう帰ってきたの?」

「そんなの当たり前でしょ!私は優秀なんだから!」

「そうね。いつもありがとう、ルリン」

「感謝なんかいらないよ。私が今開発している魔術が完成したら、もう仕事なんかやらないんだから!」

「そうなれば、ずっとここで静かに暮らせるわねぇ」


 2人の親子は庭で咲き乱れる花を見ながら、仲睦まじく会話をしていた。

 


 

 ---


 


「なんか……こういうのを見ていると、羨ましくなっちゃいます」

「羨ましいというのは私には理解致しかねますが、ここで出てきた魔術の話が、後に生まれる私達人形シリーズというわけです」


 ……悲しいや嬉しいなんて言葉をよく呟くくせに、羨ましいが理解出来ないのは何故か?……と問うのは流石に野暮か。


「ふむ? フウカ様と私の認識には、齟齬があるようですね」

「認識の齟齬……?」

「なるほど、貴女はかなり魔王に拘っている……いえ、拘っているのは遠い故郷でしょうか。フウカ様も故郷へと帰りたいのですね」

「それはそうですよ。ルリンさんにも家族がいるように、私だって当然家族がいるんですから」


 やっぱり人形には理解出来ないのだろうか?

 地球では住む国が違えば、価値観に違いが出るのは当然。

 異世界で、それも種族が違う上に、この人形は命すら持ち合わせていない。

 こうなると会話がまともに成立しなくても、仕方ない気がしてきた。


「あぁ……なんと悲しい暴言の数々なのでしょう。主もそこまで言うことはしなかったというのに……」


 ゼロは目から液体を流し、芝居掛かった動きをしながら腕で目を覆う。

 

「ついでに言うんですが、ずっと心を読まれるの……本当に不快なんでやめて下さい」

「どうやらいまだに理解されておられない様子。何故貴女をここに招いたのか、記憶領域のこの時間である必要性があるのか……私はここへ来てすぐに説明を致したはずです」

「はぁ……?ふざけた事を言うのも良い加減に――――――何ですか、この気配……」


 私が怒りを人形に向けようとした直後、空の雰囲気が変わった。


 今はまだ何も無い。

 ただ、青空をゆっくりと雲が覆っているだけに過ぎない、ごく日常にありふれた景色。

 だけど目に映らないが、あの空の中にとんでもないものが隠れている。


「気づいてもらえたようで何よりです。この頃の主はアレの気配に気づいたにも関わらず、未知の物だったので見て見ぬふりを致しました。そしてそれを永遠の後悔としています」

「………………」


 例え幻であっても切らなければいけない。

 そう私の中の加護が強く反応している。


「剣が無いと落ち着かないようですね? それではこちらを差し上げます」


 ゼロさんはどこから出したのか分からない、古びた剣を渡してくれた。


「……ありがとうございます」

「どちらも記憶を元に作ったただの贋作ですが、超常の存在()もお気に召したようです」


 人形がその一言を発すると同時に、視界がゆらぎ、遠くの空が黒く染まった。

 音もなく空間が裂け、まるで生き物のように空中で()()()()が開かれた。


「フウカ様。あの門の内側で何が蠢いているか、気づきましたか?」

「魔族ですよね。それは分かりますよ。私に与えられた力は、魔族と魔物の力に強く反応するんですから」


 あぁ、気持ち悪い。

 ……だけど理解はした。

 魔族の起源がアレだというのを。


「あの者達は一拍置くこともなく門を出て、この国の人間を一人を除いて喰い殺した後、人類を家畜化し今のフウカ様達がいる時代へと移るのです」


 一人を除いた……


「……それは、あのルリンさんも……?」


 そう私が聞くと、また場面が切り替わった。

あとがきです


最後まで読んでもらえたようで嬉しいです。

続きもお楽しみください。

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