最終章 何度でも
最終章です。
リハビリ施設の大きな窓から柔らかな朝陽が差し込む。
冷たい空気を温めるようなその光は、床一面に広がり、施設に並ぶ平行棒やマットを優しく照らしていた。
かすかな消毒液の香りと、患者たちの声。
僕は平行棒に片手を添えながら、左手で松葉杖を支えていた。両足に膝から足首まで補装具が装着して、黒いトレーニングウェアは汗で湿り、肩から背中にかけて濡れたラインが浮かび上がっていた。
「右足を……一歩」
足を前に出そうとする。
補装具がぎこちなく床に擦れる音が響き、そのたびに全身に響く痛みに顔を歪める。
それでも、目は前だけを見つめていた。
「もう少し……あと少し……」
僕の額からは大粒の汗が流れていた。
少し離れた場所では、紗月さんが電動車椅子に座り、訓練をしていた。
紗月は震える指先を操作パネルに向ける。指導員の声を聞きながら、車椅子を動かそうと必死だった。
その動作はゆっくりで、時折誤作動を起こすたびに、彼女の顔には悔しさが滲む。
「くっ……」
声を漏らしながらも、紗月は必死に操作を続けた。
小さな動作一つでさえ、彼女にとっては戦いだった。
紗月の車椅子がわずかに後退し、彼女は指先を止めてしまった。目に浮かんだ涙が頬を伝う。
「どうして……こんなに動かないの」
そのつぶやきを聞いた悠人は、松葉杖を使いながらぎこちなく振り返った。
顔には汗が滲み、疲労が色濃く表れていたが、その目は力強さを宿していた。
「一緒に進もう。僕たちなら、絶対できるよ」
その声は震えていたが、確かに彼女に届いた。
「僕も、足を前に出すだけでやっとです。でも、前には進んでる」
悠人は不器用に笑い、平行棒に体を預けながら右足をわずかに持ち上げてみせた。
それはほんの数センチの動きだったが、彼の全身がそれに注ぎ込まれていることは一目でわかった。
リハビリ施設の一角にある床にしかれた青いマット。
悠人と紗月はお互い部屋の端の離れた場所でうつ伏せになり、その中央へと向かう。
悠人は両肘と膝を使いながら床を這う。補装具が床に擦れる音が響き、そのたびに彼は眉間にしわを寄せながら苦痛を堪えていた。
紗月もまた、床に横たわった姿勢から、前に進もうとしていた。
肩や腰を固定する補装具が彼女の体を守る一方で、動きを制限していた。それでも、彼女は必死に指先を震わせ、体を少しずつ前に押し出していた。
「悠人くん……」
「紗月さん……一緒に」
彼らは互いに声を掛け合い、床を這うようにして前に進む。
二人の手が、わずかに触れそうな距離まで近づく。悠人の指先は震え、汗で光っている。
紗月の指もまた、補装具に制約されながらも必死に彼に向かって伸びていた。
「あと少し……!」
二人の声が重なり、その瞬間、施設内が静まり返ったように感じられた。
夕陽が窓から差し込み、床に長く映る二人の影を優しく包み込んでいた。光の中で、二人の汗に濡れた顔が輝いて見えた。
二人の手が触れ合う寸前、お互いの顔には微笑みが浮かび、未来への希望と信念が宿っていた。
END
ここまで読んで頂いた方、本当にありがとうございました。
見ていてお分かりかと思いますが、正直物語の完成度としては15%くらいだと思っています。
次はもう少しちゃんと作れたらな~と思ってます。




