第四十章 二度目の
次章で最終回です。
松葉杖に体重をかけ、肩で息をつきながら悠人くんは私を見つめていた。
シャツの襟元が汗で濡れて額には薄く光る汗の粒がいくつも浮かんでいた。
それを拭えることが出来たらどんなにいいだろう。
唇を噛みしめて顔を上げる。
こみ上げていた涙が浮かび、頬を伝って静かに落ちていく。
「ごめん……ごめんなさい、悠人くん。こんなに...あなたを傷つけてしまって」
本当は会いたかった。
罪悪感はあったが茉莉さんの事が頭から離れなかった。
一度外した彼との絆。そして再び会えたことへの安堵――そのすべてが涙となって流れていた。
松葉杖を突きながら少し前かがみになり、悠人くんが私の顔を覗き込む。
その目には、彼女のすべてを受け止めようとする優しさが浮かんでいた。
「謝らないで下さい。こうして紗月さんが僕の前にいてくれる。それだけで十分ですよ」
その声は穏やかで、彼の優しさと誠実さが伝わってくるものだった。
震える手で涙を拭おうとしたけど、補装具に支えられた腕は自由に動くことを許さなかった。
その様子を見た彼が手を伸ばし、頬へと伸び、涙をぬぐう。
彼に触れられた私はびっくりして目を見開く。
顔から熱を感じる。でも全然嫌じゃない。
「紗月さんに会えない間、自分にできることを探してたんです」
紗月が首を少し傾げ、彼をじっと見つめた。
その瞳には、彼の言葉をすべて受け止めようとする静かな意志が感じられた。
「リハビリは続けていました。でも、それだけじゃ足りない気がして……何か世の中に、そして紗月さんに役に立てることをしようと思いました」
悠人くんは足元を見下ろしながら、苦笑いを浮かべた。
「障がいを持つ僕たちがもっと便利に使えるアプリを作ろうと思って、プログラミングを始めたんです。……まだ全然、形にはなってないけど」
「悠人くん……」
「実際のところ、紗月さんに会えない間、何かしていないと自分が壊れてしまいそうだったってのもあったんだけど...」
悠人くんは照れながら答える。
ようやく私は前向きになれるかもしれないと思った。悠人くんの優しさ、勇気。
それを受け止めることが出来ようになりつつある。心が軽くなる。
「悠人くん……ありがとう。貰ってばかりだな」
感謝と愛情、そして再会への喜びをすべて込めてお礼をした。
「紗月さん……これからも、僕と一緒にいてくれるかな?」
その一言に、目を見開いた。
震えるほど、喜びが体を突き抜ける。
「その……まだ、そうしていたいって思うんだ」
彼の声は少し震えていたが、そこには彼の真っ直ぐな気持ちが込められていた。
「うん……私も、そうしたい」
紗月は目を閉じ、わずかに体を前に傾けた。
悠人くんは震える手でもう一度私の頬に触れ、包み込むようにそっと撫でる。
彼はゆっくりと顔を近づけた。
二人の唇が静かに触れ合う。
それまで漂っていたもどかしさや不安がすべて消え、温かさと安心感だけが二人の間に満ちていく。
キスが終わり、悠人くんは顔を少し赤らめながら、恥ずかしそうに微笑んだ。
「僕は...紗月さんとこうしてまた話せることが……それが何より大事なんだ。だからどうか、これからも、隣にいてほしい」
その声には彼の深い想いが静かに込められていた。
私もまた、小さく微笑み、頷く。




