第三十七章 私が見たかったもの
すいません続きです。もうすぐ終わりです。
朝の光が部屋を静かに包み込んでいた。
窓越しの柔らかな日差しが淡く影を落とす。
ベッドの上の私は、目は覚めていたけれど動く気にはならなくて瞳だけが天井を見つめていた。
「おはよう、紗月ちゃん」
優しい声とともに、麻衣子さんが部屋に入ってきた。
その声は空間に温かさをもたらし、部屋の静けさにそっと触れるようだった。
「……おはよう」
声に力が入らない。視界も起き抜けのせいかぼんやりとしていた。
「今日はいい天気だし、少し外に出てみない?」
麻衣子さんの提案に、私は頷いて外に出る意思をなんとか見せる。動作一つにさえ、体に痛みと重みが伴う。そんな私の事を理解してくれている麻衣子さんが、できる限り穏やかな声で続けた。
「ゆっくり、準備しようね」
自分へ言い聞かせるみたいに麻衣子さんは私をゆっくりと起こした。身体が硬直し、関節が微かに軋むような感覚。それでも痛みを堪え、じっと麻衣子さんに身を預けていた。
「痛くない?」
麻衣子さんの問いかけに、「うん……大丈夫」と答えた。
麻衣子さんは電動リフトを準備して、慎重に私の身体を車椅子へと移動させた。小さなモーター音が部屋に響き、体が少しずつ宙に浮かび上がる。リフトの動きは滑らかだったが、少し揺れるたびに硬直した関節にわずかな痛みが走る。
「これで大丈夫?」
麻衣子さんの問いに、「うん」と短く答える。
ほとんど何もしていないのに身体を動かされることへの緊張感からか少し疲れていたけど、すぐに安心できた。
麻衣子さんが私の車椅子を押して、近くの公園へと向かった。道には薄緑色の新芽が揺れ、柔らかな風が髪をそっと撫でる。太陽の光が木々の間を通り抜け、地面に光と影の美しい模様を作り出していた。
「今日は空気が気持ちいいね」
「うん......そうだね」
久しぶりの外の景色に目を細める。
出るまでは怖かったけど、今はとてもいい気持ちだ。
ふと、麻衣子さんが車椅子を止める。
「麻衣子さん...どうしたの?」
「紗月ちゃん。あなたに会いたいっていう人が、今日来てるの」
私は、怪訝な顔をして視線を向けた、その先に。
公園の奥、一本の大きな木の下に、一人の少年が立っていた。彼は松葉杖を突き、こちらをじっと見つめていた。
「……………………………悠人くん?」
彼の姿に気づき、思わず声を漏らした。
声が震える。
ぼんやりとしていた意識が一気に開ける。
悠人くんは、前に会った時より少し痩せた姿で立っていた。両脚に歩行補助器具を付けて松葉杖に体重を預けながら穏やかな笑顔を浮かべていた。
シンプルな紺色のジャケットに白いTシャツ、足元には片方だけスポーツシューズを履いている。
「久しぶり、紗月さん」
その声には、いつもの彼の優しさが伝わる、懐かしい響きが含まれていた。
視界が涙で滲む。鼻の奥がつんとして痛かった。
「今日は紗月さんにどうしても会いたくて」
その言葉に、息を飲む。




