第三十四章 提案
続きです。すごく短いです。
千夏は腕を組んだまましばらく黙り込んでいた。そして、突然、口を開く。
「……直接会って話せば?」
その一言に僕は少し意識がはっきりする。
千夏の隣の、誠司さんはかすかに眉をひそめた。
「でも、紗月さんの家……知らないから」
僕が答えると、千夏は挑発的な笑みを浮かべた。
「教えてあげるよ。あの子の住所、知ってるから」
「紗月さんのを……知ってるの?」
「前に、後をつけたの。あの子のこと、全部調べてやろうって」
さらりと言ったその言葉に、僕は言葉を失う。
篠宮さんが低い声で口を開いた。
「千夏、お前ってヤツは・・・・・」
冷静な声に、千夏は舌打ちして篠宮さんを睨みつけた。
「なんか文句ある?今は困ってる悠人を助けてあげようとしてるだけ」
「そんな事をすればどうなるか、ちゃんと考えろよ」
彼の冷静な指摘に、千夏はさらに声を荒げた。
同時に二人の親密なやりとりに僕はふと紗月さんのために企画した写真展のことを思い出した。
花や絵本について語ったあのやりとりを思い出し、胸が傷んだ。
「じゃあ、どうするのがいいっていうの?」
「俺は.........紗月さんが拒んでいる以上、今はそっとしておくべきだ。そう思う」
二人の口論を聞きながら、目を伏せて黙り込んでいた。
その沈黙に気づいた千夏が息を吐き、篠宮さんを睨みながら言った。
「悠人くん。決めるのはあなたよ。行くなら早い方がいいんじゃない?」
その言葉に、篠宮さんは小さく頷き、僕の方へと目を向ける。
「さっきも言ったが僕は少し時間が必要だと思う。紗月さんの今の気持ちを察してやるべきだ」
千夏は松葉杖を手に取り、立ち上がると一言だけ残した。
「その気になったら、また連絡して。・・・・・・じゃあ」
彼女の松葉杖が石畳を叩く音と車椅子を進める音が僕から徐々に遠ざかっていった。




