第二十四章 知らせ
続きです。
冬の朝、薄曇りの空から冷たい光がリハビリ施設の広い窓から差し込んでいた。無機質な白い壁と並べられた訓練器具は、規則的な整頓と静けさの中にどこか冷たさを漂わせている。
木目の手すりの付いた平行棒やエアロバイク、ストレッチマット、体を支えるための特殊なフレームや歩行補助具。それらが規則正しく配置されている。
淡いモーター音を響かせながらリクライニング式の電動車椅子でそのフロアに入っていく。
薄手の白いトレーナーに柔らかいスウェットパンツ、麻衣子さんが選んでくれた服装は彼女の穏やかで優しい嗜好を感じる。
「おはようございます、紗月さん」
理学療法士の女性が優しい笑顔を浮かべて近づいてきた。その声に応えるように、かすかに微笑んだが、それはほとんど形だけのものだった。
「今日も、できる範囲で頑張りましょうね」
彼女の声はあくまで前向きで、紗月を励まそうとする意図が滲んでいた。しかし最近はその励ましがかえって重く感じられる。
リフトでベッド型の訓練台に移されると、ストラップで補装具ごと体を固定され、まずは上半身のリハビリから始めた。
「腕をゆっくり伸ばしていきますね」
理学療法士が丁寧に声をかけながら、左腕を持ち上げ、肩関節を回すように動かす。腕の関節が固まっているせいで、小さな動きでも鈍い痛みが走る。
「痛みがありますか?」
「……少しだけ。」
聞かれてもいつも控えめに答えてしまう。本当は叫びたいほどなのに。けれど、それ以上の苦しみの言葉を発すれば、自分の弱さをさらけ出し、とめどなくなりそうで怖かった。
次に行われたのは膝関節の訓練だった。ストレッチ用の器具に足を乗せ、ゆっくりと膝を開閉させる動き。膝を曲げたり伸ばしたりするたびに、補装具とギプスがこすれる感覚が伝わってくる。
「もう少しで一回終わりますよ。頑張りましょう」
「………………っく………う」
その声を聞きながらも、意識は遠のいていく。動かされる体はまるで自分のものではないように感じ、頭の中にはただ、冷たい「無力感」という言葉だけが浮かんでいた。
訓練を終え、再び電動車椅子に戻った私を、療法士の先生が施設の隅にある休憩スペースに移動させてくれた。温かいお茶を飲ませてくれようとしたが、疲れてそれすら口を付けるのを躊躇う。
汗で湿った身体を感じながら窓の外に視線を向け、ぼんやりと考えていた。
(リハビリを続けても、何も変わらないんじゃないかな私は……)
その思いが頭を巡るたび、胸が締めつけられるようだった。
悪い考えが良くないものを引き寄せる。
マイナスプラシーボ効果って言うんだっけ。
私がもっと希望を持って生きていれば、私の人生も周りの人達も、もっと幸せになっていたのかもしれない。だからこの後に起きた茉莉さんの事も、その時は私のせいだなんて思ってしまうほどに私は暗い迷路に入り込んでしまっていた。




