第二十三章 漂流
続きです。
夜の闇が静かに降りる頃、千夏はスマホの画面に目を落としていた。薄暗い部屋の中で、通知音が鳴るたびに画面が青白く光り、彼女の表情を照らし出している。
街で知り合った男性との軽い関係だけでは満たされず、千夏は次第にSNSでの出会いに依存するようになっていた。そこにあるのは一時的な快楽と、名前も覚えられない刹那的なつながり。それでも、自分の虚無感を埋めるためにただひたすらそれらを繰り返していた。
そんな生活は、身体にも少しずつ影響を及ぼしていた。
松葉杖を突いて歩くたびに感じる膝の痛み、長時間同じ体勢を保つことで起こる股関節の鈍い違和感。補装具に包まれた脚が少しでも不自然な角度になれば、それだけで一日中痛みが続くこともある。
それでも無理をして出かける。足が痛むたびに眉を寄せながら、それを隠すように靴音を響かせ、街の中で出会いを求めていた。
その夜、SNSの画面に流れる新しいメッセージが目を引いた。
『無駄話は抜きで、会おう』
シンプルすぎる一文。送り主のプロフィールには名前も写真もなく、背景に薄暗いモノクロの風景写真が設定されているだけだった。自己紹介欄も空白に近い。
「変わった人」
それを見て軽く首を傾げたが、その無機質なメッセージに何か興味を引かれるものを感じた。
『どこで?』
短く返信すると、数分もしないうちに返事が来た。
『○○駅前のホテル。20時に。部屋はついたら案内する』
約束の時間が近づく中、千夏は準備を始めた。
魅惑的な黒いランジェリーの上から黒いタイトなニットワンピースを着て、厚手の腿まで伸びたタイツを合わせ、その上から真紅のコートを羽織る。小ぶりなゴールドのピアスをつけ、髪は肩の長さで整えて軽く内巻きにした。
靴を履く前、足元の補装具を装着する。足首と膝を安定させるためのカーボン製の補装具は黒く艶やかで、左右の脚にしっかりと固定される。ベルトを締めるたびに、冷たい素材が肌に触れる。
松葉杖は、軽量アルミ製のもので黒を基調とし、グリップ部分には柔らかなパッドが取り付けられている。杖を突くたびに乾いた音が響き、自分の存在を周囲に知らせるかのようで、いつも少しだけ気が重くなった。
足元にはヒールの低いショートブーツを履き、バランスを崩さないよう慎重に立ち上がる。コートのポケットにスマホをしまい、杖を握って玄関を出る。
冷たい風が頬を刺すように吹く中、松葉杖を突いてゆっくりと駅へ向かった。




