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RE:HUB  作者: 歪んだ部屋
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第二十二章 悠人の計画

続きになります。

 冬の朝、曇り空から射し込む薄暗い光が病室の白い壁を照らしていた。僕は車椅子の上で机に広げたタブレットに視線を落としていた。指先でスケジュールや準備リストをスライドさせながら、何度も内容を確認する。


 昼過ぎ、紗月のヘルパーの麻衣子さんが病室を訪れた。


「こんにちは、悠人くん」


 麻衣子さんは淡いブルーのニットにグレーのパンツ、黒のスニーカーという動きやすい服装をして柔らかな笑顔を浮かべながら病室に入ってきた。手には紗月さんのケア用品を詰めたトートバッグを持っている。


「こんにちは、麻衣子さん。……よろしくお願いします」


 今日は僕がやろうとしている事を事前に伝えておいた麻衣子さんと打ち合わせをする日になっていた。

 事前に用意した内容をタブレットにまとめたものはすでに麻衣子さんに送信し見てもらっていた。


 この計画にはどうしても麻衣子さんの協力をお願いする必要があった。色々と準備が必要になると思うし、やろうとしている事の感想も聞いておきたかったからだ。


「計画を見させて頂きました。最初に聞いたときは驚いたけど、すごくいいと思いますよ。紗月ちゃんは絶対、喜ぶと思います」


 麻衣子さんは僕の隣の椅子に腰を下ろし、にこやかな笑顔を浮かべる。


「良かった…ありがとうございます。紗月さんに元気になってもらいたくて……なにか僕にできること、あるかなって一生懸命考えました」


 言葉には、不安と責任感が入り混じっていた。

 麻衣子はふと微笑むと、首を軽く振った。


「悠人くんが紗月ちゃんを思ってやろうとしている、そのことが大事なんだと私は思います。悠人くんがここまで考えてくれたこと自体が、彼女にはすごく励みになると思いますよ」


 麻衣子さんの言葉に、ほっと息をつく。

 それから麻衣子さんに向けて計画の詳細を説明した。


 実行の日は、冬の冷たい風が吹く朝だった。

 僕は濃いグレーのセーターに黒い防寒ジャケットを羽織り、膝に掛けたブランケットで寒さを凌ぎながら病院の玄関にいた。右手に装着した操作用の特製手袋が、ジョイスティックを握る手をしっかりと温めてくれた。


 遠くからかすかなモーター音が聞こえ、紗月さんが麻衣子さんと共に現れた。


「おはよう、紗月さん」

 僕が声をかけると、紗月さんは顔を上げて、すぐに微笑みを浮かべた。


「おはようございます、悠人くん。寒くないですか?」

「大丈夫です。紗月さんは大丈夫?」

 その問いかけに、紗月は小さく頷いた。


「麻衣子さんがしっかり準備してくれたから……でも、外に出るとやっぱり緊張する」

 彼女の声は控えめだったが、どこか嬉しそうな響きが含まれていた。


 三人が向かったのは、病院内の一角に設置された小さなホールだった。

 その日、そこでは「四季」をテーマにした絵本展が開催されていた。


「紗月さん、絵本を書きたいって言ってましたよね。病院の人にお願いしてここのスペースをお借りし、この絵本展を開催してもらいました。少しでも元気を出してもらえたらと思って」

 僕の言葉に、紗月さんの瞳がわずかに輝いた。


「わぁ、すごいよ……覚えていてくれたんだね……これ、用意するの大変だったでしょう?」

「色んな人が手伝ってくれたんです。その人たちのお陰ですごくいいものを作ってくれたんです」


 ホールに入ると、四季折々の風景が描かれた本が展示されていた。春の桜並木、夏の海辺、秋の紅葉、そして冬の雪景色が描かれた絵本。それぞれの本の絵と文章が自然の美しさを鮮やかに伝えていた。


「これ……綺麗だな」

 紗月さんが目を止めたのは、雪の中に佇む一本の椿が描かれた本だった。その中に描かれた花の赤が、冷たい景色の中でひときわ目を引いていた。


「いろんな花があるんですけどこの椿の花、一番好きなんです」

 僕がふと漏らした言葉に、紗月さんが声をかける。


「どういうこと……?」

「寒い中でも、しっかり咲いている、まるで紗月さんみたいに」


 その言葉に、紗月の目が潤んだ。

「ふふ・・・・私なんて全然、綺麗じゃないよ」


 謙遜する紗月さんに麻衣子さんが顔を覗き込む。

「あら、紗月は悠人くんの美的感覚、疑ってるの?」

「そ、そういう事じゃないけど・・・・・・」


 部屋の中に僕と麻衣子さんの笑い声が響く。僕らはゆっくりと一つ一つ絵本をみて、それを楽しんだ。


 帰り道、紗月さんが小さな声で呟いた。

「ありがとう、悠人くん。こんな機会を作ってくれて……すごく嬉しい」

「僕にできることなんて本当に少ないけど、またこうして一緒にどこかに行きましょう」

 紗月さんは微笑みながら頷いた。


 その光景を見守っていた麻衣子は、心の中でこの二人が、少しでも前に進めますようにと小さな祈りを捧げた。

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