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RE:HUB  作者: 歪んだ部屋
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第十八章 再会

続きです。悠人と紗月の再会です。

冬の午後、公園は静かだった。

曇天の空が一面に広がり、差し込む光は弱々しい。

冷たい風が枯れた枝を揺らし、地面に積もった葉をささやかに踊らせている。


人気のない広場の隅で、ただ一人僕は電動車椅子を停め佇んでいた。


ダークグレーのニット帽を深く被り、ライトグレーのパーカーの上に厚手のネイビーのダウンジャケットを羽織り、黒のジャージ生地のハーフパンツを履いて車椅子のフットレストにはリハビリ用の黒いスニーカーを履いた左足と膝下から足首まで真っ白なギプスで固定された右足が載せられている。


ダークグレーのニット帽を深く被った頭を上げて物音のしない曇った空を見た。

冷たい空気が頬を刺し、吐く息が白く染まる。


(もうすぐ来るかな……)

期待と緊張が入り混じった思いは、その音が聞こえてきたことによって風に乗ってどこかへ流れていった。


遠くから小さなモーター音が聞こえる。

視線を向けるとヘルパーの千堂麻衣子と一緒に彼女が現れた。

リクライニング式の電動車椅子に乗った紗月の姿に悠人は息を呑んだ。


精密な調整機能が備えられた彼女の特殊な車椅子は、深いグレーのフレームで肩から腰、さらには股関節の位置までを全身で支える設計になっている。

彼女の体は半ば横たわるような姿勢をとっており、股関節への負担を軽減するため足の間を開いた角度で固定されていた。足元のフットレストには両足が慎重に置かれ、足の先まで金属製のギプスで覆われた両足が柔らかなクッションの上に乗せられている。


彼女の服装は冬の寒さに合わせた柔らかで暖かみのあるものだった。

淡いラベンダー色のダウンコートを羽織り、首元には薄ピンクのストールが巻かれている。

車椅子の上には淡いクリーム色のブランケットがかけられ、彼女の小さな体を包み込むようにして寒さから守っていた。

紗月の髪は肩にかかる長さに整えられ、サイドには小さな花模様のヘアピンが留められている。

その控えめな装いが、彼女の持つ静かで穏やかな雰囲気を一層引き立てていた。


麻衣子は黒いダッフルコートを羽織って首元にはグレーのマフラーを巻いている。

濃いネイビーのパンツに茶色のローヒールのブーツを合わせていた。

手には中には保温ポット、予備のストール、ハンドクリーム、そして体位を調整するための小さなクッションが丁寧に収められた紗月のためのトートバッグが握られている。


麻衣子は柔らかな声で挨拶した。

「お待たせしました、悠人さん」

麻衣子さんの話は聞いていたが、思っていたより落ち着いた雰囲気の女性だと感じた。

もちろん良い意味でだ。


「紗月さん……」

何と声を掛けてよいか分からず、僕は一瞬言葉を失ってしまう。

以前よりも痩せて小さく見える彼女の姿に、心を締め付けられるようだった。

しかし、その顔に浮かぶ微笑みは優しく美しかった。


「悠人くん……久しぶり」

紗月さんの声は小さく弱々しかったが、その中には確かな喜びが込められていた。

車椅子を操作し、そっと彼女の隣に寄り添う。


「本当に会えて良かった」

「私も……」


紗月さんは涙ぐみながらも、再会を果たした安堵と喜びが溢れていた。


「手術、大変だったね」

僕の問いかけに、紗月は小さく頷いた。


「うん……思ったより体が動かなくなっちゃって。手術前よりも辛いことが増えたけど……でも、こうして悠人くんに会えて、少し元気になれた気がする」

その言葉に強く胸が締め付けられる。


「僕もさ、リハビリで無理しすぎて、こんな状態だけど……紗月さんとまた会えると思うと、それだけで頑張れる気がする」

なんとか元気づけようと僕は努めて明るく声を掛ける。


「あの......」


そう言った紗月さんの表情が曇り始める。

そして言いだそうとする言葉を躊躇っているようだった。

何か、あったのだろうか。


「ねえ、悠人くん」

「何?」


「手術の前に来宮さんって人が来たんだけど……」

その紗月の問いに、僕は衝撃を受けた。

千夏が、紗月さんの所に?

それより、どうして千夏が紗月が入院している病院を知っているんだろう。


「え……?」

「来宮さんって悠人くんと・・・・・・付き合ってたの?」


紗月の声は震えていたが、その瞳には真剣さが宿っている。

気が動転していたが、なんとか気を取り直す。

紗月さんに言い訳はしたくない。

とにかく、ありのままを答えるしかない。


「千夏は……僕の病院で知り合ったんだ。リハビリ仲間なんだけど、恋人じゃないよ」

「仲間……?」

紗月はその言葉を繰り返した。


「うん。千夏は自分も大変なはずなのに僕の事をいつも気にかけてくれていたんだ。松葉杖を使いながら、僕と一緒にリハビリをしたりして・・・・すごく前向きなんだけど、僕にはちょっと眩しすぎて」

言葉には嘘はない。ただ千夏に対する罪悪感が心を締め付ける。


「そう……」

紗月さんは目を伏せ、視線を横へと向ける。


「私、邪魔だったかな・・・・もし来宮さんのこと気になるなら、私とはもう会わない方が・・・・・・」


「そんなことないよ」

悠人は即座に否定した。


「僕にとって、紗月さんは・・・・紗月さんの方が、特別な存在なんだから」

その言葉に、紗月の頬が少しだけ赤く染まった。


麻衣子は二人の会話に口を挟まず、静かに見守っていた。

しかし、寒さが強まると気遣うように紗月に声をかけた。


「紗月さん、寒くないですか?ブランケットを整えますね」

「ありがとう、麻衣子さん。助かります」


麻衣子がブランケットをかけ直すその仕草は、手慣れていて、それでいてどこか優しさを感じさせた。

日が傾きかけ、空気がさらに冷たくなってきた。


麻衣子が時計を確認し、そっと声をかけた。

「そろそろ病院に戻る時間です。帰りましょうか」


紗月さんは少し残念そうな表情を見せたが、すぐに小さく微笑んだ。

「うん......そうだね」


彼女に向き直り、静かに語りかける。


「また会おうね」

「うん、絶対に」


麻衣子が車椅子を操作し、二人がゆっくりと去っていく様子を僕は見送る。

紗月さんが振り返りながら力なくすこしだけ手を上げ、僕も彼女に向けて手を振った。


「紗月さん・・・・・・また」

冷たい風が吹き抜ける中で、僕は紗月さんに再び会えるようにと心の中で願った。

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