第一章 向かい合った車椅子
ストーリーの原案を考え、それをチャットgbtを使用して書かせたものですが、全くもって上手くいかなかったので、ほぼ自分で書き直したものです。とは言え所々変な表現が散見されると思います……私の実力不足でございます。確認しながら少しずつ載せていきたいと思います。
秋の夕暮れ、柔らかなオレンジ色の光が街中を包み込む。
彼女は人気の少ないカフェのテラス席で人を待っていた。
簡単に肩の下でまとめられた茶色のロングヘア。顔立ちは穏やかで優しい印象を与えるものの、頬が少しこけ、僅かだが病的なものを感じさせる。その身体を支える電動車椅子は、長年の使用でところどころ擦り切れた跡が見える。
彼女が着ているのは、シンプルなアイボリーのニットと、膝まで届くワインレッドの柔らかい素材のスカート。体を覆う服の下は、関節の変形によって突き出た手足のラインがそのまま現れている。
両手は、指がゆがみ、まっすぐに伸ばすことができない。
手首の角度も不自然に曲がっており、飲み物を飲むために用意されたストローを掴むことすら容易ではない。そのため、手元には小さな補助具が装着されている。両足もまた膝が内側に曲がったまま固まり、電動車椅子の足置きに固定されている。
彼女は震える指でスマートフォンを操作しながら、小さく息をつく。
『着いたよ』
病気を発症してからほとんど家の中に閉じこもっていた。高校生の頃、突然原因不明の症状に襲われ、関節が変形し、痙性麻痺によって動きが制限されていった。外出するのは、病院に行く時か、ヘルパーと一緒に短時間散歩をする時だけ。今日のように一人で誰かに会うことなど、何年も経験していない。
そのせいか、心臓が早鐘を打っているように感じた。
「悠人くんって、どんな人なんだろう……」
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カフェの少し離れた歩道。
黒髪を短く整えた、大人びた顔の中にもまだ幼さの残る青白い顔の少年が、ひじ掛けに備え付けられたレバーを使って電動車椅子を操作していた。
顔には緊張とわずかな迷いが浮かんでいる。
ネイビーのパーカーに黒のスウェットパンツというラフな服装にしたのは本当に良かったのか、僕は未だに迷っていた。
足元には運動靴を履いているが、ほとんど飾りのようなものだ。右足は松葉杖を使っていた名残で補装具が装着されており、左腕も手首の動きがどうしてもぎこちなくなってしまう。
黒い車体の僕が乗る電動車椅子は、最近購入されたばかりの新しいモデルだ。背もたれに掛けられた黒いバックパックには母親が用意した飲み物や行動食が入っている。
(……ちゃんと話せるかな)
心の中でそう呟く。
交通事故で全身を骨折して以来、生活は家の中に閉じこもる日々だった。
どこにいても周りの視線を浴びるのが嫌で仕方がなかった。
それでも、今日会う紗月さんとSNSでの会話を重ねるうちに、少しだけ前を向いてみたいと思うようになった。
カフェに到着し、テラス席に座る紗月さんを見つける。彼女はスマートフォンを膝の上に置き、こちらをじっと見つめていた。その目はどこか不安そうだったが、どこか優しい光も宿っている、そんな気がした。
「紗月さん……ですか?」
声をかけると、少し驚いたように顔を上げて彼女はぎこちなく微笑んだ。
第一印象はとにかく綺麗な人だな、だった。
それ以上の表現は僕の語彙の拙さでそんな風にしか表せない、そんな自分が恥ずかしかった。
「あ、悠人くん...かな?初めまして、だね」
彼女の声は柔らかかったが、少し震えているのがわかる。
「初めまして……今日は、来てくれてありがとうございます」
僕もまた、言葉を選びながら頭を下げた。
僕の挨拶は自分でもなんだか不自然な感じだったけど、紗月さんは微笑みを浮かべて挨拶をしてくれた。
「こちらこそ、ありがとう。誰かとこうやって会うの、私も久しぶりだから……なんだか、ちょっと緊張してる」
「僕もです」
僕たちはぎこちなく笑い合った。
飲み物の注文を終えると僕たちは少しずつ会話を交わし始める。
「紗月さん、普段はどんな生活をしてるんですか?」
紗月は少し考えてから口を開いた。
「私は……ほとんど家にいるよ。病気になってから、外に出るのが怖くなっちゃって。ヘルパーさんが来てくれるとき以外は、自分の部屋で音楽を聴いたり、SNSで話したり。それくらいしかしてないかな」
彼女はそう言いながら、少し肩をすくめる。
「そっか……僕も、似たような感じです。事故にあってから、ずっと家で過ごしてて。外に出るのは、病院か、リハビリくらいで……」
紗月さんは僕の様子をじっと見つめながら、小さく頷いた。
「……こうして会えたのは、嬉しいよ」
彼女の言葉には、優しい響きがあった。その一言に、僕は少しだけ顔を上げる。
「……僕もです。紗月さんと話してると、なんだか気が楽になるというか……自分のことを隠さなくていいって思えるんです」
紗月さんはその言葉を聞いて、小さな笑みを浮かべる。
「そう思ってくれるなら、私も嬉しいな」
夜の帳が少しずつ降りる中で、会話は静かに続いていく。電動車椅子の背もたれが並ぶその光景には、わずかだが新しい希望の光が灯っているように感じられた。
カフェのテラス席で、二人の会話は少しずつ弾み始めていた。柔らかな夜風が、テーブルに置かれた飲み物の氷をカランと揺らす音を運んでくる。
紗月さんがストローに口を寄せ、慎重にミルクティーを吸い込む。
手元の動きは震えてぎこちない。彼女はふとストローを口から離し、少し笑いながら言った。
「こうやって飲むのも、昔はすごく苦労したんだよ。手が震えるから、何度も飲み物をこぼしちゃって」
僕は彼女の言葉に少し目を見開いて尋ねた。
「今は、その……慣れたんですか?」
「うん、慣れたというか、こうやって補助具を使うのが当たり前になったのかな。ほら、これ」
紗月は右手に装着した軽いプラスチック製の補助具を見せた。それは指を固定し、ストローやスプーンを安定して握れるよう工夫されたものだった。
「こういうのがないと、手の形が変わっちゃってるから物が掴めなくてね。握力もほとんどないし、ボタン一つ押すのにも時間がかかっちゃう」
彼女はそれを淡々と話したが、僕はそんな風には話せなくて少し表情を曇らせた。
「そうなんですね……僕も、左手はあんまり力が入らなくて。事故のときに骨を折って、いまだに完全には治ってないんです。指を動かすのが難しいこともあって、箸を使うのもたまにうまくいかないです」
そう言って、ぎこちなく左手を開いてみせた。
紗月さんはその動きをじっと見つめて、小さく頷く。
「お互いに、いろいろと工夫が必要だよね。でも、なんだか話を聞いてると安心する。『自分だけじゃないんだ』って」
彼女の言葉に、僕は小さく笑みを返す。
「右足は今、完全に動かないです。膝の骨がひどく折れて、筋肉も衰えちゃって……固定するための装具をつけてます」
車椅子の足置きに乗せた右足を少し動かそうとしたが、まったく反応しない。
「左足は少しだけ動くけど、歩くのは無理ですね。リハビリでも『筋肉を維持するだけ』が目標になってて」
彼女にはあまり見せたくなかったが、諦めと少しの虚しさが言葉のどこかに混じってしまっていた。
紗月は小さく頷き、真剣な表情で話を聞いていた。そして、自分の足元に目をやる。
「私も似たようなものだよ。高校生の頃、最初は足が思うように動かないくらいだったんだけど……今はもう完全に麻痺してる。膝が内側に曲がったまま固まっちゃって、足首も内側に変形してるから、リハビリで動かすのもほとんど意味がないって感じだよ」
紗月は淡々と語ったが、その視線は少しだけ遠くを見つめていた。
「本当は歩く練習もしたかったけど、先生に『無理にやると負担になる』って言われて。だから、電動車椅子が今の私の足なんだ」
彼女は苦笑しながら、ゆっくりと車椅子のスティックを動かして見せた。
それを見て、小さく息を吐く。
「紗月さん、すごいですね。そういうの、ちゃんと受け入れて生活してるのが……僕はまだ、なかなか受け入れられなくて」
その言葉に、紗月さんは少し驚いたように眉を上げた。
「私だって、最初はそうだったよ。歩けなくなったのが怖くて、誰にも会いたくなくて。家から一歩も出たくなかった」
彼女の言葉が胸に深く響く。
「今でも……正直、外に出るのは怖いよ」
紗月さんは小さく息を吐き、続けた。
「こうやって誰かに会うのも、勇気がいる。でもね、悠人くんと話してると、少しだけ気持ちが軽くなる。『私のことをわかってくれる人がいるんだ』って」
その言葉に、僕はびっくりして顔を上げた。
「……僕もです。紗月さんや身体が不自由なんだけど、頑張ってる人たちと話してると、自分だけじゃないって思えるんです」
そう言いながら、照れ隠しに笑った。
カフェの前の歩道に、二人の車椅子が静かに並ぶ。
「普段の生活、大変なことばかりだけど、こうやって話すだけで少し気が楽になるね」
紗月さんがそう言うと、僕は小さく頷いた。
「はい。僕も、紗月さんに会えて良かったです」
カフェを出た二人は、公園に向かってゆっくりと並んで進んでいた。夜風が少し冷たく感じられる中、街灯の明かりが二人の影を長く伸ばしている。
「今、一番やってて楽しい事って何ですか?」
僕の質問に、紗月は顔を少し上に向けて、はにかみながら答える。
「うーんとね、身体が不自由になる前からなんだけど、絵本を読むのが好きなの。絵本って子供が読むものってイメージがあるんだけど大人向けのものもあって、すごく絵が綺麗だったり、口に出すとなんだか心が温かくなる言葉が書いてあったり・・・つらい事が多くても、それを読むと落ち着いた気持ちになるんだ」
「そうなんですね・・・なんか紗月さんにすごく似合ってる気がします」
「悠人くんが一番得意なゲームってなに?」
「事故に遭う前はネットで対戦するゲームばっかりやってたんですけど、今はスマホとかタブレットで手を動かさない簡単に操作できるものとか、街や村を作るシュミレーションゲームとかが好きですね。・・・・・・なんか、つまんない趣味ですいません」
「そんなことないよ。今度私に好きなゲーム教えて欲しいな」
「色々あるんですけどね・・・なんかゲームって結構やりすぎちゃうから、なんか、夜更かしすぐしちゃって・・親にも結構怒られるんです・・あんまり良くないですよね。こういうのって・・・」
「ふふっ…わかる。好きなことって時間を忘れてやっちゃうんだよね。それ、私も同じだよ。」
僕たちはそう言いながら、似たような悩みを共有していることに少しだけ安心感を覚えていた。
夜の公園に到着すると、二人は小さな噴水の前で足を止めた。公園のベンチに並ぶように車椅子をつける。夜空にはいくつかの星が輝いている。
「ねえ、悠人くん。」
ふいに紗月の声のトーンが少し下がる。
「今まで・・・恋愛とかしたことある?」