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8.実験

「正気か?」

「当然。今確かめておくことは、姫様のためにも不可欠なのだし」

「だからって、敢えて主に毒を飲ませようってのか?」

「毒の扱いに長けている私たちなら、死なせない配分だって心得ている。身体への反応を見るだけなら、致死量の五分の一程度で十分。吐剤も手持ちにあるし、何も問題はないわ」

「そういうことじゃないだろう!!」

 雛芥子に掴みかかろうとした陽炎を、椿姫が裾から外した刀を鞘ごと振りかざして止めた。

「……姫様」

「良いよ、中途半端なままじゃ私もすっきりしない。あの時私が助かった理由を、仮説じゃなく本当に理解するにはこれしかないと思う」

「ですが、万が一……!」

「私だって、死ぬつもりなんてない。そのために、二人がいるんだよね」

「その通りです、姫様。姫様のお命、この雛芥子がお預かりいたします」

「うん、よろしく頼むよ」


 ローズハイムにおける『選定の儀』を行おうと言う雛芥子の提案に、椿姫は少しばかり驚きながらも乗ることにした。自身に流れる血について、真実を知っておきたいと思ったから。


 手持ちの毒を水で溶いて、果実水に混ぜ込む。マドラーでかき回せば、異常は何も見当たらないただの飲料になった。恭しく手渡されて、椿姫はまず匂いを嗅いでみた。果実の爽やかな香り以外、何も感じられない。

「毒が入っているとはとても思えないね。こうして実際に試してみると、毒殺って本当に防ぐのは難しいな」

「だからこそ、多用される手段でもあるのでしょうね。尤もこれはせいぜい、気分が悪くなる程度の筈ですが。万一のため、洗浄の水も大量に用意しましたのでどうぞお試しを」

「……」

「姫様?」

「これを飲んで何ともなければ、完全な証明になる?」

 椿姫の真剣な問いに、雛芥子も考えた上で真面目に答えた。

「完全と言われますと、難しいですね。人並み以上の耐久力があるのは違いないでしょうが、無効化については不十分であるかと」

「だったら十分なレベルまで上げてくれないか?」

「姫様!!」

 陽炎の制止を無視して雛芥子をじっと見つめると、手からグラスが離れて追加で粉末が投入される。マドラーで再び混ぜてから戻された。

「これは常人なら確実に異変が現れる量です。体の大きさによっては致死量で、下手をすれば死にます」

「おい、いい加減にしろ!! いくら何でも……あっ!」

 フルートグラスの中身を躊躇いなく流し込むと陽炎は目を剥いたが、当の椿姫は落ち着いたもので目を閉じそのまま効果の是非を待った。一分、二分、と緊迫する時間が経過して五分ほど経った頃、椿姫が目を開けて空のグラスを回しながら雛芥子を見た。

「体調の変化はないよ、気分も悪くない」

「舌や体に痺れなどは感じませんか?」

「何も。これで証明になる?」

「十分すぎるほどですね。遅効性ではありませんから、この時点でまったく効き目がないなら無効化されたとしか考えられません」

「と言うことは、私は紛れもなく『女神の祝福』の継承者ということだね」

 満足した様子の指先から、陽炎がグラスを奪い取った。

「……何で、こんな無茶をするんですか? 姫様もそいつも、どうかしてる」

「ごめんね?」

 軽い謝罪にさらに腹が立って、陽炎はグラスをテーブル叩きつけるように置いた。

「俺に謝る必要なんてありませんよ、ただの従者ですから」

 吐き捨てるようにそう言って、音も立てずに陽炎は瞬時に姿を消した。

「どうしよう、雛芥子。怒らせちゃった」

 毒は平然と飲み下したくせに、側近が腹を立てたくらいでおろおろしている椿姫が雛芥子にはおかしかった。

「大丈夫ですよ。ちょっと拗ねているだけで、すぐに戻って来ます。姫様のお側以外に、あれの帰る場所なんてありませんから」

「そう……かな。でもやっぱり心配だから、探してくる」

 あたふたと駆けだそうとした椿姫に、雛芥子が声をかけた。

「でしたら、これをお持ちください」

 外しておいた愛刀を差し出すと、椿姫は頷いて受け取り佩刀した。

 年相応に慌てている椿姫を見送りながら、雛芥子は陽炎と自分が側近に取り立てられた当時のことに想いを馳せていた。

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