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7.方針会議

 部屋外の見張りの目をかいくぐって、陽炎は雛芥子と共に離れに現れた。


「一体どうやって、こんな自由に出たり入ったり……」


 陽炎の脱いだ自分の服に着替えながら、空恐ろしいような目で忍び二人をねめつけていたエルダーは、支度が終わると当然の疑問を口にした。

「で、俺はどうやって元の部屋に?」

「自分の足でどうぞ」

「はあ!? 連れ出したのはそっちなんだから、帰る時も何とかしてくれるんじゃないのか?」

「身代わりがいる状況で地味な姿で出る分にはいくらでも偽装できますが、その派手な衣装で本人が戻ることは想定しておりませんので。まあ理由は適当に、堂々と入口からお戻りください」

「雑だな……」

 扱いに嘆きながらも、エルダーは素直に離れを出て行った。三人だけになると、椿姫は露骨に脱力した。

「後継者が確定してしまった以上、ここに居ても無駄かな。どうせ邪魔者扱いされるだろうし、早めに帰ろうか」

「俺はそれが良いと思います。葬儀については国事になるでしょうから、後日改めてとなるでしょうし。出直す方が姫様にとっては楽でしょう」

「……陽炎は私が女王になり損ねたこと、少しも残念じゃないんだね」

 不貞腐れたような視線を、陽炎は不可解な様子で受け止めた。

「ここに辿り着く前の馬車の中でも申し上げたことですが、俺は正直姫様が国主の地位に拘られる理由が分かりませんので。国内を跡目争いで乱すことも、本当のところ賛同はいたしかねます。リセリア様のことは俺も驚きはしましたが、別の方法で明らかにすればよろしいかと」

「母上のこともそうだけど、国主になれなければ必ずどこかの誰かに嫁ぐことになるよ」

「ローズハイムの女王になったとしても、国を出ることに変わりはないじゃありませんか。どこへ行かれようと、俺は永遠に姫様の従者です。共に参りますよ」

「それじゃ、ダメなんだよ……」

 どこか恨みがましい様子でぶつぶつと繰り言を言っている椿姫を、陽炎は不思議そうに眺めた。二人の嚙み合わない様子を、雛芥子が口を挟んで打ち切った。

「さて、姫様。本当にこのままお帰りになりますか?」

「まあこれ以上は、部外者が口を出すことでもなさそうだし」

「そうですか。でも先ほど知ったばかりの知識について、もう少し詳細を調べておきたいとはお思いになりませんか? このまま蒼月に帰ってしまったら、触れる機会はないかもしれませんよ」

「祝福――について? そう言えば私も、毒が効かない体質ということになるのかな」

「それだけではありません。姫様は、誰から受け継いだことになるのでしょう?」

「それはもちろん、母上から……」

 言いかけて、椿姫はそれがエルダーの説明と矛盾することに気が付いた。

「一親から、一子に。なのに母上と叔母様は、同じ先代女王を母親としながら、二人とも祝福を受け継いだことになる」

「はい。ただ姉妹と言っても、お二人は双子です。出産が同時なのだから、例外としてあり得そうな話ではあります」

「体質自体を他国に出すことについては、タブーではないということなのかな?」

「あるいは、国も知らなかったのではありませんかね。受け継ぐのが常識的に一人と決まっているなら、選定の儀とやらでベアトリクス陛下への継承が確認された時点で、リセリア様を調べる必要はなかったでしょう」

「そうか……選定と名が付くからには、体質を受け継いだ人間を見つけ出すことが目的だものね。死なない程度とは言え、ほぼ可能性がないと思っている子供にわざわざ毒を飲ませるほどこの国もイカレてはいないか」

「恐らくは。そしてそのイカレているかもしれないことですが――」

「なに?」

「姫様は、試してみたくはございませんか? ご自分が、本当に女神の祝福を受け継いでいるのか否か」

「……は?」


 艶やかに微笑った雛芥子の顔を、椿姫は一瞬わけがわからずポカンと見返した。

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