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第1話

桜が咲き始めた4月頃

ここ極聖天高等学院に新入生が入学し、校内は以前より賑やかになっていた

去年の極聖天学院には3年生がいなかった

新しく設立された学校ということではなく、その学年だけがぽっかりと空いていたのだ

なぜそうなったのか……その理由は他の学年の生徒はもちろん、教師すらも知らない

宇宙人に連れ去られてしまい、教師達は記憶を消されてしまっただとか異世界に迷い込んでしまっただとか、はたまたどこかの研究所に拉致されただとか、校内でも噂は絶えず、都市伝説としてうちでは名物になっている

~~~~~

ここは極聖天学院の弓道場

弓道部が朝練に励んでいる

「…………」

黒髪のベリーショートで中性的な見た目をした少女

彼女の名は「八岐キセキ」(やまたのきせき)学年は2年

トッ!

矢が的に的中する

「…………」

~~~~~

弓道部の朝練が終わり、制服へと着替える

「最近、調子いいね」

一人の少女が声をかけてきた

彼女は同じ弓道部で同級生の「籠目マキ」

「籠目!」

「頑張ってね!期待してるぞ」

「ありがとう!」

~~~~~

2年1組のクラス

「おはよう、モナカ」

キセキの前の席で机に突っ伏している少女「愛須モナカ」

「お~はよ~…」

気だるそうに挨拶を返す

「…………」

「え?どうして「モナカ元気ないね?どうかしたの?」って聞いてくんないの?」

「いや、そんなこと言われても…」

(大体朝はいつもそんなんじゃん)

そう思ったが、心の中に留めて口にはしなかった

「ねぇ聞いてよ!私、高校生なのに全ッ然エンジョイ出来てない!」

「聞かなくても話すのかい」

つい口に出てしまった

「キセキが聞いてくんないからじゃん」

「それで?エンジョイってのは…何?」

「だからさ~私、部活も入ってないしさ?彼氏もいないしさ?キセキもずっと部活な訳じゃん」

「う~ん、そうだね…?」

「高校生だよ?春だよ?何のイベントも無いっておかしくない?」

「だったら部活に入ればいいんじゃない?」

「モナカだって中学の頃は美術部だったじゃん」

「嫌だよ、ここの美術部の先生嫌い」

「そういうこと…」

「ね~え~、キセキもさ~部活ばっかじゃなくて遊ぼうよ~」

モナカといると自然と笑顔になる

「また今度ね」

「絶対だよ?約束だよ?」

「分かったよ」

~~~~~

「…………」

放課後に一人、ぼんやりと窓から外を眺めるキセキ

「な~に見てるの!」

誰かが後ろからキセキに飛びかかる

「もぅ~モナカ!」

「えへへ!ん?おやおや~?」

「あそこにいるのは帝先輩では?」

「宝月帝」(たからづきみかど)学年は3年

どこか女性的な顔立ちの彼は学校中の女子から注目の的となっている

「キセキ殿、本当にお好きですな~」

「な…たまたま外を眺めてたら帝先輩が来ただけだよ!」

「本当~?怪しい匂いがするでござるよキセキ殿~」

「こら!」

キセキがモナカの頭を軽く叩く

「あうっ!もぅ~冗談だって……キセキ?」

「…………」

キセキがまた外を眺めている

視線の先には帝先輩と仲良さそうに話す一人の女子生徒がいた

「あの人…確かキセキと同じ弓道部の…」

「籠目…」

(籠目は剣道部の帝先輩と幼なじみらしい…)

そのことを思い出しながら、楽しそうな二人を眺める

「……やっぱ私には無理だな」

「どうして?」

「え?あ…もしかして声に出てた?」

「思いっきりね」

「は…恥ずかしいな…」

「私はキセキと帝先輩…お似合いだと思うけどな」

「そんなことないよ…私女の子っぽくないし…」

「それに籠目は綺麗だし…」

「らしくないなあ~」

「え?」

「やらない理由を考えるなんてキセキらしくない!」

「そう言われても…」

「私はキセキが一番女の子してると思うよ」

「ど…どういう意味?」

「窓の外眺めて、つい好きな人に目がいっちゃうなんて!」

「このこの!可愛いやつめ!」

「私が言いたいのは外見の話で!」

「キセキの思い描く帝先輩は人を見た目で判断する人なの?」

「いや…そうじゃないけど…」

「ほ~らほら!もう言い訳は出来ないぞ!」

「さあ!今日こそいったれ!」

「いったれって…?」

「眺めてるだけじゃ何も始まらないでしょ?別にいきなり告白してこい!とは言わないからさ!連絡先の交換だけでもしてきなって!」

「モナカ…」

「…背中押してくれてありがと」

「気にしなさんな!頑張れよ!」

「うん、分かった」

タタタタタッ!

階段を駆け足で降りていき、帝先輩の元へ駆けていく

「はぁ…はぁ…」

(今日こそ進展させよう…いつもと同じ日々を繰り返すだけじゃ駄目なんだ)

帝先輩の姿が見えてくる

ドクン…ドクン…ドクン

その途端、鼓動が強くなる

(駄目…緊張しちゃう…)

思わず物陰に隠れる

「ねぇ?帝」

籠目の声が聞こえる

「なんだい?」

「実は…話があって」

(……籠目…話ってまさか…)

「これ…」

籠目が何かの紙を見せる

その紙が一体何の紙なのか、遠くからではよく見えない

「それは…!?」

帝先輩が驚く

「そっか…籠目の所にも届いていたんだね」

「分かった…こっちへきて」

2人がどこかへ向かっていく

(…ついていっても大丈夫かな…?)

バレないよう2人の後をついていく

2人が行き着いた場所はグラウンドの倉庫

その倉庫は既に使われてはいない

帝先輩が鍵を開けて扉を開く

すると倉庫から光が溢れ出る

「行こうか」

帝先輩と籠目は倉庫の中へと進んでいく

「…………」

~~~~~

私はここで退けば良かったんだと思う

今見たことは全部無かったことにして、いつも通りなんてことない毎日を過ごす

窓から帝先輩を眺めるだけの日々

それで良かったんだと思う

でも私は踏み出してしまった

~~~~~

光の中は一瞬のようにも感じたが長い間歩いていたようにも感じた

光を抜けた先、そこには巨大なステージが広がっていた

赤い空の下、奥には1つだけ玉座があり、ステージの真ん中に2人が向かいあった状態で立っている

咄嗟に物陰に隠れ、様子を伺う

「では始めよう」

帝先輩と籠目が手にしている物

それは剣だった

「はああ!」

籠目が帝先輩へ切り掛かる

ガキッ!

帝先輩がそれを防ぎ、剣と剣がぶつかる

「何これ……劇か何かの練習……?」

突然の出来事に今起きている事態を理解出来ていない

どうして倉庫の中を進んで、このような場所に辿り着いたのか

そもそもここはどこなのか

何故2人が戦っているのか

理解は何一つ出来なかった

「流石だね籠目…今まで戦ってきた中で一番腕があるよ」

「けど…」

ドシュッ!

「え…?」

帝先輩の剣が籠目の胸を突き刺す

「それでも一歩足りない…か」

(嘘…帝先輩が…籠目を…)

ガタッ…

思わず物音を立ててしまう

「!?」

「誰かそこにいるのかい!」

帝先輩が音に気づいた

(やばい…逃げなきゃ!)

急いで来た道を引き返す

「はぁ…はぁ…はぁ…」

倉庫から抜け出し、校舎の中へ入る

(帝先輩が来てる…どこかに隠れなきゃ…)

そのとき…

「!?」

2年1組の教室から手だけが出ており、何者かに手招きされる

のんびりしていると帝先輩が来てしまう

(行くしかない…!)

キセキは教室の中へ駆け込んだ

「!?……ここは……!?」

しかし、足を踏み入れた先の景色はいつもの教室の中ではなかった

広大な緑の野原、そして…

「赤い空……倉庫の中で見た空と同じだ…」

「お待ちしておりました、キセキ様」

後ろから声がかかる

振り向くとそこには一人の少女がいた

「あなたは…?」

「私はアルヴェーニョと申します」

「アルヴェーニョ……変わった名前だね」

「ここは一体…?」

「ここは冥界…死後の世界です」

「死後の世界…!?まさか…じゃあ私は死んだってこと!?」

「ご安心ください、キセキ様は今、魂のみがこの世界に入り込んでいる状態です」

「キセキ様の身体は元の世界と冥界の狭間にある状態ですので追手に見つかることもございません」

「駄目だ…ちょっと混乱してる…」

「突然のことで驚かれたでしょう、けれどキセキ様には知っておいていただきたいのです」

「この世界のこと、先の決闘のこと、そして…」

「キセキ様自身のことを」

「どういうこと…?」

「一つずつ、ご説明させていただきます」

「まず、この冥界は先ほども述べました通り、死後の世界となっております」

「そして元々は冥界の王であるユニウス様がこの世界を統治しておりました」

「冥王ユニウス様が君臨していた時代、冥界は荒れ果てており、現世へ赴いては度々抗争を起こしておりました」

「冥王ユニウス様の力は凄まじく、人類はまともに太刀打ちすることが出来なかった」

「しかしある時、1人の人間が冥王ユニウス様との決闘に打ち勝ち、その首を取ったのです」

「その人間の名は宝月命」

「宝月って…!?」

「ええ、そうです 宝月帝の祖先です」

「その後、宝月家は冥界の王として君臨し続けました」

「しかし、ユニウス様の呪いにより、宝月家の血筋は皆、短命となったのです」

「子孫のみで冥界の王を引き継いでいくことが困難となった宝月家は現世と冥界を繋ぐ場所に学校を建設することにしました」

「それが極聖天学院です」

「学院の建設後は生徒が冥界の王を引き継ぐこととなり、今は宝月帝が引き継いでおります」

「そして、先ほどキセキ様がご覧になられた決闘…あれは次の冥界の王を決めるための決闘です」

「帝は3年生となり、来年で卒業する為、冥界の王に相応しい実力を持った者を探しているのです」

「それが…あの…」

先の景色がフラッシュバックする

「!!……籠目は!?」

「はい?」

「籠目はどうなったの!?」

「さっきの決闘で帝先輩の剣が胸に刺さって……」

「もしかして……死んじゃったの……?」

「キセキ様、ご安心ください」

「ここは魂のみの世界です」

「剣を突き刺したとしても身体を突き抜けるだけで負傷することはありません」

「……良かった…」

安堵で力が抜け、地面にへたり込む

「とりあえず、この世界のことは何となく理解できた…かな?」

「それは良かったです」

「でも、どうして私にその話を?」

「それはキセキ様に、あるお願いがあるのです」

「お願い…?一体なに?」

「帝との決闘に勝ち、新たなる冥王となっていただけませんか?」

「え…私が?どうして?」

「キセキ様には冥王ユニウス様の血が流れているからです」

「え…?」

「冥王ユニウス様も元々は人間…そして人間だった頃のユニウス様はキセキ様の祖先にあたるのです」

「私たち死人は今、ユニウス様と共に現世で抗争を起こしたことから、罰として自由を許されなくなり、宝月家の管理下に置かれております」

「しかし、当時ユニウス様と手を組んでいた者はもう既に存在しておらず、今の私たちは争いを起こすことを求めていないのです」

「ただ縛りのない穏やかな生活を送りたい…それだけの願いなのです」

「…………」

「そこでユニウス様の血を受け継ぐキセキ様に冥王として君臨していただき、私たちを解放してほしいのです」

「……あなたの言い分は分かった…けど…」

言葉に詰まる

キセキにはいかんせん、動機がない

しばらくの間、黙り込んでいると…

「君はこの話を受けざるを得ない」

後ろから男性の声がした

振り返ると銀色の長い髪をなびかせた長身の男が立っていた

「俺は「ネヴァー」この冥界で暮らす死人だ」

「……受けざるを得ないってどういうことですか」

「簡単な話だ」

「君がこの話を受けなければ、俺たちは自由を手にする為、もう一つの手段として……」

「宝月帝を殺すことになる」

「…………」

キセキには分かる

この男は自分が帝先輩に対して、思いを馳せていることを知っている

その上でこの話を持ちかけてきた…

これは「要求」ではなく「脅迫」だ

それに気づいたことを感じ取ったのか、ネヴァーが続けて口を開く

「君が冥界の王になることは、何も我々にとってだけのメリットじゃない」

「当然、次の後継者を探している宝月家にとってもメリットになる」

「君が冥王になる…それは一番平和的で誰もが幸せになれる選択なんだ」

「…………」

キセキは目を瞑って、深く息を吸って、ゆっくりと吐いた

そして一言、こう告げた

「分かった、引き受けるわ」

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