07話 矜持?そして新居
誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい
静かに建物を出る。
背後では、今だ少女の泣き声が響いている。
「やれやれ、とんだ事態になったものだ……」
俺は人間界にはニートになりに来ただけなんだがな。
きまぐれなんか起こすべきではなかったか?
……。
「あ……、銀貨貰うの忘れた……」
「銀貨がどうしたんですか?」
!
「え、エル!」
いつの間にか、出口の近くにエルが控えていた。
顔には、珍しい物を見ました♪、と書いてあるような気がする。
「ご主人様、悪魔が人助けですか?」
……あー、うー。
どうにも、決まりが悪い。
というより、恥ずかしい。
「いや、その、なんだ、ちょっとした気まぐれさ、気まぐれ……(汗)」
「ふふ、いいじゃないですか。元々悪魔らしくないご主人様がさらに悪魔らしくなくなりましたけど、『袖振り合うも多生の縁』ですよ♪」
エルがクスクスッと笑っている。
……。
どうにも、話題の転換の必要性を感じる。
「あー、その、なんだ……、建築ギルドの方はどうなった?」
「はい、交渉は万事上手く行きましたよ。町外れにある一軒屋を買い取りました。以前は貴族の別邸だったらしいのですが、先日新しい館を建てたので貴族がこの町に寄付した物です。多少高くつきましたが、ご主人様の懐事情を考えれば多少高くついても問題ないでしょう」
「うーむ、ま、いっか。じゃあ、行こうぜ」
今更、多少の金を惜しむようなことはしないさ。
「分かりました。案内いたします」
「あいよ、頼んだ」
「はい」
……。
「ところで、ご主人様、私と別れてから何があったか説明してもらって宜しいでしょうか?」
……ニゲラレナカッタ。
「えーと、説明しなきゃダメ?」
「はい♪」
「あはははは、もう、エルは嫉妬深いだから♪」
ギリギリギリッ。
「ご主人様、私はご主人様の生活を補佐する役割があります。……だからご主人様は私の問いに嘘偽りなしで、答えろ♪」
「痛い、痛い、痛い!わかりました、わかりましたから、アイアンクローは勘弁!(泣)」
「あら、いやだ。私としたことが、ついうっかり、おほほほほ♪」
ゼェゼェ。
息が荒い。
……俺は知っている。
以前、魔界の城でエルを押し倒そうとした、アスモデウスの色欲魔が、……エルに男の象徴と頭蓋骨をアイアンクローで握り潰されたのを……。
魔界有数の大悪魔の絶叫が今だ耳にこびりついて離れない……。
「ご主人様♪(ニコッ)」
ガクガクブルブルッ。
「答えていただいても宜しいですか?」
「い、イエス・マム!」
……。
「なるほど……。しかし、いよいよ悪魔離れしてきましたね、ご主人様」
「あー、うー」
「ふふ、いいではないですか。しかし、私に隠そうとした理由がわりませんね。別に隠すほどでもないでしょう」
「いやぁ、まぁ、そうなんだが。やはり、元・魔王がらしくない感情を抱いたなんて、悪魔としての矜持がだな……」
「それで誤魔化そうとしたんですか?」
「うむ……、いち悪魔としては、ちょっとな……」
後半は言葉が小さくなって聞こえたかどうか。
「『矜持など知らん、俺はニートになる』がご主人様の言葉ではありませんか。いいじゃないですか、そんな悪魔がいたって」
「……そうか」
「はい♪」
ちなみに。
「それに、ご主人様に矜持なんて、あっても意味がありません♪(キラッ)」
「グハッ!」
俺は血を吐いて倒れ付した。
…………ヒドイ(泣)。
「ここか」
「はい」
目の前にそれなりに大きな建物が鎮座していた。
全体的に白色と青色が大部分を占める。
土地の広さも、そこそこのものだ。
「元々はクリスタルクラウンのモリオンという町に住んでいる貴族が立てた物だったのですが、最近別の町に新しい別邸を作ったのでこの屋敷を放棄した、とのことです。流石は有力貴族だったらしく、内装はそこそこ残していってくれたそうですよ」
「ふーん。ま、俺には寝る場所と食う場所があればいいや」
「ふふ、わかりました。では部屋を決めましょうか。屋敷自体は建築ギルドの方で定期的に清掃はしていたのでそのまま使える、とのことです」
「あいよ」
有力貴族が建てたということだけあって、内装はしっかりしたものだった。
この時代では珍しい黒檀らしき木材をふんだんに使用している。
階は全部で上三階の地下一階の、上下四階だ。
部屋数は数えてないから知らんが、おそらく二十近くはあるのではないだろうか。
しっかりとした風呂があったときは驚いたものだ。
この世界では、入浴の習慣はローム大陸のジパングぐらいしかない。
後は、書斎やリビング、厨房、食料庫、ワイン倉などもあった。
ついでに……、隠し部屋も発見した(笑)。
……。
おそらく、貴族が妾を連れ込んでいただろう部屋だ。
中には、豪華なドレス、手紙の束、妾を描かせたらしい肖像画などが残されいた。
しかも大量に。
いくら情欲を否定ない俺でも、流石に苦笑した。
「おいおい、奥さんが誰か知らんが、こんなもんばれたら殺されるんじゃね……」
女の情念は、悪魔の俺でも恐ろしいものがある。
「……………………………………………………まぁ、見なかったことにしよう」
パタンッ。
少ししてエルがたずねてくる。
「ご主人様、お部屋は決めましたか?」
「おう、最上階の一室にするわ」
「三階ですね、わかりました。ところでこの屋敷と敷地の霊的防御や設備は私が勝手に設定しても構いませんか?」
ふむ……。
人間界なら、悪魔より天使の手による結界のほうがいいだろう。
「ふむ、……OKだ。悪魔の俺がやるより、天使のお前がやったほうが人間や天界にばれなさそうだしな」
「わかりました。ではこれから加護や結界を張ります。その後は食材の買出しにも行くので、何か欲しい物があったら今のうちに言っておいて下さい」
ふむ、欲しい物か……。
!
「わ」
「猥本はダメですよ、ご主人様♪」
……。
「に」
「肉奴隷とか言ったら、殺します♪」
……。
「女物のした」
ガシッ、ギリギリギリギリッ!バキィッ!
バタンッ。
ビクンッ、ビクンッ。
「では、結界などを張り終えたら食材の買出しに行ってきますね♪」
………………どうにも光の矢ではなくアイアンクローだったのは建物の損害を考えてのことだったらしい。
……ありがたいことだ。
とりあえず、頭蓋骨の修復に約一時間近く費やした。
……グスッ(泣)。
……。
「ご主人様、お夕飯ですよ」
そんな声がかかるまで、俺はリビングの片隅で子リスのようにプルプルとふるえていたのだった。
……。
夕食後に一言。
「ああ、憧れのニート生活……」
ようやく、手に入れたニート生活に思わず涙が出る。
「働かなくても食っていける、この幸せ……」
「何も、泣かなくても……」
エルが苦笑いで返してくる。
「いんや、俺は泣くね!魔王をやってたときにどれほどニートに憧れたか!みんなして口を揃え『ニートなんてすぐになれる』とか言うけど、絶対に、嘘だ!そんなの」
「魔王をしていた時も、十分に遊んで寝ていたような気がしましたが……」
「俺は……、俺は!」
「……ご主人様……」
「二度と働かねぇ!」
ガタンッ!
横でエルが突っ伏した。
皆様、感想をありがとうございます。
皆様の感想が何よりの励みとなります。m(_ _)m
よろしければ、これからも感想をお願いします。