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06話 捨てる神あれば、拾う悪魔あり

誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい

 「白病」それが私の病の名だ。

 初期段階は、体の末端から少しずつ色素が抜けていき、全身がアルビノとなる。

 中期になると全身が雪のように白くなり、瞳は真紅になる。そして体の体力と筋力、免疫力、回復力が徐々に減少していく。

 末期になると新陳代謝が低下し、そのまま体が雪のように冷たくなり、最終的に衰弱して、死に至る。


 この病気の治療法は、存在しない。

 いわゆる、不治の病だ。

 神官の回復術や、魔術師の生命強化術で僅かに延命できる程度。

 かつて、大陸最強といわれた私の全魔力を生命維持につぎ込んでいるが……、そう長くないだろう。


 ……。

 そして、この病は末期になると低確率で周囲の者に感染する。

 そのせいで……。

 私は、大切な娘――ミレイとも触れ合えない。



 神様は私のことが嫌いなのだろうか?

 ミレイに今生の別れすら告げられない。

 娘が小さな身で働き、少しでも私の命を延ばそうとしているのを知っている。

 いつも、お金が入ると自分のことなど二の次で薬を買ってくる。

 でも、私には触れることができない。

 白病がうつるかもしれないから。

 ……。

 本当なら力いっぱい抱きしめてあげたい。

 抱きしめて……、大好きだよって……。


 泣きたい。

 なぜ、私なんだろう?

 私の人生なのに……。

 私は私の大切な宝物に触れることすらできないなんて。

 毎夜毎夜、悔しくて、悲しくて、惨めで、……涙が流れる。

 

 ……泣きたい。

 でも。

 泣くことはできない。

 私は、この娘の母。

 母親らしいことは何もできないけど、せめて娘に弱みを見せることだけはできない。

 娘の前で泣くことだけは、絶対に許されない。


 ……。

 私が死んだ後、ミレイはどうなるのだろうか?

 それだけが、今は心残りでならない。

 貧しい家の娘は、奴隷商人の下で商品になるか、娼館で娼婦となるか、のたれ死ぬしかない。

 私が、このような体たらくなばかりに……。


 ミレイ……。

 私の、大切な大切な宝物……。



 ガチャッ。

 扉が開く音がする。

 私はもはや目を開けることすら億劫だ。

 足音と気配、そして魔力で識別する。

 これは、私の愛しいミレイだ。

 いや……、もう一人見知らぬ人がいる。

 足音から察するに成人の男性だ。

 私を見て驚きの気配が伝わる。

 ふふ、今の私は人様に見せられるような姿ではないでしょう。

 魔力は……、わからない、隠されているような感じだ。


 と。

「お母さん!」

 ミレイが泣きそうな声で私を呼ぶ。

 大丈夫、私はまだ生きているよ。そう伝えようと思った。

 でも、出てきたのは言葉ではない。


 ゲホゲホッ。

 口の中に、慣れ親しんだ味が広がる。

 また、血を吐いたのだろう……。


 ミレイの気配が近づこうとする。

「……来ちゃ……ダメよ、うつるかも、しれないから」

 なんて、嫌な母親なのだろう。

 本当は、近づいて手を握って欲しい、顔を見せて欲しい。

 ……。

 だめっ。

 今泣くわけには行かない。


「シーファさん、お願いです!お母さんを助けて下さい!お願いします!」

 ミレイの懇願する声が聞こえる。

 また、無理を言って。

 見知らぬ方に申し訳ない。

 ……。


 意識が白濁してくる。

 ミレイが見知らぬ男性になにか涙声で叫んでいる。

 だけど、何を言っているのか理解できない。

 それ程までに私は衰弱しているのだ。


 意識の白濁が僅かに回復する。

「助けて下さい!」

「いいだろう」

 ミレイと男性の会話が理解できた。


 私の額に温かいような、冷たいような感触が生まれる。

 残り少ない力を振り絞り、目を開けた。

 見たことのない男性が私の額に掌をあてていた。

 黒髪黒目の不思議な雰囲気のする男性だ。


「……どなたか、分かりませんが。私に触れると病が……」

 他人に不治の病をうつしたとあっては、私は死に切れない。

 しかし。

「いや、俺には人間の病はきかないよ」

 え?

 それは……。

 力を振り絞り、男性の顔を注視する。

 男性の顔には、優しげな微笑が浮かんでいた。


 ボウッ。

 視界を穏やかな蒼い光が覆うと同時に、私の意識は温かな闇に閉ざされた。

 ……。


 私は夢を見た。




 私の名前は、アナスタシア・フォン・バレッタリート。

 ゼア大陸最北端に位置する、ゼア大陸最強の軍事国家、レイヤード大帝国の下級貴族、バレッタリート家の次女としてこの世に生を受けた。

 私の家は、代々高い才能を持つ魔術師を帝国に輩出し続ける家系だった。

 私の兄と姉の才は至って平凡な物だった。


 ……しかし。

 私は、天賦の才を持ってこの世に生を受けた。

 類稀な才、比肩しえるもののない魔力。

 帝国小等院を出て、帝国中等院に入学を決める頃には、帝国魔道騎士団が使う戦闘用魔術は全て習得していた。

 そして中等院では、飛び級制度と特待生制度を利用し、帝国最年少である十二歳で帝国魔術師団に入隊、同時に帝国魔術研究院に所属。

 魔族との戦で戦功を重ね、一年後に帝国近衛魔導騎士団に移籍した。


 父も母も、兄も、姉も我がことのように喜んでくれた。

 私も嬉しかった、家族が皆喜んでくれたのだから。

 私の故郷たるレイヤード大帝国の支えになれるのだから。


 それから、さらに一年。

 私は魔族との戦で更なる戦功をかさね、周辺諸国との戦でも戦功を重ねた。

 ……。

 私には、やはり魔術師としては天賦の才があったのだろう。

 難解な古代魔術の復元、新魔術の開発、既存魔術の改良、帝国魔術の完全習得、帝国に伝わる秘術の復元と習得。

 ……

 私は十四歳にして帝国近衛魔導騎士団の大隊長に就任するとともに、帝国魔術研究院の院長に就任していた。

 味方からは『帝国の魔導戦姫・アナスタシア』、敵方からは『天災の魔女・アナスタシア』と呼ばれるようになった。

 ……少し、恥ずかしい。


 でも、世界はここで私に牙をむいた。

 帝国皇帝・イグザリアス・ハイペリアス・フォン・レイヤード。

 なんと、帝国皇帝が私を側室にしたいと仰ったのだ。

 過去に一度も我が家からは皇家に輿入れをしたことはない。

 私は既に帝国の騎士だ、私を婚姻で縛る意味もない。

 ……。

 つまり帝国皇帝は私の体を望んだのだ。

 後ほど聞いた話しでは、私はどうやら帝国の美姫として有名だったらしく、私と結ばれることを望んでいた男性は数多くいたようだ。

 だけど、そのときの私は十四歳、けして婚姻をできるような年齢ではなかった。

 当時の私にとって、男性に抱かれるというのは一つの恐怖だったのだ。

 しかし、皇帝は。

「お主の家は代々我が帝国に仕えているが、代わりはいくらでもいるのだよ……」

 と、私の家を盾に関係を迫ってきた。

 最悪だったことに、今代の帝国皇帝は女癖が悪いことで有名だったのだ。

 臣下の娘や妻に手をだしては、王権や金でその問題をもみ消してきた。

 その上、私のような少女でも手を出せる変態だった。


 ……。

 私は、恐怖に震えながら皇帝に体を差し出した。

 親兄弟に言えるわけがない、もしここで少しでも皇帝の顰蹙をかえば私の家族は……。


 最悪は重なる。

 私は初体験と同時に身ごもってしまったのだ。

 さらに。

 …………不治の病である白病を発病した。


 皇帝は私のことを汚らわしいものを見る目つきで、一言。

「去ね」

 ……。

 私は、自分ではどうすることも出来ず、実家のバレッタリート家を頼った。

 しかし。

 私の家族は、皇帝の子を身ごもりながら白病を発病した私に絶縁を叩きつけてきた。


 このまま帝国にいては、私も、そして私のお腹の子も殺されてしまう。

 白病を発病した時から死ぬことは決まった、しかし、私のお腹の中にいるこの子は何の罪もない。

 不幸中の幸いは、白病の感染は末期のみということだ。

 私の症状もまだ初期段階。

 魔力の全てを症状の進行を食い止める事と生命の維持に集中すれば、出産は安全だろう。


 ここで誰かが私の考えを知ったら、僅か十四歳の小娘の考えではないと驚くのかな?

 ……。

 皇帝より「去ね」といわれた三日後に、私は国境を実力で突破した。


 その後、傭兵ギルドで名をスターシャ・バレットと変えて登録。

 身重で、その上白病を抱えていては危険だった。

 けど、わたしは帝国にいたときの稼ぎと傭兵としての稼ぎをもって、闇医者の下で一人の娘を出産した。

 名を、ミレイ。

 

 それから九年間。

 私はすぐに傭兵を引退して、娘の教育に集中した。

 レイヤード大帝国から遠く離れたクリスタルクラウンの、クォーツという町に小さな家を買って、二人だけの生活だ。

 もう少しで私はいなくなるから。

 ……。

 泣かない日はなかった、けして娘には見せなかったけど。

 しかし、一人になれば泣いてしまう。


 ……。

 そして、十年目。

 私の年も二十四歳。

 限界が来た。

 魔力で抑えていた、病状が一気に進行したのだ。

 倒れた次の日には、全身が雪のように白くなり、自力で立ち上がることも難しくなった。

 ……。

 ミレイががんばって医者を呼んだりしたが無理だろう。

 むしろ、発病から十年も生きられたのだ、十分に奇跡だ。

 普通なら発病から、半年もたたずに死んでしまう……。


 そして、私が倒れた日から数えて三ヵ月。


 私とミレイのもとにシーファと名乗る男性がやってきた……。




 自らの過去を夢で見た。

 されど、夢は夢。

 そして、覚める……。


 最初に感じたのは、私に抱きついて寝ている娘の体温だ。

 悲鳴を上げ、慌てて引き剥がそうとする。

「ミレイ!早く、離れな……」

 さい。とは続かなかった。


 おかしい。

 私の体に力が戻っている。

 ……体が軽い。

 ……かつてのように声が出る。

 恐る恐る、ミレイを抱き上げてみた。

 …………持ち上げられた。


 一縷の望みをかけて、私は自身の体に探査魔術を実行する。

 ……。


 身体状況――。


 以前ならここで、「病有」と出た。

 しかし。


 ――病無。


 !

 涙が溢れた、ミレイの体を力一杯に抱きしめる。

 娘の前で泣いたことは一度もない。

 しかし。

 私は、泣いた。

 大声をあげて泣いた。


 これからは母親らしいことをしよう。

 ミレイを抱きしめて、抱きしめて、大好きだよってたくさん言って。

 ……。

 思考が安定しない。

 十年にわたって私を縛り続けていた呪縛が消えたのだ。


 私はただひたすらに、……泣いた。

ハーレム入りする予定の母娘です。


少し、重いかも……。

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