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64話 巫女姉妹誘拐の騒動

誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。


もう、無理……。

 伊織があまりにも遅いので、自分から探してみることにした。

 結果として帝都の中央にある宮殿の中でその反応を感知。

 尤も、その宮殿はかなり厳重な結界に護られていたが、そこはそれ。

 エルやスターシャ、それに婆さんや毒殺娘の作り出す結界に比べれば児戯に等しかったので簡単に抜いてみた。

 後は、探査結果の示すとおりの座標に転移。

 ……。

 一つだけ言い分けさせてもらうおう。


 現在、俺の体内ではアルコールという名の悪魔が暴れていて、そのおかげでテンションがおかしいことになっている。

 ……。

 断言しよう。


 今の俺は酔っ払いである、と。




「おお。いたいた。酒盛りのお誘いに来たぜぇ」

 空間転移で、伊織のいる座標に辿り着く。

 体内に入れたアルコールの制御をミスって、かなり頭が危険なことになっているのだが、そこはそれ、酔っ払いなので自覚が薄い。

 やはり、勧められるままに避難民の親父さんたちと宴会をし、飲み屋を二十七軒も梯子したのは不味かったかもしれない。

 頭がかなりふわふわする。

「おおう。中々小奇麗な場所だな」

「な、シーファ、君は」

「おうよ、シーファ様だぜ」

 むはぁ、と息を吹きかける。

「さ、酒臭っ!」

 そして、伊織が口元を押さえた時だった。

「出会え! 無礼者だ!!」

 周囲が一瞬で騒然となった。



 ―――御門 伊織―――


 大僧正様の怒声と共にすぐさまに剣を持った完全武装の兵士がなだれ込んできた。

 その背後には大量の法術師や戦巫女もいる。

 だが。

「あらら、大勢いるぜ。…………祭?」

 あいも変わらずに、酒臭い息を吐きながらふらふらとしていた。


 なんというか週末の場末にいる、飲兵衛そのものである。

 だが、この酔っ払いは「外見で人を判断してはいけない」の典型例でもある。

 その実力は、一瞬で魔族の大群を殲滅し、神器二つを遠距離で稼動させる程の魔力だ。

 たとえ酔っ払っていても、その戦闘能力はここにいる誰よりも高いだろう。

「おぉっとっと、ととっ……。世界がゆ~れ~るー……」

 千鳥足の動きでふらふらとしながら体を左右に揺らす。

 ……。

 ……。

 その戦闘能力はここにいる誰よりも高い。

 高い、はずである。


「遅いからー……、探しにきーたぜ」

 よく見ればその左手には大きな皿があり、何故か焼き鳥が山と積まれている。

「さあ、宴会だ! Hurry!  Hurry!!  Hurry!!!」

 さらに、よくよく見れば瞳の焦点が定まっていない。

 と。

「伊織から離れろ!」

 宗武様が、鋭く斬りかかって来る。

 だが。

「駄目!」

 ゴスッ。

「……あっ!」

 私が止める間も無かった。

 強靭な捻りの加えられた正拳は剣刃をいとも簡単に逸らし、そのままの勢いで宗武様の顎に正確に突き刺さった。

 これ以上、ないという程に。

「いー踏み込みだ。だが、殺気を隠すのが甘いなぁ。後、初動に僅かな隙があるぜ」

 宗武様が白目で倒れ付し、周囲に動揺が走った。

 と。

「ここじゃ、酒は飲めねぇなぁ」

 いきなり、語りだした。


「酒に必要なのはー、美味い酒、美味い肴、そしてお酌相手の笑顔さー」

 うんうんと赤い顔で頷きながら周囲を見渡す、と。

「おんやぁ」

 ブゥンッ。

 一言、疑問の声を上げ、空間転移。

 空間が揺れる音共に、酔っ払いの変態が姫巫女様の座す玉座の前、即ち御簾の向こう側に移動した。



 ―――神楽―――


 いきなり、伊織ちゃんの横に出現した酔っ払いの狂人はなにやら呟いたかと思うと、今度はボクの真横に転移してきた。

「ひっ!」

 いくら姫巫女と言われようと、ボクだって花も恥らう十六の乙女である。

 いきなり真横に酔っ払いの見知らぬ人が現れれば恐怖するに決まっている。

 それも、自らの婚約者を打ち倒した後ではなおさらだ。

 むしろ、慣れた反応をしていた伊織ちゃんのことが心配にもなってくる。

 だが。

「おやおや、泣いていたなぁ、娘」

 次いで掛けられた言葉に絶句した。


「涙の後が見えるぜぇ」

 此方の頭をわしづかみにすると、顔を強引に向けさせられた。

「……あ」

 ボクは目が見えない。

 代わりに、見えない目に代わって第六感と、視覚以外の四感がそれを補っている。

「ふーん、なるほどねぇ、なるほどねぇ」

 息が酒臭いのはあれだが、触れている手や聞こえる声からは微塵も悪意が感じられない。

 それどころか、感じるのはどちらかと言えば……。

「なるほどねぇ…………。叶わぬ願いに涙した。そんな所かな」

 此方を気遣うような感じが受け取れる。


「離せ! 馬鹿!」

 泣いていたこともあって急に恥ずかしくなってしまう。

 勢いのまま掴んでいる手を振り払う。

 思わず、姫巫女として公の場では出してはいけないような声が出るが気にしない。

「女の顔を強引に掴むなんて、この変態めっ!」

 しかし、男は。

「おおっ! 姉妹で同じ罵倒とは、なんか目覚めちゃいそうだぜ」

 などと言いながら、今度は私の襟首を掴んでひょいと持ち上げてしまった。

 無礼ここに極まれり。

 周囲で悲鳴が連続して上がる、当然だろう。

 だが、ボクとしてはそれどころではない。

「は、離せ! 離せ、この変態ッッ!!」

 じたばたと足掻きながら、周囲に強大な法力を収束する。

 だが。

「お前は雌猫か……。オラ、少し静かにせいっ!」

 バチッ。

「キャンッ!」

 体に微弱な電撃が奔り、力が抜けた。

 付け加えるならどういう手段か知らないが、体内で法術が発動できなくなってしまう。

「く……、この、変態め…………」

「変態上等♪」

 件の変態は一縷の罪悪感も無い声で、笑って応じた。



 ―――伊織―――


 目の前の光景が夢であったならどれだけ救われたことか……。

 思わず、手放しそうになる意識をとどめながら、声を投げつけた。

「おい、そこの変態!」

 投げつけた先にいるのは言葉通りの変態だ。

 よもや、この国の象徴、アマテラスの化身、現人神、ジパングの神秘の象徴である姫巫女様を、そこらの野良猫のように襟を掴んでぶら下げている変態だ。

 しかもご丁寧に、魔術かなんかでその体を麻痺させているっぽい。

「なんじゃい、泣き虫巫女(妹)?」

 くずれおちそうになった。


 出来るなら神器でぼっこにしてやりたいのだが、その神器が反応しない。

 まぁ、攻撃しようとする相手が本来の持ち主なのだから仕方が無いといえば無いのかもしれないが、なんか納得できない。

「姉さまを離せ! この変態!」

 とりあえず『ヴァーユ』を変態の顔面に向けて全力投擲するが。

「はは~ひ♪」※訳:あま~い

 器用にも口に咥えて、止めてしまう。

「くっ!」

 向こうでは変態がにししと笑っている。

 ……くぅ! 今この瞬間に勝る屈辱はない!!

 先程までのシリアスな雰囲気が完全に無くなってしまった。

 と。

「ほはえはんも、ほひょうは~い♪」※訳:お前さんも、ごしょうた~い♪

 いきなり眼前に跳んでくると、さらに私を巻き込んで空間を転移した。


 まぁ、私と姉さま、それにジパングの皆を手玉にとって出し抜いた手際は見事である。

 しかも酔っ払った上で、だ。

 ……。

 結論から言えば、姉妹と二人揃ってものの見事に誘拐されてしまった。


 最後に見た光景は大僧正様が気絶しかけ、周囲の皆が悲鳴を上げたり、硬直している姿だった。






 気づけば満点の夜空の下、帝都が一望できる小高い丘の上に座り込んでいた。

 背後にはなにやら、怯えている姉さま。

 そして、真正面には鼻歌を歌いながら今まさに酒盛りを始めようとしている変態。

「………………シーファ」

「お?」

「どうして、姉さままでも?」

 思わず問いかけてしまった。


 私一人を誘拐するのなら分かる。約束もあるから。

 でも、なぜ姉さままでも巻き込んで誘拐したのだろう。

 目の前の男は変態ではあるが、けして鬼畜外道や畜生の類ではない。

 それは私が断言できる。

 故に、その疑問が絶えず頭の中を舞っているのだ。

 と。

「気まぐれだよ」

「気まぐれ?」

「そう」

 シーファは頷くと続けた。

「俺は欲望には敏感でね。その人間が何を望んでいるのかが分かるのさ」

「「…………」」

 思わず姉さまと二人で黙り込む。


 と、いきなり。

「美しいと思わないか?」

「え?」

「……見ろよ」

 シーファの手が指し示した方向には帝都があった。

「まるで光の海だ。そして、あの光の一つ一つに人の営みがある」

「「……」」

 世闇の中で輝く帝都の光は、言葉通り光の海に見える。

「昨日を生きて、今日を生きて、明日を生きる」

「「……」」

 まるで祝福するかのように言葉を紡ぐ。

「限りある命ゆえに、限りある時を力いっぱいに生きる……」

「「……」」

 一旦言葉を切り、改めて呟いた。

「美しいな。…………何よりも、だ」

 シーファは微笑すると、今度は背後の姉さまに向かって笑いかけた。


「……ここには誰もいない、好きにするといいさ」



 ―――神楽―――


「……ここには誰もいない、好きにするといいさ」


 その言葉は何よりも鋭い一矢となってボクの胸を突き刺した。

「……何、を」

 男に問う。

 だが、男はもうボクには興味を失ったのか、酒盛りを始めてしまう。

 ……分かっている。

 先程、男は「願い」や「望んでいること」と言ったではないか。

 しかも、「ここには誰もいない、好きにするといい」とも。

 最早疑う余地はない。

 この変態男は、ボクと伊織ちゃんのために、ボク達姉妹をこの場に連れてきたのだ。

 ……。

 周囲に誰もいないこの場所へと。


「伊吹姉さま」

「……伊織ちゃん」

 伊吹――ボクの本名。

 そして、そう呼ばれるのは懐かしい。

 最後にそのように呼ばれたのは、もう覚えていないほどの昔。


 伊吹姉さま!

 そう言って私の愛しい妹は抱きついてきた。



 ―――御門 伊織―――


 姉の温かくも柔らかい体を抱きしめる。

 このように直に触れ合ったのは何時ごろぶりだろうか。

 最後の記憶は、姉が姫巫女「神楽」として実家を出て行くときだった気がする。

 あまりにも昔の記憶過ぎて曖昧だ。

 だが、もう昔の記憶にすがる必要も無い。

 こうして姉と触れ合えるのだから。

「……伊織ちゃん」

 姉さまも涙を流し私の体を抱きしめてきた。



 それからいろんなことを話し合った。

 嬉しかったこと。

 怒りを感じたこと。

 哀しかったこと。

 楽しかったこと。

 お互いに姉妹として逢えなかった時を埋めるかのように話し合った。

 互いに手を取り、その身に触れて。

 今までの私の人生が間違っているとは言わない。

 けれど。

 二人だけの家族。二人だけの姉妹。

 唯一血が繋がり、心の全てを開ける相手。


 けして短くはない時を経て、ようやく姉妹は互いその手と心を重ねたのだ。



 ―――御門 伊吹―――


 ……。


「ねえ、伊織ちゃん」

「何、伊吹姉さま?」

「ボクと君をここに連れてきたこの男、彼は一体何者なんだい?」

 目を向ければ、彼は高鼾をかいて爆睡していた。

「えーと」

 ボクの質問に伊織ちゃんは少しだけ困ったように頬をかく。

 そして、少し恥ずかしそうに説明してくれた。

「その、実は……」


 ……。



 ―――シーファ―――


 ……むー……?。


 鼻をつくのは白檀の香り。

 ……。

 喉に渇きを覚えて目を開ける。

 ……。

 かなり頭が痛い。

 ……。

 視界には満点の星空とサラサラとした黒い糸が映っている。

 ……。

 頭の下に柔らかい感触がある。

 ……。

 はて、随分と既視感のある状況だこと。

 ……。

 そんな事を考えていると頭の上から優しげな声がかかる。


「起きたかい? シーファ?」

「……お?」

 頭上にはここ数日で見慣れた巫女の顔。

 ……ふむ。

 どうやら、アルコールの効果で熟睡していたっぽい。

 その証拠に、頭部に鈍い痛みがある。

 見れば、横たわっている俺の上には千早が掛けられていた。

「…………?」

「それは姉さまの千早だよ。今回のお礼だって」

 ふむ。

「……随分としょっぽいお礼だな」

「五月蝿い、変態」

 ゴッ。

「いてっ」

 俺の言葉に反応して焼き鳥の皿が飛んできた。

 目が見えないのに良くやる、思わず苦笑する。

 額をさすりながら、件の姉巫女に声を掛ける。

「涙は止まったみたいだな」

「ふんっ!」

「くく。女の顔には涙は似合わないぜ、それが特に悲し涙ならな」

「……」

「善人を気取るつもりはないさ」

 一旦言葉を切る。

 ついっと天を見上げて独白する。

「ただ、手の届く範囲、自らの目の届く範囲でなら、なんとかしてやりたいと思うのは人の心というものなのだろう」

 尤も、そこには自分が助けてやってもいいと思えた人物、という条件はつくが。


 ……。

「…………象徴としての飾り物は大変だな……」

 自然と姉巫女に向けていた視線を、再度天へと移す。

 視線は空に、けれどその言葉はこの国の象徴に祭り上げられている少女に向ける。

「おそらく、この国にいる全ての人間は、象徴としての君を見ているのだろう。一人の少女として君を見ているのは恐らく、ここにいる伊織だけだ」

 そっと、持ち上げた手で伊織の頬を撫でる。

 伊織はくすぐったそうにするが、抵抗はしない。

「『王とは、最も高貴な虜囚である』。さて、…………誰の言葉であったか」

 思い出せない。そも、言葉に興味はあっても、それを唱えた者などには興味はない。

「なればこそ、俺は君を一人の少女として扱おう」

 離れたところにいた姉巫女の体がびくっと動く。

「俺は俺の価値観とルールに則って生きている。そこにはこの世の法則も、この地のルールも関係ない」

 俺は束縛されるのを嫌う。何よりも嫌う。

 俺を束縛できるのは俺自身の定めたルールだけ。

「誰に何を言われようと、何をされようと関係ない。俺の生き様は俺が決める」

 ふと、懐かしい感情に囚われる。

 そして、思い出す。

 ……ああ、エルにも似たような事を言った覚えがあったな。

 続ける。

「君がどのような地位にいようと、どのような役職にいようと知らない、興味もない。けれど俺は、君を我が友である伊織の姉君として、一人の少女として扱おう」

 今でこそ、主人にアイアンクローや容赦なく神術を叩き込んでくる程に逞しくなったエルだが、その昔は自らの立場に泣いていたこともあった。

 ……懐かしい。

「……それが、俺が君に出来る精一杯だ」

 再度、視線を姉巫女に向け。


 そして、優しく微笑んだ。



 ―――御門 伊吹―――


 ボクの目はただの飾り物だ。

 けれど、この時は確かに見えた気がした。

 目の前で男が微笑んだのが。


「『一人の少女として扱おう』だって? そんなこと宗武にだって言われたことないよ」

 ともすれば、不敬罪確定のセリフである。

 だが、その言葉はボクの心に深く深く突き刺さった。

「……変態のくせに」

 悪態をつくが、どうにも語調に力がこもらない。

 この男はボクの苦悩を見抜いていた。これ以上ない程に。

 今までの人生を後悔はしていない。

 けれどそこに不満がなかったかといえば、答えは否だ。

 そして、この変態の言葉はその不満を正確に捉えていた。


「……ねえ」

 少し、この無礼な変態に話を聞いてみたくなった。

「君は……」

 しかし。

 伊織ちゃんの膝の上からは。

「…………zzzZZ」

「……………………………………………………」

 再びの高鼾が聞こえてきた。

「………………………………………………………………死ね変態」

「……姉さま」

 伊織ちゃんの膝の上でなかったなら全力の法術で攻撃してやったものを。

 ……。

「ただ、まぁ……」

 静かな声で呟く。

「君のその言葉は嬉しいよ。後、伊織ちゃんと引き合わせてくれたことも、ね……」

 何時になく、穏やかな気持ちで満点の夜空を見上げた。

「一回だけしか言わないよ。もし聞いてないなら、寝ている君が悪いよ……」

 そっぽを向いて、小さな声で一言だけ呟いた。




「…………ありがとう」




 何処からともなく小さな笑い声が聞こえた、そんな気がした。

ご感想・ご意見・各種批評・間違いの御指摘などをお待ちしております。


燃え尽きたぜ……、真っ白によ…………。


明日からは暫くモンハン廃人になってきます。


何? 更新? 知らんな!

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