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62話 帝都防衛戦⑤

誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。


あと、あと少し……。

 眼下には今まさに宗武様に止めをさそうとしている魔族――バァルがいる。

「『ヴァーユ』、『迦楼羅』!」

 両の手に携えた翡翠と黄金の扇に命ずる。

 すると、両神器は主の命を受け、世界に巨大な力を巻き起こした。


 シュリンッ。

 黒い湾刀をその根元から断ち、次いで放った翡翠と黄金の風刃がバァルの体を大きく傷つけた。

「ぐっ、があっ!」

 右肩部と右腹部にけして小さくない裂傷が走る。

 そのまま風を纏い、バァルと宗武様の間に降り立った。


「宗武様! ご無事ですか!?」



 ―――宗武―――


 俺は夢を見ているのだろうか?

 今まさに俺に止めをさそうとしていたバァルが大きく傷を受けて後退したのだ。

 そして、そこに降りたち。

「宗武様! ご無事ですか!?」

 そう言ったのは。

「……伊織、君、なの、か」

 間違いなく死んだと思われていた姫巫女・神楽様の妹御だった。


「――ッ」

 漆黒の雷が伊織を目掛けて奔るが。

「ヤッ!」

 翡翠の風がその体を包み込み、雷を全て弾く。

 同時に奔った巨大な黄金の風刃がバァルを襲った。

「……ぐっ」

 バァルが体を跳ねさせる様に動かし、かわした。

 ……なんだ! あの力は!?

 伊織が放った風刃を見て戦慄した。

 バァルですら受けるのではなく、かわした程の圧倒的な力。

 その力は間違いなく姫巫女様をしのいでいる。それも遥か大きく、だ。


「……チッ」

 いつの間にか再生させていたのだろう、バァルはその右手に黒き湾刀を握り。

 ゴッ。

 超高速で奔らせた。

「ま、ずい! か、は」

 思わず血を吐きながら呻く。

 超高速での体移動、そしてその勢いのままの超高速での斬撃。

 術を主体とする戦巫女にはまず反応すらできない程の代物だ。

 事実、俺ですら辛うじて反応できるほどの速度。

 俺ですら辛うじて、なのだ。

 この斬撃に反応できる者が姫巫女様を除きジパングにいるとは思えない。

 ……。

 ……だが。


「そこっ!」


 伊織はしっかりと反応していた。


 キンッ!

 手に持った翡翠の扇で黒き刃を受ける。

 扇は強力な力で覆われてでもいるのか刃と触れ合うと甲高い音を立てる。

 一見観賞用ともとれる翡翠の扇は、黒き刃を確実に弾いていた。


 思わず、自らの体の痛みすら忘れて呆然と呟いた。

「…………馬鹿、な」



 ―――伊織―――


 大気の動きから相手の移動先や行動を読む。

 シーファから受け取った記憶の中にあった技法だ。

 この技法を確立したのは誰かは分からない。

 だが、正直に凄いと心の底から思う。

 自分より圧倒的に早く、鋭い相手の動きに確実に反応できる。

 それだけじゃない。

「破ッ!」

 折りたたみ、殴打武器へと変化した扇を相手に叩きつける。

 そしてそれには強大な風が纏わりついている。

 ズドンッ!

 接触と同時に解放された指向性の風は強大な衝撃となって相手を襲う。

「……ぐおっ」

 バァルが苦悶の声を上げた。


 風を利用した攻防一体の戦闘技法。

 纏った風が自らの動きを補助し、逆に近づいてきた敵の動きを縛り付ける。

 離れては無限の風刃で相手を刻み、近くては風の流れに乗った一撃を放つ。

 動きの全ては風の流れで読み、躱せない攻撃は風の流れで強引に軌道を捻じ曲げる。

 それは縦横無尽な戦舞。

 それはまるで戦場に咲いた舞姫のよう。

 ……。

 伊織は知らないだろう。

 その技法はかつて戦を知らなかった心優しい風の天使が、自らが愛した主人を守る為に血の滲むような努力の果てに編み出した戦技。

 自らを護ると宣言し、そして愛してくれた心優しい魔王のために身に着けた戦技。

 そのために練られた理合は長い時を経て重ねられた剣の理合に、けして劣るものではない。


「フッ!」

「……っ!」

 キキキキキキキキキキンッ!!

 高速で奔る斬撃を、冷静に捌く。

 確かに視認不可能ゆえに目視での反応は不可能だ。

 けれど、確かに風の流れが刃の軌道を教えてくれる。

 そして、風が相手の体を縛り、妨害し、私でも十分に対応可能な程の勢いに減じてくれる。

「ッ。破ッ!!」

「――がふっ!」

 一瞬の隙を突き、僅かにあいた隙を風を持って強引にこじ開ける。

 そして、開いたそこに、それ以上の強引を持って打撃を叩き込んだ。

 接触と同時に強大な衝撃が発し、バァルの体が軽々と吹き飛んだ。



 ―――宗武―――


「……馬鹿、な」

 最早その言葉しか呟けない。

 目の前で互角以上に演じられている殺し合い。

 だが。

「伊織、君、は……」

 神楽様の妹御である伊織という少女は確かに優秀では会った。

 だが、けしてここまでの実力者ではなかった。

 俺や神楽様のように神の血は受け継がれなかったのだ。

 始まりの五家に連なる人間でありながら、並みの人間と同じ程度の力しか持っていなかったはずなのだ。

 しかし。

 キキキキキキキキキキンッ!!

 少女は目の前でバァルの連撃を完全に防ぎきった。

 俺でさえ、完全に防ぎきれる自身はない。

 かつて俺が放った二刀の高速連撃よりも遥かに高速の連撃、それなのに傷一つ負うことなくしのぎきったのだ。

 あまつさえ。

「破ッ!!」

「――がふっ!」

 鋭く突き出し扇がバァルの体を打ち、軽々と吹き飛ばしたのだ。

「……嘘だ、ろ」


 バァルが大きく吹き飛んだのを見て、少女が此方に駆け寄ってくる。

「宗武様! 少し我慢して下さい!」

 駆け寄ってきた少女は懐から取り出した符を俺の傷口に当てると。

「――。―――」

 刀印を組み、素早く呪を唱える。

 すると、温かな燐光と共に傷が塞がり始める。

 治療用の呪だろう。

 多少のむず痒さはあるが、傷口の修復のためである。

 ……我慢しよう。

「くっ」

「――。―――」

 やがて。

「よかった。応急処置は出来たよ」

 少女は心底安堵したように微笑んだ。


「伊織、君は……」

 と、問おうとした瞬間だった。

 少女が振り向きざまに扇を一閃し、風刃を放つ。

 放たれた風刃は鋭く奔り、同じく奔った雷撃を迎撃した。

「宗武様、後で!」

 それだけ言うと、宙を滑るように疾走していった。


 そんな少女を見て、深いため息をつく。

「……やれやれ、よもやこの俺が足手まといとはな」



 ―――伊織―――


 風が教えてくれる。

 この先で巨大な力が集束し始めている、と。

 先に帝都を撃ったときよりも遥かに強大な力の集束だ、とも。

「間に合って!」

 『ヴァーユ』と『迦楼羅』の力を借りて宙を飛翔する。

 伝説に語られるような飛翔系の術とはこのような感じなのだろうか、などと思いながら高速で宙を飛ぶ。

 やがて、見えてきた光景を前に一言。

「不味い!」


 バァルの手には強大な雷光の塊が存在していた。

 そして、それは解放されるときをいまかいまかと待っている。

「っ、やるしかない」

 地面に降り立つと。

「お願い『ヴァーユ』『迦楼羅』、私に力を貸してくれ!」

 両の扇を広げ、前に突き出す。

 目の前で集束されている雷光に目を向ける。

 ……あんな物が放たれたら!

 先程とは比べ物にならない破壊が巻き起こるだろう。

 そんなことをさせるわけには行かない!

「お願いだ! 『ヴァーユ』『迦楼羅』! 貴方達が伝説に語られる神器なら、私に力を貸してくれ! 例え私が、貴方達の持ち主に相応しくなくても、この一回だけでいい! お願いだ! 力を、力を貸してくれ!!」

 姉さまに、そして私の願いに応じて力を貸してくれたシーファに祈る。


 ジパングの最高神はアマテラスである。

 本来は、アマテラスに祈るのが礼なのだろう。

 だが、このときは何故か私が大切だと思った、思えるようになった二人に祈った。

 姉さま! シーーファ!

 ……。

 すると。

 ィィィィィィィィィィィッ。

 なんと、細かな鈴のような音を鳴らしながら『迦楼羅』から黄金の光の粒子が漏れ出したではないか。

 そして、それにつられるかのように『ヴァーユ』からも翡翠色の光の粒子が漏れ出し始める。


 ゴウッ!


 突如、世界の大気が不自然に捩れた。


 目の前で翡翠と黄金の風が集束し始めた。

 風は風を呼び、加速度的に集束度合いが増していく。

 やがて集束していた風が唐突に淡くも激しい光へと変換され始める。

 あまりにも莫大かつ高密度の大気が集められたことで飽和し、プラズマ化が発生し始めたのだ。

 風と雷の複合技法。

 発生と維持にこそ神器の力を借りているが、その威力と質は完全に純自然のモノ。

 伊織は集中しているからわからないだろう。

 今この時のみに限って言えば、伊織はローム大陸全土に存在する風を完全に支配下に置いていた。


 やがて。


 ヒュッ!


 漆黒の雷光が放たれ。


 ゴオッ!


 翡翠と黄金が入り混じった風雷が放たれ。


 巨大な力の激突を引き起こした。



 ―――シーファ―――


 伊織をバァル真上に放り投げ、そのまま連続転移で軍団の中心、その上空に移動する。

「おお、やっとるやっとる」

 苦笑しながら眼下に視線を向ける。

 どうやらこの国の兵が孤立無援で奮闘しているようだ。

 だが。

「ありゃ、駄目だな」

 苦い表情で一言。

 兵の質はいいが、その士気に問題がある。

 やはり先の帝都を焼いた一撃が彼らの士気をくじいているのだろう。

 帝都の周囲に存在する兵も動揺していて援護どころではなさそうである。

「ふん」

 ……婆さんの真似ってのもあれなんだがな。

 表情を苦笑に切り替えながら。

 パチンッと指を鳴らした。


 ただ一度。ただ一度、指を鳴らしただけ。

 しかし、その行為によって自らの体から漆黒の波動が世界に放たれた。

 ……。

 放たれた波動は自らの身を中心として世界に広がり、魔族の軍団を一瞬で消滅させた。



 曇天の中、宙に浮かんで成り行きを見守る。

 眼下ではジパングの兵たちが何や顔を見合わせ困惑しているのが確認できる。

 それはそうだろう。自らを襲っていた死の恐怖が唐突に消え去ったのだから困惑するのも無理はない。

 とはいえども、注目を浴びるのは好きではないので光学迷彩で自らの身を覆う。

 そして。

「……そろそろ、大詰めか」

 伊織のほうに目を向けた。


 ……大したものだ。

 それとなく笑み、呟く。

 本来ならこのまま俺がバァルをやる手筈なのだが、伊織の想いの強さを信じてみたくなった。

 起源(オリジン)に連なる神器は通常の神器とは違い、想いの強さでその力が左右することがある。

 そして。

「…………風が動いているな」

 俺の感覚が告げる。

 今この瞬間、この大陸の風がこの地を中心に動いているのを。


 恐らくは『迦楼羅』が伊織の想いの強さに応えて力を貸したのだろう。

 それは本来の力のほんの僅か、断片でしかないかもしれない。

 しかし、天空の化身とまで言われた神器だ。

 その力は推して知るべし。


「……見せてくれ、人の想いの力を」


 次の瞬間、漆黒の雷光と翡翠と黄金が入り混じった風雷が激突した。

ご感想・ご意見・各種批評・間違いの御指摘などをお待ちしております。


も、もう、ゴール……、して、いいよね?

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