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05話 優しい悪魔

誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい

「なんというか、人間は流石だな……」

 思わず苦笑してしまう。

 俺は今、町の中心にある市に来ているのだが。

「これが、魔界なら売買などせずに、奪うか奪われるかだというのに……」

 そう。

 目の前で、当然のように通貨と商品を交換している光景が新鮮に思える。

 ……歩くか。


「へいっ!そこの兄ちゃん、なんか買ってかねえか?」

 いきなり声をかけられた。

 ?

 ……。

 俺の目の前に刀剣類が所狭しと並べられていた。

 ……武器か。

「これは、ローム大陸のジパングって国から輸入してきたもんなんだ、よかったら買ってってくんなよ」

 店のおじさんが人懐こい笑顔で薦めてくる。

 俺は苦笑しながら、答える。

「いや、俺には手持ちがあるから買わないよ」

「そうかい、見たとこ中々の業物そうだし、やっぱり俺のところのものじゃものたりねえか……」

 背の大剣を一目見て、おじさんが僅かに気落ちしたようにぼやく。

「いや、自分の手元に愛用の武器があったか、なかったかの差ですよ」

「そうかい。ま、いいや、また来てくんな」

 ニカッ、と笑うと。

「そこの傭兵の兄ちゃん、どうだい、なんか買ってかないか!」

 声を上げて客寄せを始めた。

 ……人間は本当に逞しい。


 ドンッ。

「んむ?」

 足元を見ると女の子がぶつかってきていた。

 見た目、十歳前後ぐらいの女の子だ。

「ご、ごめんなさい!」

「あー、いやいや、気にしないでいいぜ。こちらも余所見していたしな」

 女の子があまりにも必死に謝るので、思わず許してしまう。

 口元に苦笑の笑みが浮かぶ。

 ……本当に欠陥悪魔だな、俺は。

 ここで普通の悪魔なら迷わず即殺だろう。


「何か、急いでいたのか?」

「うん、お母さんの体調が良くないから、薬を買いに」

「……医者には行かないのか」

「うん……、お金ないから」


 これは、シーファの勉強不足だが。

 この時代では病気にかかった際の対処法は四つ。

 一つ目が、寝て自己の回復力を頼る。

 二つ目が、店売りをしている薬を買う。

 三つ目が、医者とその技術を頼る。

 四つ目が、神殿等で神官の持つ、神術を頼る、である。

 後者になるほど、資金が必要となり。

 神官を頼れるのは、神官をパーティに持つ一部の傭兵や冒険者、もしくは神殿に多額の寄付ができる金持ちだけである。


「そうか、ちなみにその薬は幾らだ?」

「え?えと、……一瓶銀貨二枚です……」


 この時代、平民の一月の収入が銀貨二十枚程である。

 ちなみに金貨一枚で銀貨百枚、銀貨一枚で銅貨百枚である。

 また、白金貨というのも存在するがここでは割愛する。


「ふむ、そろそろ昼の十二時ぐらいか……」

 少々小腹が空いているしな。

 銀貨が二枚もあれば釣りが来る。

 よし!

「娘よ、取引しよう。お前さんのお母さんを助けたら、その銀貨を渡せ」

「え?……でも」

 怪しむ女の子に悪魔の取引を持ちかける。だって、ほら、俺、悪魔だし♪

「ほれ、怪しいもんじゃないぜ」

 ギルドカードを見せる。

「信じる、信じないは君に委ねよう」

 ニヤニヤッ。

 俺は欠陥悪魔だ、人に絶望や恐怖を与えようとは思わない。

 また、この取引を破るわけでもない。

 まぁ、つまり……。

「え?え、え、でも……」

 ニヤニヤッ。

 この女の子をちょいとからかっているのである。


 しかし、女の子は何かを覚悟したのか。

「お願いです、銀貨だってなんだってさし上げます。お母さんの命を助けて下さい!」

「ん?」

「お願いです!」

 軽い気持ちだったのに、いつの間にか必死に懇願されてしまった。

 周りからも。

「あの子の母親って不治の……」

「不幸な人から毟り取って……」

「希望を持たせるだけ持たせて……」

 とか聞こえて来る。

 ……え?まさか。


 ……。

 結論から言うと。

 嫌な予感は的中するものである。

 家にたどり着き、一目見てわかった。

 ……この子の母親は長くない。

 いや、むしろ今も生きているだけ不思議な状態である。

 ……。

 頬はこけ、肌は真白色。

 枕元は咳とともに血を吐いたのか、赤と白の斑模様だ。


「お母さん!」

「……来ちゃ……ダメよ、うつるかも、しれないから」

 ゲホゲホッ。

 枕元に真っ赤な血が飛ぶ。

「お母さん……。シーファさん、お願いです!お母さんを助けて下さい!お願いします!」

 女の子が必死な顔で頭を下げてくる。


 ……。

 よもや、元・魔王の俺が人助けを頼まれるとは。

「……」

 どうしたものかねー……。

「今までどうやって暮らしてきた?父親はどうした?」

「……お父さんはいません」

「いない?」

「はい。……今まではお母さんの身の回りの物を売ったり、私が知り合いの所で働いたりしていました……」

 ……。

「以前一度だけ、お医者様に来ていただいたのですが。……不治の病で、もう助からない、って。今は薬で延命しているだけです……」


 あー……。

 正直、ここで助けてもメリットがなー。

 本当に、どうすっかなぁ?

 と、内心頭を抱えたそのとき。

 横から。


 ヒクッ、ヒクッ、エグッ。

 !

 おーい!なんか女の子が泣き始めたし!


 ……。

 はぁ、しょうがないなー……。

 ……。

 ん、……待て!

 しょうがないから、……何だというんだ。

 俺は悪魔だぞ!人助けなんて……。

 ……。

 ……しかし。


 ……。

 ………。

 …………。

 女の子とその母親を見ていて心の底から不思議な感情が湧き上がってくる事に気づく。

 これは、なんだ?

 ……。

 考え、考え、考え抜いた末に、……気づいた。


 それは以前、エルが話していた感情と酷似していることに。

 そう。

 それは。


 ……慈しみ、という名の感情。


 この母娘を助けたい、と。

 この母娘に笑顔をあげたい、と。

 しかし。

 それはけして、悪魔が持つはずのない感情。

 魔王とは対極に位置するはずの感情。

 ……。



 ……。

 膝を突き、娘と顔の高さを合わせる。

 悪魔である俺が出した声とは思えない、優しい声で問う。

「娘よ、今から目の前で起こることを生涯誰にも言わないと、そう約束できるか?」

「……え?」

「もし、誓えるのなら、我が名『ルシファー』にかけてお前の母親を救おう」

「……シーファさん」

 涙目で自分を見上げてくる。

「娘よ、決断を……」


「…………誓います」

 涙目で、声は震えているが、それでも。

「誓います!だからお母さんを」

 声をだして、言い切った。

「助けて下さい!」

 ……。

「いいだろう」

 満足げに答えると俺は娘の母親に近づき、手のひらを母親の額に置いた。


「……どなたか、分かりませんが。私に触れると病が……」

 ……この状態でなお、他人の心配か。

「いや、俺には人間の病はきかないよ」

 微笑しながら、集中する。

 ……人間は本当に…………強い。


 人を癒すは神の業。

 されど、人を癒す業は神のみに有らず。


 ボウッ……。

 手の平に穏やかな蒼の光が灯る。

 そして。

 ィィィィィィィィィンッ。

 放たれた光は、娘の母親の体の中に浸透していき。

 カッ!

 一際強く輝いて消滅した。


 ……。

 スゥスゥ。

 母親の穏やかな寝息が聞こえる。

 ……。

「もう、大丈夫だ。君の母親は寝ているだけだよ」

 後で硬直している娘に声をかける。

「目が覚めた時には健康になっているさ」


 女の子が信じられない、というように声を出す。

「本当?」

「ああ」

「本当に、本当?」

「もちろんだ」

「嘘、ついてない?」

「当然」


「…………う」

「う?」


「うわあああああああああ!」

「おおおおおおおおお!」


 大音量で泣かれてしまった。

 トホホホホ。

今話は少し暗いお話し

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