56話 おいでませ和の国にっ○ん③
誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。
今月の16日から来月頭まで自動車免許の合宿に逝ってまいります。
故に、力を振り絞っての連日更新、です。
……無茶しやがって(自分に向かって)
「へっひょく、おまへさんは、もぐもぐ、はにものはんらい? んぐんぐ」
「食べながら喋らない、下品だよ」
目の前で全裸の変態男改め、パンツ一丁男――パン一男が焼き魚をほお張りながら聞いてくる。
「食べるか、喋るかどちらかにしようよ」
「もぐもぐ」
「……」
「んぐんぐ」
「……」
「もぐもぐ。ごっくん」
「……」
パン一男は咽を鳴らして口の中のものを飲み込む。
と。
「おお! 焼けた、焼けた」
と今度は焚き火の周りにくべてあった串肉を手に取った。
「もぐも……」
「先に喋る!」
思わず呪符を投げつけてしまったのは、生涯でも最たる不覚の一つだと思う。
「私は伊織、ジパングの第二法術師隊所属の戦巫女、貴方は?」
「にゃるほどねぃ。俺はシーファ。今はニート改め、現在進行形で家なき子だぜ! そもそも家がなくちゃ自宅警備員はできないのですよ」
ニート? 家なき子? 自宅警備員?
「え、と」
「いや、まぁ、ちょいと屋敷を追い出されてね」
そう苦笑しながら目の前のパン一男、改めシーファ殿は頭をかく。
「事情も事情だから帰るに帰れなくてね、それでこんなところで野宿をしていたんだ。まぁ、後は噂に名高いジパングの温泉を堪能しに、ね」
空になった串を軽く揺らしながら笑う。
にへらっ、とした笑顔だ。
先程魔族を瞬殺した人物と同じとは到底思えない。
などと私が考えていると。
「おにーちゃーん! 私も乗りたーい!」
と、横合いから幼い少年達が声をかけてきた。
現在この河原ではここまで逃げてきた人たちが思い思いに休憩や食事などをしている。
格好や言動はどうあれ、目の前で魔族を瞬殺した男がいるのだ。これ以上の安心はないだろう。
皆が穏やかな表情で寛いでいる。久しぶりに恐怖以外の表情を見た気がする。シーファ殿が魚や肉、果物などを分けてくれたのも大きな要因の一つだろう。
でもって小さな子供達は。
「はやーい!」
「すごーい! すごーい!」
「きゃー♪」
川を高速で泳いでいる巨大な魚の背に乗って遊んでいた。
「おうよ! もうちょいと待ちなって。後少ししたらポセイドンも戻ってくるからよ」
そういってシーファ殿は子供達に笑いかける。
どうにも先程の『レイトウホンガツオG』というのはあの使い魔であるポセイドンとやらが武器化した状態のことであるらしい。
いまはカツオではなく、どちらかというなら鮫に近いような形態だ。
「早く乗りたいよう!」
「うんうん」
流石に全員は乗れないのか、乗れなかった子供達が口々に騒いでいる。
しかし。
「我慢だぜ、坊主。まぁ、これでも食って待ってろって」
そう言って、笑いながら口に果物を突っ込んだ。
「「むぐ」」
……。
最終的には子供達は全員乗れたらしく、今は川で水遊びに興じている。
「シーファ殿」
「うい?」
「我らはこれより、姫巫女様の張る大結界の内へと向かおうと思います」
「へぇ、つまりは中央に向かいたいのかい?」
「はい」
頷き一つで肯定する、が。
「まぁ、頑張れ」
そう応じて、再度串肉を齧り始める。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「お?」
「そ、それだけ?」
慌てて問う、しかし。
「ん? ……ああ。もしかして付いてきて欲しいのかい?」
「うっ」
まさにその通りだ。
「あのなぁ……」
シーファ殿はため息をつきながら此方を諭すように言葉を紡ぐ。
「ここは俺の野宿地だから先ほどの魔族は撃退したが、本来は君らを見捨てても全然構わないんだぜ、俺は」
「うぅ」
「それを受け入れ、食料まで分けたんだ。それ以上を求められてもなぁ……」
「……」
ぐうの音も出ない。まさにその通りだった。
愚かしくも浅ましい願だったかもしれない。でも。
「それに」
……。
……でも。
……。
目の前でシーファ殿がなにやら言っているがろくに耳に入らない。
今の私の胸を占めるのは無限にも等しい無力感。
力及ばず、仲間はおろか民も護ることは出来ない。
これでは姉さまには遠く及ばない。
「う、ぐす」
思わず、あまりの悔しさに涙が漏れた。
―――シーファ―――
「それに」
「……」
「お兄さんは働くのが嫌いでね」
「……」
「だから、ここから動きたくないし。わざわざ自分から渦中に巻き込まれるなんて、マジで勘弁だぜ」
とりあえず、逃避行のお手伝いなんて面倒なことは却下。
俺はほとぼりが冷めるまでここで食っちゃ寝してすごしてやんぜ。
などと、悦に浸っていると。
「う、ぐす」
と、非常に我が精神に宜しくない、女の子の嗚咽が耳に直撃した。
「な!? ええ!」
見れば目の前で伊織と名乗った巫女がうつむき、涙を流していた。
ジパングの民に多いという墨のような黒髪に隠れてよくわからないが、間違いなく嗚咽だろう。しかも、下の地面には落ちたらしい水滴の痕が。
「んな! んな!!」
なぜに泣く! お兄さんは別に疚しいことはしてないぜ!
「う、うう。ふぅぅううう」
しかし俺の狼狽に関わりなく、その後も暫く山中の渓谷に嗚咽の声が響き渡った。
……。
……やれやれ。
子供の面倒はミレイ一人で手一杯だっつーの。
伊織と名乗った少女を膝枕しながら疲労度MAXのため息をついた。
一度泣いたことで張り詰めていた緊張の糸が切れたのだろう、疲労もあってか死んだように眠っている。
「ったく」
……涙に弱いのは悪魔としてどうなのかねぇ。
眠っている少女の髪を優しく撫でながら苦笑する。
溺れた犬は打て、という格言がある。
これがリースやマリエルなら絶対に叩くだろう。叩くどころか嗤って追撃を加えるぐらいは当然かもしれない。
だが、生憎と俺にはその気はない。というよりなれない、といった方が正かもしれない。
中途半端なお人よし、といえば近いかもしれない。
「しゃーないなぁ、まったく」
苦笑半分、疲労半分でため息をついた。
元々ここにいるのも暇をもてあましたからに過ぎない。
ならば、一時的に俺のニート信念には目を瞑っていただこう。
それに、ジパングの中央で海の幸を満喫するのもありかもしれない。
「いい店紹介してもらうぜ」
今度はまじりっけ無しの苦笑で、再度巫女の頭を撫でた。
―――神楽―――
「神楽様」
「何?」
自室で編み物をしている最中だった。
年に数回しか会えない妹へのプレゼントだ。
こんなことでしか気を引く術を知らないとは、ジパングの姫巫女が聞いて呆れる。
……今は出動中だというが無事だろうか。
しかし、その思考を砕くように婚約者の声が耳朶を打つ。
「先程、東方の寒村にて第二法術師隊が全滅しているのが発見されました。死体は少なく、魔族に食われたか、持ち去られたか……」
「っ!」
呼吸が止まる。全身に嫌な汗が噴き出る。
「少なくとも隊の隊長の死体は発見されました、生首の状態で。…………あまり憶測で物を言うのは好まないのですが、既に全滅したと見たほうがいいかと……」
宗武の声は無感情に近い。だからこそ逆に冗談を言っているのではないと理解できてしまう。
……ナニヲ、イッテイルダロウ。
分からない、理解できない。
歯がガチガチと鳴る。
「い、伊織、は?」
聞くな! 聞くな!
理性が全力で叫ぶ。
しかし、生まれ持った本能、姉としての想いが勝手に言葉を紡ぐ。紡いでしまう。
「…………死体は発見されていません」
宗武の精一杯の優しさ。
生きている可能性も示唆している。
だが、これは魔族との戦争。生き残っている確率などそれこそ刹那もないだろう。
「■■■! ■■■!!」
なにやら雑音が聞こえるが、それを理解することは出来なかった。
……。
「神楽様!」
気づけば宗武に抱きかかえられていた。
平衡感覚が自らの状態を教えてくれる。
……横になってたんだ、ボク。
恐らくは気が遠くなって、倒れでもしたのだろう。
「気をしっかり持ってください!」
宗武の声も必死さが滲んでいる。
「いいよ、大丈夫。ちょっと疲れただけ」
起き上がると、自らの婚約者の腕を逃れる。
「ごめん。一人にしてくれないかな」
「……仰せのままに」
宗武が一礼の元出て行く気配がした。
周りから女官の気配さえない。
恐らくは宗武が下がらせたのだろう。気の利く婚約者だ。
「……」
こんな世界、こんな情勢だ。
覚悟はしていた、と思う。
「……そうか、いなくなっちゃったんだ」
でも、それを受け止められるかというと、それは別問題。
頬に温かい感触を感じた。
「?」
手で触ってみれば、それは。
「涙?」
間違いなく涙だった。
機能していないはずの眼から悲しみの雫が零れていた。
「あはは。もう少しお話ししたかったなぁ、お姉ちゃんとしていろいろしたかったなぁ」
声が震える。
心に圧し掛かるのは後悔と悔恨の念。
両親が既に無く、ただ一人の肉親だった。
私と違って、一切の神秘を受け継がなかった妹。
ただの人として生まれてしまった妹。
けれど、確かに妹は私の心の救いだった。
心の拠り所が壊れていく音が聞こえる。
言っては悪いが、所詮宗武は親同士、家同士が決めた婚約者だ。
真の意味で心を許せる相手ではない。
心許せる相手は妹しかいなかった。
姫巫女という重圧、民のため、国のために心削る日々。
その仲で唯一の慰め。
……。
それがいなくなってしまった。
ポツリと呟く。
「……伊織」
お姉ちゃんは直ぐにはいけないよ。でも必ず会いに行く。絶対に会いに行くよ。
だから。
「せめて、来世では仲のいい姉妹になりたいなぁ」
自分の中で大切な何かが壊れた気がした。
―――シーファ―――
腕の中の小娘が呻き声をあげる。
「おう、おきたか伊織」
「え、え? うわ!」
「おっと、暴れるなって言うの」
背中に手を回し、ゆっくりと抱き上げる。
「私はいったい?」
「疲れてたんだろう、可愛い寝顔だったぜ」
しししと笑う。
「うっ///」
巫女の顔が真っ赤に染まった。
一先ずは目先の事を話そう。
「雇われるなら付いていってやってもいいぜ」
「本当!?」
「おうよ! ただしお兄さんは高いよん♪」
尤も要求することは既に決まっている。
「……分かった、雇うよ。お幾ら?」
「いんや、金はいらね」
「?」
「要求することは二つ」
「二つ?」
「おう」
意地悪く笑いながら頷くと、その条件を開示する。
「まず一つ目だが、中央の都で料理の美味い宿を紹介すること!」
「は?」
巫女の目が点になった。
……。
「そ、そんなことでいいの?」
「全然、問題ないぜ」
ジパングの海の幸の名声はゼア大陸にも響いている。
この地に来たのなら是非とも堪能したい、というよりする! これは確定事項也!
「そ、そういうことだったら、案内するよ」
「おう、宜しく頼むぜ!」
「分かった、任せてよ! 全力でいいお店を紹介するから!」
「うむうむ」
笑って頷くと。
「二つ目は?」
「二つ目の条件、それは」
「それは?」
一呼吸の間、そして宣言した。
「(俺が帰省するその時まで侍女として)君が欲しい!」
……。
……。
……。
ん?
なんか言葉を省略し過ぎたような気がするが……。
……。
ま、いっか。
とりあえず、視線を向ければ眼前で巫女が時間停止でも食らったかのように硬直していた。
―――伊織―――
「君が欲しい!」
目の前でパン一男が宣言する。
……。
……。
思考停止が解除される。
「うぇえ!?」
どどどど、ど、どーしよう!!
これってプロポーズですか? プロポーズなんですか!?
ええ! 私、いま求められている!?
どうしよう、お姉ちゃんが結婚するまで誰のところにも嫁がないつもりだったのに。
ええええ!?
いくらなんでも急すぎますよぉ。
「どうだい?」
「いえ、そのぉ」
白い歯がキラリと光る。
どうだいって何がですかああああああああああ!
私だって、花も恥らう乙女。
将来は白馬に乗った王子様が迎えに来るなんて夢を見たこともある。
けれどまさかそれが白馬に跨った王子様ではなく、巨大な魚を持ったパン一の変態だったとは夢にも考えなかった。
いや、先程から観察するにけして悪い人ではないはず。
むしろ、逃げてきた私達を受け入れ食料まで分けてくれた。しかも私を魔族の一撃から庇ってくれたのだ。その上、今は条件付だが、付いてきてくれるとも言っている、この戦争中のジパングで、だ。
いい人だし、嬉しくなかった訳ではない。
けど!
けれど!
「えええ!?」
いや、まて。考えよう。
よく見れば顔は悪くない。
体だってよく鍛えられている。
先程の一連の動きも熟達したものだった。
いや、でも、やっぱり。
「う、う、うう」
チラリと視線を向ければいい笑顔で此方の返答を待っている。
「うう」
思わず頭を抱えてしまう。
まさかこんなところでこんなことになろうとは。
「あ、あの」
「お? なんだい?」
「私なんかの何処が良かったの?」
正直、私は自分の容姿には自信がない。
姉さまとは双子だ。だからそこまで素材は悪くはないはず、でも。
「私なんて泥臭いし、胸も小さい。顔や肌だって手入れは疎かだし、それに口調も男っぽいっていうか、その……」
「髪がきれいだぜ」
「え?」
気づけばシーファ殿が此方の頭をやさしく撫でていた。
「綺麗な髪だ。こういうのを鴉の濡羽色っていうんだろうな。それにいい匂いもする」
「あっ///、止めてよ。私汗かいてて、お香もつけてないし」
「ははは、謙遜するな。中々に可愛いぜ、お嬢さん」
「ううう///」
私が姫巫女様の妹だというのは周知の事。
今まで私にこのようなことを言ってくれた人は居なかった。頭を撫でるなんてもってのほかだ。
だからなのか、不覚にもキュンッときてしまった。
「ううう。私は……」
「ん、そうだ。そんなに自分の容姿に自身がないなら、ちょっと待ってろ」
「え?」
「確か、以前エルから貰った物が、たしかここら辺に。お! あった、あった」
何処から出したのか分からないが、そのまま取り出したそれを私の髪に飾り付けた。
「これ、は」
これは!
「家の庭で育てた薔薇だぜ、綺麗だろ。巫女服の紅と白にマッチしていい感じだ」
そのまま目の前で水鏡を作ってくれる。
「あっ」
薔薇一つで、泥臭いと思っていた自分の顔が華やかになる。
「似合うぜ♪」
「う///」
……たしか薔薇の花言葉は、『あなたを愛してます』。
……。
ここまでされてしまったなら女としても、もう引くわけにはいかない。
というより、先程から不覚にも胸が高鳴っている。
「う、その」
「おう」
「不束者ですが、その、大切にしていただければ、幸い、です」
「お兄さんは、身内には甘いぜぃ♪」
ウインク一つ。
今度は間違いなく、キュンッという音が聞こえた。確実に。
姉さま、どうにも私は行かず後家にはならなかったみたいです。
この時、この二人の認識はそれこそ太陽と月くらいに食い違っていたという(笑)
ご感想・ご意見・各種批評・間違いの御指摘などをお待ちしております。
ハーレムに飛び入り参加の<微男言葉の妹巫女>です!
というより、姉が打ちひしがれている時に妹は求婚されました(笑
目指せ姉妹丼!
ちなみに背景では子供達が巨大魚と戯れていたりしますwwww




