55話 おいでませ和の国にっ○ん②
誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。
機竜も同時更新しましたので宜しくお願いします! m(_ _)m
「う、く~」
起き上がると両手を伸ばし、体を捻る。
先日までは柔らかいベッドで寝ていたのだが、今は堅い岩の上である。堅い岩の上に布を重ねて敷いてあるだけだ。
「あ、ぐ」
捻るのにあわせて、コキッ、コキッ、と鳴る。
そのまま頭元に置いてあったコップに冷水を注ぐ。冷水自体は上流の水を汲んできて沸騰・濾過し水球の状態で頭上
に浮かせてあるものだ。
「んぐ、んぐ。ぷはぁ」
朝一の冷えた水は腹に重いが、心地いい。
ここには俺を起こしてくれる侍女はいない。まぁ、お転婆娘もいないが。
故に起きて気づけば既に午後の入口。
「……。おー……」
僅かにぼーっとするが、やがて頭の回転が通常通りに速度を上げていく。
「……飯、食うか」
ここには飯を作ってくれる従者もいない。故に食事を取りたいのなら自分で用意しなければいけない。
「今日もいっちょ頑張るか」
頭を掻き、影の異空間から槍を引き抜いた。
俺が野宿している場所は温泉大国と名高いジパング。その山中の渓谷である。
探査魔術の結果、この辺り一体に源泉があり、少し掘り起こすだけで温泉が湧き出るのだ。さらにはこの辺り一体は中々に資源が豊富なようで食える動植物が豊富だ。野宿する場所としてはもってこいの場所。
我ながら中々にいい場所を見つけたものだ。
緩やかに流れる川に浸かりながら意識を集中する。
狙うは水面下で息を潜めている俺の朝食(候補)。
キュピィィィンッ!
眉間に閃光が奔った(気がした)。
「ふっ!」
超高速で突き出された槍は狙いを外さずに水中の魚を串刺しにする。
「おっしゃあ!」
引き上げた槍の切っ先には川魚が見事に串刺しになっていた。
ちなみにこの槍は俺の愛用の神器、神槍『グングニル』そのものである。
銛などというものは持っていない故に、神槍『グングニル』で代用しているのだ。
よもや天上の主神も、世界最強の神器が魚を取る銛の代わりになっているなど夢にも思わないだろう。
もし、知ったのなら号泣必至である。もしくは憤死?
だが、このグングニルは本当に使い勝手が良い。
突けば必ず当たるというのは本当に便利。おかげで俺は昨晩から一切の食いっぱぐれがない。魚も猪も鹿も鳥も、とにかく一突きで手に入るのだ。俺は今後も野宿生活があるなら必ずこの槍を持っていくだろう。
まぁ、とにかく今は魚が取れたことを祝おう。
せえーの。
「とったどーーーー!」
……。
微妙に野生児化していた。
「あぐ、あぐ」
未だ熱い焼き魚の背に齧り付く。
獲った魚の内臓を取り除き、洗い串を通し焼く。単純ゆえに、使われる素材の善し悪しがそのまま出るのだ。
「うま、うま」
塩がきいた焼き魚は実に美味く、俺の舌を楽しませる。
さっきまで川の中で元気に泳いでいた魚だ。実に身がしまっていて美味い。
実にくせになりそう。
「んぐ、んぐ。ふぃー……」
口の中のものを飲み込むと、感歎の一息をつく。
目を向ければ目の前の焚き火にはまだまだ串にさした魚がくべてある。
火にくべた時間が違うため、魚の何匹かは未だ焼きあがらないのだ。
とはいえども実に食欲を刺激する香りがする。
「うほ、いい感じ♪」
思わず、いろいろと危険な感じがする言葉が口から飛び出してしまった。
……さてと。
残りの魚が焼きあがるまでにはまだまだ時間がある。
ここには俺を支える仲間はいない。俺が愛する家族は遠く別の大陸だ。
「……ふむ」
ならばここで俺に仕える使い魔の一匹でも作っておくか。
帰ったならそのままミレイに与えてやるのもいい。
……。
「うし!」
影の異空間に手を突っ込むととある物を探す。
そしてそれはすぐに見つかった。
「あった、あった」
探し出したそれを目の前に持ってくる。
それは魚の牙だった。
「我が心を受け、一つの命となれ」
莫大な魔力が魚の牙に収束していく。
この牙は俺が人間界に出てくる際に魔王城の宝物庫からがめて来たもの。
元を辿れば人間から略奪した美術品であり、太古の化石かなんからしい。
ィィィィィィィィィィィィィィィィィンッ。
魔力が集束してゆき、次の瞬間。
ボンッ。
巨大な影が現れた……。
……。
「そうだな、お前の名前はポセイドンにしよう。よろしく頼むぜ、ポセイドン!」
「ギョソッ!」
―――伊織―――
力の限り走る。
背後には巨大な魔族が追ってきているのが分かる。
「みんな頑張って!」
私の後を着いて来る人々に声をかける。
しかし、皆の顔は一様に絶望に彩られている。
くっ。
思わず唇をかむ。
部隊で生き残ったのは私だけ。
残りの戦友は皆、魔族の足止めとして散っていった。
次に魔族に追いつかれそうになったら私が殿をするしかない。
焦燥だけが心に積もってゆく。
兎に角、今は逃げることだけを考えてくてはならない。
と、その瞬間。
「ッッッッッ!」
進行方向で強大な魔力の集束を感じた。
今まで感じたことのないほどの魔力量。
正直、その魔力量は姫巫女様の法力の総量より遥かに多い。
ジパングの中でも力の感知に関しては秀逸な私だ、誤認識ではないはず。
そして、その魔力からは一切の敵意や害意は感じなかった。
「くっ!」
思考を一瞬の閃きが駆ける。
……これは、かなりの賭け。
姫巫女様よりも強大な力の持ち主ならば背後の魔族などものともしないだろう。
……だが、その者が味方になってくるとは限らない。もしかしたら、敵意が無いだけで侵攻して来た魔族かもしれないのだ。
GAAA!
背後から大柄な魔族の咆哮が響き渡る。
「くうっ」
背に腹は変えられない。
この先で何が待っているかは分からない。
でも!
「皆、あと少し! あと少しだから!」
皆に激励の言葉をかけて自らの足に一層の力を込めた。
走り続け、やがて広い河原に出た。
そして、そこには……。
何故か焼き魚を食っている全裸の男が居た。
―――シーファ―――
いきなり横合いの森が騒がしくなったかと思うと、一人の巫女を先頭に様々な人が雪崩れてきた。
老若男女様々である。
しがしも見るからに一般人であり、戦人ではない。
「ほへ?」
思わず固まるが、同時に向こうも固まっていた。
次の瞬間。
先頭にいた巫女から甲高い悲鳴が迸った。
「きゃあああああああああああああああああああっ! いやああああああああああっ! 変態いいいいいいいっ!」
「失敬な! 全裸は男の正装だ!」
あまりのことに思わず反論してしまった。
と。
巨大な体躯の魔族が乱入してきた。
どうやら、目の前の人間達を追ってきたのだろう。
「っっ!」
どうやら巫女は純情なようで赤面していたが、巫女としての使命を忘れたわけではなかったようで。
「破ッ!」
裂帛の気合と共に呪符を魔族に撃ち出した。
……無駄だな。
巫女の実力が低いとは言わない。
人間にしてはいい方だ。あくまで普通の人間にしては、だが。
だが、相手は魔族。それも下級、最下級のようなものではなく中級に近いぐらいの力はもっているであろう個体。
……人間には荷が重いだろうな。
俺の予想を裏付けるように、いとも簡単に呪符が弾かれる。
「しゃーないなぁ……」
見てしまった以上、このまま無視するのは後味が悪すぎる。
「やるか」
一言呟き、先程作り出した使い魔を手に取った。
―――伊織―――
全力の呪符がいとも簡単に弾かれる。
「そんなっ!」
足止めにもならないなんて!
あまりのことに絶望が身をつつむ。
目の前の魔族は拳を握り締めると、それを勢いよく叩きつけてきた。
轟音。
いつの間にか目を閉じていたのか?
恐らく本能的な恐怖によるものだろう。気づかなかった。
そして何時までたっても身にこない痛みに疑問を覚え、そっと目を開けてみれば……。
「おお。危なかったな娘」
フランクな感じで先程の変態が魔族の拳を受け止めていた。
……。
手に持った巨大な魚で。
「…………………………………………………………………………………………は?」
思わず目の前の光景が理解できなかった。
全裸で手に魚を持った変態が、その魚で魔族の拳を受け止めていた。
……。
この光景を一目見て理解できる人間がいればそれはまさしく神だろう。
目をこすり、再度瞬きを繰り返すが目の前の珍光景は先程と寸分も変わらない。
「え、ええ!?」
「戦闘中に呆けるとはいい度胸してるじゃないの」
変態は笑いかけると魚を一閃。
轟音をたて魔族が吹き飛んだ。
「あ、あの、その。……そ、それ! それ、は?」
まず最初に手に持った魚を指して聞く。
本来なら名や職業でも尋ねるべきなのだろうが、そんなものよりまずは手に握られた魚が気になった。
「お? これか?」
思わず何度も頷いてしまう。
と、全裸の変態は自慢するように魚を見せつけ宣言した。
「これぞ俺のNEW武器! その名も『レイトウホンガツオG』!」
「カ、カツオ!?」
「EXACTLY! ちなみにGはGIANTのGね!」
巨大な魚――改めレイトウホンガツオGを軽やかに振り回す。
それは生きているのか鰓や口がぴくぴくと動いている。
……。
全裸の変態が生きている巨大なカツオを振り回す。
それはそれはもう、誰がどっからどう見ても完全無欠にシュールな光景だったという。
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伝説の武器で魚を獲る主人公でしたwww
ちなみにレイトウホンガツオGは某ハンティングゲームのとある武器を想像していただければ……。