54話 おいでませ和の国にっ○ん①
誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。
同時に機竜も更新しますから、そちらもよろしく頼みます~ww
「出て行って下さい」
早朝の一言。
とりあえず涙が流れた。
―――アナスタシア・フォン・バレッタリート―――
リビングでご主人様が、エル様から強制退去の勧告を受けている。
普段ならそれとなく取り成すのだが。
「……うう」
私のスカートに娘が涙目でしがみついている。
「ええと」
こ、これはどうしましょう?
……。
事の発端はミレイが原因である。
「お、お母さん」
早朝ミレイが顔を真っ青にし、涙を瞳に溜めながら泣きついてくる。
「ど、どうしたの!?」
「……血が」
見ればミレイがいつも来ているパジャマの股の部分が真っ赤になっていた。
「お腹が痛いよう」
再度涙声で私の体にしがみついてくる。
とはいえ私個人としては……。
「ええと、この場合はどうしましょう」
恐らくミレイに女の子の日が来たということなのだろう。
しかし、対応に困る。
私の場合は当時母親が面倒を見てくれたが、その時は自分の体から血が出たということで不安で不安でしょうがなかったのだ。
さらに言うなら体も異常に重く感じ、初めてのことだらけで不安が止まらなかった覚えがある。
ミレイもそろそろ十一歳になる、ならば来てもおかしくはない。
だが……。
「ええと、ええと」
何せ他人の、しかも娘のつきのものの面倒をみるとなると初めての経験過ぎて、まず最初に混乱が先立つ。
「お、お赤飯でも炊くべきでしょうか?」
……。
最終的に念話でエル様を呼び、相談に乗ってもらうことで落ち着いた。
そして、現在。
「とにかく出て行って下さい」
再度、強制退去の勧告を受けている。
ミレイが顔を真っ青にしながら私の足から離れない。
「ええと、ご主人様。ほんの少しでいいので、屋敷を離れていて貰えませんか?」
「スターシャまで!?」
私の言葉に、ご主人様が「裏切られた!!」といった感じで叫ぶ。
「えと、その、すいません。今度説明しますので、今は出て行ってくだされば……」
現在ミレイがかなり不安定になっている。
本人が落ち着くまでは男性が傍に居ないほうがいいだろう、とのこと。
これは女の子にとって相当にデリケートな話しでもあるので。
と。
いきなりご主人様が鼻をすんすんと鳴らす。
「ん? なんだこれ? 血の臭い? それにしては……」
とミレイに目を向けようとした。
瞬間。
ズドォンッ!
強大な白銀の爆風がご主人様を空の彼方に吹き飛ばした。
見ればエル様がぞっとするような冷たい瞳をしていた。
「デリカシーのない男性は嫌われますよ、ご主人様」
さらに。
「スターシャ、協力してください」
フォンッ!
屋敷にぶ厚い結界が展開された。
フォンッ、フォンッ、フォンッ。
何重にも結界が展開されていく。
エル様はその身に持つ神力を完全に使いきる勢いだ。
そして、結界がどれもこれもが「ご主人様の侵入厳禁」というものだった。
「エル様、やりすぎでは……いえ、なんでもありません」
……申し訳ありません、わが主。
――展開、実行。
フォンッ。
申し訳程度に結界を展開しておいた。
―――シーファ―――
「……」
と、とりあえず、ありのままに今起ったことを話すぜ。
エルに風で吹き飛ばされ、屋敷に空間転移で戻ろうとしたら全て拒絶された。
な、何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何をされたのか分からなかった。
思わず涙が止まらなかったぜ。
激怒とか憤慨とかそんなちゃちなもんじゃあ断じてねえ。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ。
とりあえず不貞腐れてみる。
「いいもんね! 別にいいもんね! 温泉でも行って、一人でエンジョイしてやっから!」
目から汗が流れて止まらない。
「ふーんだ! べーだ!」
(さっさとどこにでも行ってください、女の敵。後、うるさいです)
「………………………………………………………………。ちくしょー!!」
目から雫が止まらない。
ち、ちがうんだからね!これは汗なんだからね!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!」
その日、クォーツの上空に悲哀を誘うような泣き声が響き渡ったという。
アーメン
―――???―――
目の前には幾人もの人間が並んでいる。
始まりの五家の人間もいれば、帝都守護隊隊長、帝都中央院の大僧正など様々な人間がいる。
だが、ここいる人間の表情は一律して同じだ。
即ち、疲労と不安。
既にこのジパングが魔族との戦争に入って二週間以上が経過した。
戦線は我等の不利。
帝都とその周囲はボクの大結界のおかげで平穏そのものだ。
しかし、ジパングの辺境では魔族による略奪や虐殺が日々繰り返されている。
ジパングが誇る法術師隊や剣士隊が日夜駆け回っているが、その成果は芳しくない。
中でも、大悪魔の一体であるレヴィアタンが暴れまわっているのがそれに拍車をかけている。
既にジパングの多くの兵や部隊がレヴィアタンと遭遇、そのまま殲滅されている。
大悪魔クラスとなると、ボクが直接相対するしか対処方法はない。
だが、ボクは大結界のためにこの地を離れるわけには行かない。
アバロンとエイス、そしてローム大陸に存在する幾多の国々に救援の要請を送っているが、その結果もまた芳しくない。
……。
こんな状況の中で、ボクが託宣を受けたのだ。
ボクの託宣に希望を見出す人と絶望を見出す人が半々。
しかし、ボク自身もこの託宣になんら意味を見出せなかった。
否、この託宣――ローム大陸の主神たる月神ツクヨミの言葉を上手く理解できなかったのだ。
「静まれ! 姫巫女様のお言葉を賜る」
ボクの婚約者であり、帝都近衛隊隊長である宗武が声を張り上げる。
好青年であるし剣と法術の腕も確かと、非の打ち所の無い男だ。
「神楽様、どうぞ」
「うん」
皆が静まったのを見計らい宗武が声を掛けてくる。
息を吸い、呼吸を整える。
ボクはこの国の姫巫女。
この国の象徴にして、国の護国の要。
常に冷静でなければ。
……。
「皆のものに告げる。今よりの詞は、此度我らが父より賜った言である」
「「「「「はっ」」」」」
簾の向こうにいた人間がいっせいに頭を垂れる。
呼吸を一つ。歌う様に告げる。
「此度、東の地より真魔が訪れる。手に漆黒の剣を携え、背には黒き翼。深き闇の力をその身に秘め、単身にて万軍に匹敵する魔の王である」
悲鳴が上がらなかったのが奇跡である。
簾の向こうからは既に現実として見えてしまいそうなほどの絶望が漂っていた。
しかし、次の言葉でそれらも霧散する。
「されど魔の王、争いを好まず平和を好むものなり。その身には仁と愛、信と義を宿し、人の世にて平穏を望むものなり」
今度はけして小さくないざわめきと動揺が広がる。
目を向ければ婚約者もひどく驚いた顔をしていた。
「我が子らよ、汝らに生きる意志と強き信念あらば魔の王に願うべし。我らの望みを……」
言葉を終える。
希望とも絶望ともとれる言葉を聞き、簾の向こうは大きくざわついている。
言葉通りに受け取るのなら魔の王は我らに味方をしてくれる可能性がある。
しかし、所詮は悪魔である。
……。
「宗武、どう思う?」
ボクの手を取って導く宗武に声を掛ける。
「わかりません。……しかし、魔の王が我らに味方するなど……」
「……うん」
額面どおりならば、これは大きな希望ともなる。
しかし、悪魔が人助けなど信じられるわけではない。
……。
だが、もしこれが当代魔王のルシファーであるならば、その可能性もあるのだ。
魔王ルシファーは非戦主義であり、その治世を見る限り戦を好まなかったのが分かる。
だが、逆に魔王ルシファーは既に消滅したとの報告も上がっているのだ。
「この託宣はボクにもわからないよ。悪魔が人を助けるなんてあるわけない……」
これが、主神からの託宣でなければ笑い事と斬って捨てていたところだ。
と、人が近づいて来る気配を感じた。
目は見えずとも、空気の流れ、人の匂い、廊下を走る足音など視覚以外の感覚器官がそれを察する。
……それに、直感的にそう感じた。
「そ、宗武隊長!」
声は若い。しかし、声音は緊張と恐怖に包まれている。
「落ち着け! 姫巫女様の御前であるぞ!」
「は、はっ!」
跪く気配を感じる。
「いいよ。急ぎなんでしょ」
「はっ! 本日、西方の諸島にて魔族の大群が出没! 住民は……」
「「……」」
「皆殺しにされました。隊が駆けつけたときには既に……」
「くそがぁっ!」
何かを殴りつけるような音が響く。
恐らくは宗武が怒りに任せて壁でも殴りつけたのだろう。
ここからは戦人同士の会話だ。
ボクの出番は無い。
廊下を壁に沿って、進む。
自分の部屋までは既に何度も何度も通った道だ、目が見えずとも迷うことはない。
直ぐに自らの部屋に辿り着くと、そのまま畳の上に倒れこむ。
「……いつまで続くんだろう、この絶望」
陽神アマテラスの直系、現人神。
人以上の力を持つゆえに、この地に溜まり始めた負の感情をありありと感じる。
魔族の侵攻。
それは人の恐怖を掻きたてるには充分すぎた。
……。
「……魔の王」
東より来るという悪魔に思いを馳せる。
「……君が希望となってくれる事を願っているよ」
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シーファハーレム最後(?)のメンバー、ジパングの姫巫女です!
コンセプトは<盲目のボクっ娘巫女>です!
シーファの略奪愛が輝きます!←いや、正直なところわかりませんけど ( ̄ω ̄;)