50話 はじめてのどらごんたいじ⑤ - 泣きたくなった、不思議!
誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。
薄紅の空に黄金の太陽が燦燦と輝く。
その陽光は、広大に広がる茶褐色の大地をさらに濃く染め上げる。
茶褐色の地には命の息吹が感じられず、その大地を占めるものは大小多数の岩のみ。
大気は暑く風は乾き、ともすれば自然発火が起きてしまいそうでもある。
そして、その茶褐色の大地を、真紅の魔狼と群青の王虎が駆け抜ける。
それぞれの背には幼い容貌の少女が二人。
ミレイとリースである。
「けほっ、けほっ。咽が痛いです」
横でミレイが苦しそうに咽ぶ。
……無理もあるまい。
この熱く乾いた空気は人の身にはいささか辛かろう。一応、気をきかせたのか乗せていたアポロンがミレイの体を覆うように結界を展開しているが、それ以前に吸い込んだ空気で咽を痛めたのだろう。特にミレイのような幼い少女に肉体の頑健さを求めるのは酷というもの。さぞ苦しいであろう。
――治癒・実行。
薄く黒い光と共にミレイの咽に癒しの業をあてる。
「……すまぬな、ミレイ。わらわはどうにも癒しの業は苦手でのう」
大抵の魔術はこなすわらわも癒しの業だけは苦手である。
治癒系の魔術は使えることは使えるが、本職の風などと比べれば遥かに見劣りする。
……尤も。
「大丈夫です、すごく楽になりましたから」
苦手と言っても、そこはそれ、夜の魔女とまで謳われた大悪魔である。その魔術の効果や規模は人間のものとは次元が違ったりした。
―――ミレイ・フォン・バレッタリート―――
リースちゃんのおかげで咽の痛みは完全になくなった。
「ありがとうございます」
「かまわぬ。大した手間でもない」
そっけなく返されるが、その頬が微妙に赤くなっていたのは見逃さなかった。
とはいえ。
「ここはいったい?」
「三界に属さぬ、独立した世界。異界じゃ」
「……いかい?」
「是。魔術や神術、もしくはそれ以外の業で作り出したプライベート空間のようなものじゃ。わらわやシーファが使う、異空間のようなものじゃ。最もそれの超大型版じゃがな」
「ほへー……」
驚きで変な声が出てしまった。
「さて、と」
リースちゃんがヒクヒクと鼻を何度か動かした後。
「この先には確かに人の気配がある。生命が堕ちた気配が無い以上死んではいないのだろう……。しかし、どうにも妙じゃな」
「え?何がですか?」
「この世界は人が生きるにはいささか厳しい、というより長時間の滞在はそれこそ命に関わる。お主の咽が焼けたのがいい例じゃ」
「……?」
何が言いたいのか、今一理解が出来ない。
「じゃが、この先にある命は弱っているが、生きてはおる。そのサンリという男、魔術師や神官の類ではないのじゃろう。…………なぜ生きておられる?」
「……、あっ」
つまりは、なぜサンリおじさんが生きていられるのかがわからない、と。
「どうにも、今回のことはわからないことが多すぎる。そもそも基本肉食のドラゴンがなぜ果樹園を襲った?そして、なぜ人間を生きたまま異界に連れて行った?」
リースちゃんが黙り込み、しきりに首をかしげている。
だが、私としてはそれどころではない。
「アポロン!アルテミス!お願い、急いで!」
「「GAAA!!」」
もとよりかなりの速度で疾走していたのだが、さらにその速度を上げた。
「……そろそろのはず」
リースちゃんの指定した場所に近づきつつある。
と、いきなりリースちゃんが顔を上げ、嗤う。
「くはは、ずいぶん手荒い歓迎じゃのう。尤も、わらわとしてはそれでもよいがの」
「え?」
「とまれ、毛玉共」
宣言後、いきなり足元から吹き上がった闇が私達を覆う。
次の瞬間。
ドォオンッ!
という轟音が響き渡り、同時に大地が揺れた。
『ぐはははは!よくこの俺様のブレスを受けたな人間ども!これでも俺様のブレスは仲間の中ではそこそこの威力があると言われているのだぞ、虫けらにしては大したものだ』
どうにもリースちゃんが作り出した闇の壁に何かが当たって爆散したらしい。
そして、闇があけるとそこにいたのは。
「ド、ドラゴン!」
「……ほう。それもレッドドラゴンか」
言葉の通り、真紅の鱗を持った巨竜が存在していた。
『そうだ、俺様は炎の化身とまで言われたレッドドラゴン様だ。見よ!この芸術的ながらも丈夫でかっこいい俺様の鱗を、すごいだろ!流石俺様、かっこいい、しびれる、きまってる!』
「「……」」
『なんだ人間共?俺様のあまりの恐ろしくもかっこいいこの姿に言葉もないのか?ほほー、人間にては目がこえているじゃねぇか。ならば冥土の土産にもっと見よ、この俺様の優美な姿!』
そう叫ぶと、空中で不思議なポージングを始める、レッドドラゴンさん(仮)。
「……ド、ドラゴン?」
先程と同じ言葉だけど、そこに込められた感情がけっこー違っていたり……。
と、リースちゃん無表情で囁いてきた。
「ミレイよ、屋敷の修繕費、なんとかなるかもしれん……」
「へ?」
「ドラゴンの鱗や牙、角というのは極めて強力な触媒になるんじゃ。そして目の前の阿呆はその宣言どおり、割と立派なものを持っておる」
空中で不思議なポージングをとり続けているレッドドラゴンさん(仮)に改めて視線を向ける。
こちらの視線を受け気をよくしたのか。
『刮目せよ人間A、人間B!この極上のルビーのような俺様の鱗!綺麗だろ、美しいだろ!ぐはははははは!下等な人間にはかすり傷一つつけるこは出来ん!流石俺様、海のように深い慈悲の心をもっている!わざわざ下賎な人間にしなくてもいい説明をするなんて!なんて優しい!』
と、宙返りまで始めだした。
「……え、えと。あのレッドドラゴンさん(仮)から貰うんですか?」
「否。剥ぐのじゃ」
「……」
え?
一瞬リースちゃんのお言葉が理解できなかった。
「は、剥ぐ?」
「是」
「あのレッドドラゴンさん(仮)から?」
「是」
「剥ぐ?」
「是」
「…………………………………………………………」
長い沈黙。
上空では遂にバレルロールからの曲芸飛行まで始めたレッドドラゴンさん(仮)。
「…………む」
「む?」
「む、むむむむむむむむむ、無理ですよぉ!」
無理!絶対に無理!生きたドラゴンの鱗を剥ぐなど……。
だが、リースちゃんは笑いながら。
「無理でもあるまい。あやつを押さえつけて、こう、ベリッと剥ぐだけじゃよ」
と、その手で何かを剥ぐような仕種をする。
「…………」
もはや言葉もない。
「そう大きく考えるなミレイ。羊の羊毛を刈るのとたいして変わらぬ。ようは小さいか大きいかだけじゃ」
「…………い」
「い?」
「いやいやいやいや!リースちゃん!?羊とドラゴンはまったく違うからね?違うからね!?違うからね!!?」
「……いや、特に変わらんじゃろう。………………む?うむ、確かにサイズだけではなく肉は羊の方が美味そうじゃのう♪」
「……ぁ」
一瞬気が遠くなった。泣きたくなった。口からなにか白いものが抜けそうになった。全てを忘れてお母さんのところに帰りたくなった…………。
と、上空でハッスルしていたレッドドラゴンさん(仮)がいきなり宣言する。
『さて、恐ろしくもかっこよく優しい俺様のサービスもここまでだ!俺様はドラゴン内一の綺麗好きと評判。その綺麗好きは思わず食事の前に獲ってきた獲物を水で洗って火で焼いてしまうほど!と、いうわけで!』
「……」
「む?」
最初は現実逃避をしかけている私の沈黙。
次はレッドドラゴンさん(仮)のアクションを待っているリースちゃん声。
レッドドラゴンさん(仮)は大きく息を吸い込み。
『ヒャッハー!!汚物は消毒だー!!!』
と、猛烈な炎のブレスを吐いてきた。
……。
……なぜか泣きたくなった、不思議!
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ここで重大(?)発表
この「魔王、やめちゃいました!」ですが、現在ノベルゲー化計画が動いております。
知り合いの同人音楽家とイラストレーター様が今回の計画に快諾してくださいました。
詳しいことはまだ話せませんが、近々この後書きや活動報告で載せるかもですww