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49話 はじめてのどらごんたいじ④

誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。


予定より遅れました m(_ _)m


まー、いーわけさせていただくなら急用で実家に帰っていたわけです……。

「……ひどい」

 横でミレイがポツリと呟く。

 到着したわらわたちの目に映った光景の感想だ。

 緑覆い茂り、甘い香りを立てていたであろう果樹の畑は無残にあらされ、所々に大きく抉れたような爪あとがあった。

 ……。

 無理もあるまい。

 誕生より今までを、戦とは関わらない人生を生きてきた少女だ。

 その少女の目に、目前の光景は酷く無残なものとして目に映ったのだろう。

 ……尤も。

「……」

 ……わらわとしては、実にぬるい光景なんだがのう。

 魔界の戦や神魔の戦はもっと醜い。

 そこには殺し、滅ぼすだけで、結果には何もないのだ。

 ……。


 ともあれ。

「……とりあえずは、毛玉共!」

 ミレイの後に控えていた真紅の魔狼と群青の王虎を呼ぶ。

「お主らも獣の身なれば鼻がきこう、血の臭い、獣の臭いを辿るがよい」

 返答は頷きと短い鳴き声で返された。次いでミレイの肩にとまっていた小鳥に目を向け。

「鳥よ、お主はその方の主の護りをやっておれ」

 それだけ言うと、荒らされた畑に足を踏み入れた。


 ……。

「……ふむ」

 抉れた地面とこの地に残った独特の獣臭。

 答えは考えるまでも無い。

「やはり、ドラゴンの類か……」

 それ以外は考えられない。

 この地、この場には確かにドラゴン種の痕跡が残っている。

 ……だが。

「に、しては…………、ちと妙じゃな」

 追跡(トレース)が出来ないのだ。

 ここに大型の獣がいたであろうことは確かだ。

 そして、その獣の痕跡がここから少し進んだ山中で綺麗に途切れていた。

「足跡が途切れておる……。転移でもしたのか?」

 ……いや、それはあるまい。

「しかし、ここまで綺麗に足跡が途切れるのもまた不思議。さて、どうしたものか……」


 ……。

 ドラゴン種は基本魔術や神術を使わない。

 というより、使えない。

 その身に魔力や神力を秘めている者もいるが、それを使う能力が無いのだ。

 魔術、神術ともに必要なのは大元となる魔力と神力。そして、その力に形を与える術式構築の能力と自らの身に秘める力を解放する能力だ。

 だが、ドラゴン種は魔力などを解放する能力はあれど術式を構築する能力が存在しない。

 ゆえに、ドラゴン種が保有しているその力を使う場合、術式をつかわずに魔力や神力をそのままの形で使うしかない。具体的には自身のブレスに魔力や神力を込めたり、鎧のように自身の体を覆うような感じで……。

 ……。

 ……つまりは。

 空間転移をするどころか、足跡を消したり、追跡魔術を妨害したりするのは事実上の不可能に近い、ということだ。


「ふむ……」

 どうにもきな臭い。

 間違いなくここにはドラゴン種がいた。それは確かだ。

「いったい、どうした……」

 ことか?と呟こうとして更なる違和感を覚えた。

 ……。

 ……。

 ……。

「…………。……遺骸はどこじゃ?」

 ……。

 そう。

 濃い獣臭と同様に僅か以上の血の臭いを覚えるが、そこには一つとして人間の死体は存在していなかった。


 暫く荒らされた果樹園を捜索するが、一向に捜査が進まない。

「……GAU」

 気づけば横に、真紅の狼が来ていた。

 一応紅い毛玉には血の臭いを辿るように命じていたのだが……。

「……ふん」

 耳を垂れさせ、気落ちした様子を見るに、結果は芳しくないのだろう。


「……」

 離れたところではミレイが必死な表情で歩き回っている。

「……むう」

 わらわも手を貸してやりたい。だが、生死の判断は死体が見つからない以上、下せない。

 考えられる中で最も高い可能性としては、ここで暴れまわったドラゴンの胃の中に納まった、である。だが逆に、ドラゴンが生きたまま持ち去って今なお生きている、という可能性も非常に低くはあるが、また否定できないのも事実である。

「……どうにも、ややこしいのう」

 垂れていた髪を掻き揚げ、思考の海に没する。

「……この際、サンリとやらのことは後ほど考えることにしよう。じゃが、すると気になるのはここで暴れたトカゲ共の行き先……」

 本家筋のドラゴンなら飛翔能力を有しているゆえ、飛んでこの地を離れたということもある。だが、その場合はちゃんと大気にその足跡が残るし、わらわ程の魔術師が見逃すはずがない。しかし、今回の場合は山中で唐突に途切れているのだ。

「……ふむ」

 などと首を傾げていた、その時だ。


「GAAAA!」

 という咆哮が付近の森の中から聞こえてきた。

 毛玉の片割れ、青い方の鳴き声だ。

 紅い方とは逆に、青い方には獣の臭いを辿るよう命じたのだ。

 そして、届けられた鳴き声に込められていたメッセージは……。

 ……。

「……………………………………………………門の痕跡、じゃと?」


 急ぎミレイを伴いアルテミスの指定した場所まで移動する。同時にミレイに門の痕跡を発見したことを伝えた。

「リースちゃん、(ゲート)って?」

「うむ。門というのはこの世界と他の世界を繋ぐための扉じゃ。もしくは、通路みたいなものかのう……」

「へぇ、リースちゃんって物知りなんだね♪」

 素直な笑みと共に賞賛された。

 ……。

 言えぬ。

 よもや、自らが魔術により門を構築し魔界から出てきたなどとは、……絶対に言えぬ。

 などと、背にいやな汗を流しながら言葉を続ける。

「う、うむ。とは言えども、あるのは門の痕跡のみらしいがのう」

「え?」

「門は基本強力な魔術で固定されているか、術具の類で固定されていない限りその効果と存在は長くは続かない。ゆえに、わらわ達の行く先には既に門は存在しておらぬ」

 魔界の門とて、専用の建造物の中に構築されている。このような地で門を作り開いても、それは僅かな時間しか持たない。

「そんな!じゃあ……」

 ミレイが悲痛な声で叫ぶが、その口に人差し指をあて、笑いかける。

「案ずるな、ミレイ。わらわがちゃんと辿ってやる……」

「リースちゃん……」

 ……とはいえ。

 ドラゴン種が術法を、それも転移系を使用できるとは露ほども思っていなかった。ゆえに空間系の探査術式や追跡術式を展開しなかったのだ。

 ……わらわの怠慢じゃな。

 僅かばかりのため息が漏れた。


「……。確かに、門の跡じゃ」

 空間に僅かな歪みが残っている。

 いずれ時が経てば消えてしまうような僅かなものだが、それでもそこには門があったであろう痕跡が残っていた。

 ミレイを安心させるように、軽く笑いかけ宣言し。

「今より、その跡を追う。しばし待っておれ」

 ――探査・実行。

 ――追跡・実行。

 門の痕跡を辿った。


 ……。

 既に閉じて消えた門だ。その接続先を追跡するなど、広大な砂漠の中で一粒の宝石を捜すに等しい。人間の魔術師では、要求される技量の高さに絶望しただろう。

 そも、わらわ程の魔術師でなければ諦めるか、別の道を探している。

 ……まぁ、ミレイの母君ならばその限りではなかろうがのう。


 ……。

 サマエルを完膚なきまでに叩きのめした人間の魔術師に思いを馳せる。

 屋敷に運び込まれた後、サマエルの記憶領域に干渉し、戦闘の記憶を見せてもらったのだ。

 正直、「戦慄した」の一言に尽きる。

 その武技の高さもさることながら、その魔術の業は間違いなくわらわやルシファーといった、生まれながらの強者の域に届きつつある。

 成長と進化を重ねるヒトならば、遠くない未来にわらわ達と並ぶ可能性もある。人間であれほどの実力者が存在するなど、想像もしなかった。

 そして、それほどの実力者にも関わらず、ルシファーに絶対の忠誠を誓っている。

 ……。

 ……機会があるのならば相対してみたかったのう。

 小さくない口惜しさに、思わず苦笑いが浮かんだ。

 ……。

 リース本人は気づいていなかったが、その苦笑には微量の狂気が混じっていたりした。


 などと、余計なことを考えているうちに。

「…………捕まえた」

 ――補足。

 門が繋がっていたであろう世界を捕捉した。

「ぬ?」

 だが、口をついて出たのは僅か以上の疑問符だった。

「三界……ではないのか?」

 何度も確認を取るが、門が繋がっていたであろう世界は三界のどこでもなかった。

 すなわち。

「次元の境界の中、か」

 ……。

 天界と人間界の間に存在する次元の境界、そしてその中に作られた小さな異界。

 意図的に作られた世界。

 それが意味することは。

 ……。


「……」

 ドラゴン種には異界を構築することはおろか、術法の行使すら不可能だ。

 しかし。

「……しかし」

 たった一匹だけ、世界を創る力を持ったドラゴンが存在した。

 名を。

「アーカーシャ……」

 五元の頂点に位置する(アーカーシャ)の名を持つ、ドラゴンの始祖にして王。

 かつて天上の主神の片腕として竜の大群を率いて魔界に侵攻した雄。

 そして。

「……くく。つくづく縁とは異なものよ」

 遥か古の時、わらわが切り刻んだトカゲ共の長だ。

 ……。

「くく、くはははは!よもや、よもや生きておったとはのう」

 嗤い、さらに探索の手を伸ばした。


 ……。

「ミレイよ、わらわはこれから門の痕跡を辿り、異界に侵入しようと思う。お主はどうする?」

「私も行きます!」

 わらわの質問はミレイの即答で返された。

 だが、その返答は予想できていた。くくく、と笑うと。

「よかろう。しかし、条件がある」

「?」

「わらわの言うことを厳守すること、じゃ」

 異界の中に複数のドラゴンの存在を感知した。

 そしてそこには恐らく、竜王アーカーシャがいる。その片鱗もまた感知した。

 ミレイを護れないなどとは死んでも言わぬが、それでもなるべく避けられる苦労は避けるに越したことは無い。

 ゆえに。

「それが守れるのであれば、お主を供としよう。返答はいかに?」

 と、二度目の質問を送るも。

「守ります!」

 再度即答で返された。


「よい」

 それを小気味よく思い、微笑を浮かべ。

「ではついて参れ。我が進む先、まだ見ぬ異界へと」

 宣言し。

「『開け』」

 異界への道を押し広げた。


「くく、ミレイよ。わらわとお主とでのドラゴン退治の始まりかもしれぬぞ♪」

「…………………………………………え?」


 わらわの宣言を聞き、ミレイの顔が見事に硬直した。

 ……。

 ちなみに、その時のミレイの顔は後々まで笑いの種になったそうな。

ご感想・ご意見・各種批評・間違いの御指摘などをお待ちしております。

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