04話 帰り道にはご用心
誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい
「……エル」
「大丈夫、気づいていますよ」
「そうか……」
「人数は七人、戦士系が四人に魔術師系が二人、最後の一人はおそらく神官でしょう」
「まったく、何の用だか……」
傭兵ギルドを出てから俺たちをつけてくる輩がいるのだ。
しかも僅かに敵意を感じるおまけつき。
「俺はただニートになりたいだけなのに……」
……俺のニート伝説を邪魔する者よ、魂すらも煉獄の炎で焼き尽くしてやる!
「殺す」
「殺してはダメです」
ほわい?
「ここは魔界と違って死者が出ればことが大きくなりますし、下手をすればせっかく手に入れたギルドカードも取り消されてしまいますよ」
……。
「めんどくせぇなぁ」
「仕方ありませんよ、ここは人間界……。私たちの目的は天界や魔界の目から逃れて隠居することなのですから」
「……だりぃ」
「少し、いいかな」
さらに五分程歩いた時だろうか、目の前に体格のいい男が現れた。
「……何の用でしょうか?」
エルの後ろに下がる。
「私はティアード・セルゼン、傭兵団を率いている者だ。私は君たちを勧誘しに来た……」
目の前にはティアードと名乗る傭兵がいる。
……ふーん、勧誘、ね。
俺は交渉ごとが苦手なのでエルに任せることにした。
「……勧誘ですか、ありがたい話しですが、お断りします。それに私たちは登録したばかりでランクも低い。正直、足でまといにしかならないでしょう」
「……ほう」
「それに、私たちを勧誘しに着た理由が今一わかりません。ギルドには私たちより腕の立つものが多くいました……」
「………………」
「………………」
しばしの沈黙の後にティアードが答える。
「…………私のパーティに神官がいるのだが、その娘が君を指名していてね。曰く「次元が違う」と。その娘も神官としては優秀だと思っているのだが、その娘をして次元が違うと言わしめたほどだ。それで、是非とも勧誘しようかと思ったのだよ」
「……そうですか」
周りからの視線はエルに集中している。
なるほど、神官か。
たしかに神官は神の力を使う。ならギルドにいた時、俺を折檻するために収束していたエルの神力を感じ取ったのだろう。
「しかし……、何度も言いますが、お断りします」
「…………一応、理由を聞いてもいいかな」
「我が身・我が力は我が主の物、私に決定権はありません。それに、例え私に決定権があっても、我が主に敵意を向けた者とは組めません」
「……」
「以上です」
「……」
「お話しがそれだけなら、通して貰っても宜しいでしょうか」
ティアードが諦めたようにため息をつく。
元々、勧誘できるとは思っていなかったのだろう。
「………………そうか、すまない時間をとらせたな」
「いえ。では行きましょう、ご主人様」
「あいよ」
「いきなり勧誘とはな」
思わず、くくくと笑いが漏れる。
「周りの者は私に注目していました、おそらく……」
「ああ、ギルドでお前の神力を感じて追ってきたのだろうよ。それに、敵意を感じても殺意は感じなかった。おそらく俺に嫉妬でもしたんじゃね?お前は割りと美人だからな」
さわっ。
ビクンッ!
「ご主人様///」
「そう、カリカリすんなって。減るもんじゃないし♪」
さわさわっ。
ビクビクンッ!
「ほほう、いい尻してるのう♪」
さわさわさわっ。
ぷちっ。
……。
「♪(ニコッ)」
カッ!
……。
その日、膨大な光の塊が宵の夜空を貫いていった。
「一晩泊まりたいのですが、お部屋は空いていますか?」
「……空いているが、ええと……」
女将さんが、言いよどむ。
「はい、相部屋で構いません。ね、ご主人様♪」
「…………」
俺は、体から煙を上げて昏倒していた(笑)。
……。
夕食はこの地の名物である川魚の香草焼きだ。
川魚の焼き具合といい、香草の香りといい、中々の一品だった。
と、エルが横を通りかかった女将さんに話しかけた。
「女将様、少々宜しいでしょうか?」
「なんだい、礼儀正しい娘だね」
女将さんもニコニコしながら応じてくれる。
「はい、この辺りに空き家とかはありませんか?」
「空き家かい、確か少し離れた場所に何件かあったような気がするよ……」
「そうですか……、ありがとうございます」
「お客さんたちは、この町に移住するのかい?」
「はい、何もなければ少々の間厄介になろうかと」
「そうかい、そうかい。ここに住むならまたそのうちに食べにきなよ、サービスするからさ」
「はい、そのときはお世話になります」
……。
女将さんにお礼を言ってこちらを向くと、明日の予定について話してきた。
「ご主人様、明日の予定ですが。明日は午前中のうちに建築ギルドに行って、住居を手に入れましょう」
「あいよ、……女将さんは離れた場所って言ってたな」
「はい」
「なら、少し遠めの場所を希望するぜ」
「分かりました、では建築ギルドの方と掛け合って見ましょう」
「頼む」
さて、明日の予定も決まったのなら食うか!
それから、さらに料理を何品か注文した。
うまうま。
……。
食欲の次は睡眠欲。
くあー、と欠伸を一つ。
どうにも、眠い。
人間界の時間に体調を合わせているため、睡魔に襲われたのだ。
……そろそろ、寝るか。
「エル、俺は寝たいのだがどうする?」
「そうですね、私はもう少し女将様に聞きたいことがありますので、ご主人様は先に寝ていただいても構いませんよ」
「そうするわ……」
エルの言葉に頷きを一つ返して、二階に上がることにした。
さて、目の前の状況を説明しよう。
ベッドは一つ。
されど枕は二つ……。
でも。
ま。
「いっかー♪」
俺とエルは何度も閨をともにしているし、いまさら恥ずかしがるような仲でもない。
エルの体で俺が触れていない場所などないだろう。
と、いうことで。
「ぐーてん・なはと♪」
ベッドにダイブし、そのまま意識を睡魔に委ねた。
……。
……。
「ご主人様、朝です起きてください」
いつも俺を起こしてくれる優しい声が聞こえる。
……。
「ご主人様」
……。
ゆっくりと意識が浮上する。
白い靄を払うように、さながら潜水艦が浮上するかのように……。
「ラファエルか……」
「今はエルですよ、ご主人様がそう決めたんじゃありませんか」
「エル?……」
……。
……ああ、そうだ、ここは人間界だ。
俺たちは魔界から人間界に来たんだ。
「今は何時ごろだ?」
「朝の十時です、朝というには少々遅い時間ですが」
「そうか……」
よっ、と体を起こす。
「朝食は?」
「下で女将様が用意していますよ」
そうか、と答えて大きく伸びをする。
んー……。
「んじゃ、飯食ってくるわ」
「はい、入ってらっしゃいませ」
……。
宿屋をチェックアウトして、建築ギルドまで歩を進める。
時間的には十一時半を過ぎた辺りだ。
「活気があるなー」
と、俺のつぶやきにエルが反応する。
「活気がないよりいいことだと思いますよ。先代魔王が権力を持っていた時代はどこもかしこも危うい感じがしましたから。このように人間が明るくなったのもご主人様のおかげですよ」
……そうか。
俺のおかげか。
「なら、俺のニート性癖もまんざら悪い物じゃなかったな……」
「はい♪」
「まぁ……。尤も、サタンの親父やベルゼブブの旦那は苦々しく思うだろうがな」
くたびれた中間管理職とタカ派の頑固親父の顔を思い出し、カカカッ、と笑う。
「ベルゼブブ様ですか…、今頃はサタン様と対立して新たな魔王でも名乗っているのではないでしょうか?」
「ありえるな、元々魔族なんて強烈なエゴの固まりだし。どうにも……、俺のように謙虚なやつはいないのかね」
「……ご主人様の場合、ただのぐうたらな気が……」
横で、エルが何か呟いていた。
?、よく聞こえなかったのだが……。
「なんか、言ったか?」
「いえ、なにも♪(キラッ)」
「……?」
十分ぐらい歩いた時だろうか。
目の前に褐色のレンガで造られた建物があらわれる。
「ここが?」
「はい、ここがこの町の土地と建物を管理している建築ギルドです」
なるほどね。
「なら、任せるわ。俺は市を回ってくるぜ」
「わかりました。交渉が終わり次第合流します」
「ああ」
手を振って、エルと分かれた。
さてと、俺は男の欲望でも探しに行きますか♪
ぐふふふふ。
後日談だが。
俺の買ってきた猥本や媚薬の類はまとめてエルに処分されました(泣)。
最近、スランプ気味……
だ、誰か感想を…… m(_ _)m