46話 はじめてのどらごんたいじ①
誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。
今更ながらポケモンSSをプレイして、今週の土日は廃人になっておりましたwww
「……金がねえ」
朝食の席、食前での一言。
……。
場が凍りついた。
ことの発端はエルが壊した屋敷の修理を行おうとした時のことだ。
復元魔術や復元神術で修復しても良かったのだが……。
たまには建築ギルドに依頼して修理してもらおう、ということになったのだ。
そして、影の異空間から金銀宝石を取り出そうとしたのだが……。
「空っぽだった(笑)」
「「「……」」」
この沈黙はエルとスターシャ、そしてミレイ。
残りの二人。サマエルとぼーっとしているし、リリスは我関せずと茶を啜っている。
……。
ちなみにサマエルとリリスだが、人間界で生活するに当たってその名をマリエルとリースと名乗ることにしたらしい。
俺の本名と同じで二人の名は余りにも(悪い意味で)有名すぎる。
「恐らくだが、俺とばあ……リースの魔剣の激突が次元に干渉したせいじゃないかと思うんだがね……」
ニーズヘッグとヨルムンガンドの上位解放とその激突。
次元を歪ませ、異空間を欠損させるぐらいの被害はでるだろう。
俺もまさか次元が歪むとは夢にも思っていなかった。ゆえにその手の対策を異空間に施しておかなかったのだ。
……。
しかし。
「魔宝具、宝具、神器、術具、呪物等は一切無事で、金銀宝石のみ消失していたのは、なんというか……、世の儚さを感じさせるぜ……」
……。
「「「「いただきます!」」」」
「うむ、いただこう」
「…………いただく」
最初は俺とエル、スターシャ、ミレイ。
次いでリース、マリエルだ。
「これは美味いのう。なんというか瑞々しい」
「…………うまうま」
本日のメニューはパイに野菜のスープ。それにヨーグルトだ。
魔界の飯はどこか乾いていて味気が無い。ゆえに人間界の飯を美味く感じるのだろう。
「よい。褒めて遣わすぞ、風よ」
「……どうも」
「ははは、そう睨むな。我らにはもはや害意はない。我らの力は既に本来の一割にも満たぬのだからのう」
この言葉は事実。
俺が二人を眷族にしたと同時に、二人の能力を十分の一以下に制限したのだ。ついでにマリエルにいたってはその身に宿る毒を撒き散らさないように厳重に注意してある。
……まぁ、それでも人間界では敵う者などいないのだし、戦闘能力の低いエルにとっては十分な脅威だろう。
「…………」
「……何か?」
「…………」
しかし、マリエルが冷めた視線でエルを射抜いている。
未だこの二人の仲は極寒の如く冷え切っている。
と。
「ダメですよ」
いつの間にかマリエルの横に立っていたスターシャがその手を優しく握る。
……。
どうやら、エルに貫手を放とうとしたらしかった。
「これからここで長く過ごすんです。下手なことをしたらご主人様に追い出されてしまいますよ」
「…………それは……困る」
「でしょう。ならば……」
そっと、手をはなした。
少しの間逡巡するが、やがて。
「…………我慢」
と、一言。
「はい♪」
スターシャの笑みは宛ら、幼子に言い聞かせる母親の微笑だった。
―――エル―――
食後、食器を洗っていく。
……。
「俺は寝る。部屋が無いから異空間内で寝てくる。後はよろしく」
そう言って、影の中に引きこもってしまった。
しかし……。
「手元にある財は僅か……。さて、どうしましょうか……」
手元には暫くの食事をまかなう程度しか残されていない。
稼ぐしかないのだが……、と。
「わらわが一稼ぎしてこよう。あやつが財を失った原因の一端はわらわにあるのじゃ。それくらいはしよう」
突然、後からリースが話しかけてきた。
「マリエルは魔術師……白髪の侍女についていってしまった、お主は庭の整備やわらわたちの部屋の用意で手一杯なのじゃろう」
……口惜しいが、その通りだ。
「ならば、自由に動けるのはわらわとあの小娘だけじゃ」
……。
「なぁに、少し遊んでくるだけじゃよ♪」
ご主人様の契約のおかげで悪魔としての本能はかなり薄くなっているはずだ。だからそんなに無茶なことはしないと思う。
「……どのような手段で稼ぐおつもりですか?」
それでも、その行動が気になってしまうのは仕方の無いことだろう。
と。
「人間界には傭兵ギルドとやらがあるのだろう。そこで遊んでくるだけじゃ」
……なるほど。
しかし、それでもその言が完全に信じられるとは限らない。
彼女は背信や裏切りなど、悪徳を象徴する悪魔。そしてその祖なのだから。
だが、ははははと声を上げて笑うと、心胆が凍りつくような声で囁く。
「……安心せい、何かを滅ぼすというような暴挙には出ぬよ」
!
気がつけば、身を縛るかのごとくの圧力が場を掌握していた。
「風よ、わらわの望みは叶っておるのじゃ。……尤も少々ばかり形が違うのは残念じゃがな」
そう嘯くが、体の震えが止まらない。
……怖い。
「くく。そう怯えるな」
リースが両手で私の頬に触れてくる。
「あやつの望みを邪魔するようなことはせぬ、わらわの望みと被らないでもないからのう」
僅かに笑って、そっと手を離す。
途端に。
「……はぁ、はぁ」
膝が崩れ、口から荒い息が漏れる。
ようやく、自分が恐怖と言う名の感情に縛られていたことに気づいた。
「では、遊びに行って来る。暇つぶしにあの小娘も借りていくぞ」
そう言って、厨房を出て行こうとするが。
「ま、待って下さい!ミレイは……」
「安ずるな、自らの言には責任を持つ」
私の問いにそう答えると、軽く手を振り今度こそ厨房を出て行った。
「ミレイ、どうか無事で……」
(※リースは殺しても死にはしないのでどうでもいいです)
―――ミレイ・フォン・バレッタリート―――
「そこの娘」
お母さんの仕事を手伝っている最中だ、突然後から声がかかる。
「私?」
「そう、お主じゃ」
振り返り疑問を呈するが、肯定された。
「お主、わらわにちょいとばかし付き合え」
そう言ったのは、リースと名乗るシーファ様の旧友の方だった。
今朝になっていきなりお屋敷の住人が増えたのだ。
リース様にマリエル様。
どちらもシーファ様の古いご友人と名乗った。
そして、屋敷の主たるシーファ様もそのことを認めていた。
……。
昨日、屋敷を揺るがすような轟音が響き渡った後辺りから記憶がない。
気づいたら次の日の朝。しかも屋敷が半壊しているし、新しい住人が二人も……。
……不思議だ、……不思議すぎる!
……。
……。
傭兵ギルドまでの道中、お互いにあらためて自己紹介などをすることにした。
「えと……。私の名前はミレイ、ミレイ・バレットです」
「……そうか、わらわの名は、リースということになっておる。宜しくのう」
「あ、はい。宜しくお願いします」
ぺこりと頭を下げる。
「ほほ。礼儀正しいのう。中々に好感が持てる。……時にミレイとやら、足元の二匹はいったいどうしたのじゃ?」
リース様がアポロンとアルテミスに注目する。
「この子たちは、シーファ様が私のためにって作ってくれたんです」
二匹を抱き上げ、リース様に手渡してみる。
「もこもこしてて、抱きしめると気持ちいいんですよ♪」
お風呂に入ったり寝るときも、常に一緒。
「ほう。これはこれは……」
しかし、リース様は面白そうに呟くと、楽しげに目を細めた。
―――リース―――
もこもことした二匹の毛玉を目の高さまで持ち上げる。
……これは中々に面白い。
恐らくは、内部の宝石を核とした自律性の魔力塊などの亜種であろう。
しかし、込められている魔力が魔王の魔力。ついでにその量は相当なものだ。
外見は実にファンシーだが、裏を見れば魔王謹製の魔力兵器のようなもの。
この二匹だけで、この人間界を制圧させることもできる可能性があった。
……。
というより。
「お主は、本当に大切にされておるのう」
思わず苦笑の表情が浮かぶ。
内部の構造を検分しての言葉だ。
「……え?」
「あやつも過保護というか……。まぁ、分からんでもないのだがのう……」
……。
さて、先程風に「自らの言には責任を持つ」などと言ってしまった。
ならば、この娘の護りをあやつの二匹のみに任せたのでは後で文句を言われかねない。
ならば。
「……ふむ」
ずるりと影の異空間より神剣『テミス』を引き抜く。
そのまま。
「加工することぐらいは、わらわでも可能じゃ」
本来、悪魔は神術の行使など絶対に不可能だ。
もてる力の種類や、その術式が根本から違うのだ。
……まぁ、あやつはすまし顔のまま実行したがのう。
でも、手を加えて形を変えたりすることぐらいは神と相反する悪魔でも可能だ。
尤も。
「主神の神器に手を加えるのは始めてじゃがのう……」
手の中で剣が浮かび上がる。
同時に強大な神力が周囲に放出される。
攻性の神力ではないし、そもそもこの程度の神力にやられるようなわらわではない。
とはいえ。
「どうにも、気分が悪くなりそうじゃ」
悪魔として、神力の放射を浴びては気分が悪い。
……。
やがて、言霊を紡ぐ。
「汝、その姿を捨て、一つの命となれ……」
……。
ただ放たれるだけだった強大な神力が収束していき、次の瞬間に。
ポンッ!
軽い音を立てて、手の中には小さな銀の毛並みの小鳥が存在していた。
「ほれ。これをお主にやろう。わらわからの僅かばかりの心遣いじゃ。名はお主が与えてやれぃ」
「……あ。…………えと、いいんですか?」
「構わぬ。所詮は拾い物じゃ」
「……」
申し訳なさそうにしている娘に、軽く笑いかけてやる。
やがて、なにやら納得したのか嬉しそうな笑顔で受け取った。
「……その、ありがとうございます」
「……うむ」
「……えと……」
「名を与えてやれ、名を与えるという行為は一つの契約じゃ。それで、そやつは完全にお主のものとなる」
「……えと、はい。…………じゃあ名前は」
僅かにためらい、やがて元気な声で宣言した。
「名前は『アテナ』で!」
……。
―――ミレイ・フォン・バレッタリート―――
二匹改め、三匹を伴ってリース様と一緒に町を歩く。
私は動物が大好きだ。
昔、お母さんと二人暮らしの時は動物を飼う余裕などなかったが……。
今ならそれも大丈夫!
……。
思わず口元に笑みが浮かぶ。
新しく私の仲間になった銀色の小鳥を肩に乗せ、囁く。
「うん。宜しくね、アテナ♪」
……。
「うむ。大事にしてやってくれ」
リース様が口元に優しそうな笑みを浮かべて言う。
それを見て、思わず返答は行動で示してしまった。
ギュッ。
リース様に力いっぱいに抱きつく。
「リース様、大好きです!」
「んな!?」
リース様が目を白黒させるが、気にしない。
「大好きです!!」
「やめい、ミレイ!恥ずかしいのじゃ!」
リース様が焦ったように顔を紅潮させる。
「ふにー♪」
「や、やめい!」
さらにその腕に力を込める。
リース様の髪は墨のように艶やかな黒、そしてビロードような光沢と手触り感がある。ついでに、香水を振り掛けてあるのか、柑橘類のような甘い香りがする。
「大好きです!」
ぎゅーと、ぎゅーと。
ついには羞恥に負けたのか、もしくは頭が混乱の極みに達したのか、リース様が絶叫した。
「うわ、わ、わ。は、は、恥ずかしいのじゃああああ!」
……。
その日、クォーツの町中に黒髪の悪魔少女の悲鳴が響き渡った。
……そして。
三界最高の大魔術師、祖に位置する大悪魔、夜の魔女。
この世界で最強に位置する一人が、エルでさえ遂には恐怖を拭えなかった悪魔が、ただの十歳児によって悲鳴を上げされられるという珍事が発生した。
……。
後にこれを知ったシーファは涙混じりに独白したという。
「ちょう見てえ!!!!」
と……。
完全に余談であるが。
それから暫くして、クォーツの町のいい歳をしたおじさん達の間で、ロリっ娘同士の百合が流行ったそうな。
……。
アーメン。
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はじめてシリーズ第三弾!!
ミレイは自身の本名を知りませんwww
ついでにリリスは聖剣に対して特に思い入れは無いのであっさりとミレイに払い下げましたww
……。
というよりミレイはルシファーとリリス、魔界最強の実力者達に悲鳴を上げさせましたww(強いなこの十歳児!