42話 長い一日① - 起
誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。
朝早く。
周囲は暗く、今だ世界は夜の気配が色濃く残っている。
しかし、クォーツの町にある屋敷の一室では、今日もまた苦労過多な従者の一日が始まった。
……。
頭の中では今だ睡魔が猛威を振るっている。
しかし、身についた習慣の勝利か、ほぼ無意識に横たえていた身を起こす。
「……ふあ」
思わず、あくびが思わず出てしまう。
次いで。
「……寒い」
と、口から漏れる。
今身に着けているものは下着に薄手のネグリジェのみ。
今まではこれで問題はなかったが、最近は少し冷え込んできた。
これだけでは少し肌寒い。
「……」
ベッドから降りると厚手のカーディガンを羽織り、部屋から出て水場まで移動する。
……。
大瓶に溜めておいた水を小さな容器に移すとそれで洗顔をする。
水は凍るような温度の物を使うのがいい、一発で睡魔が退散するから。
次に歯ブラシで歯を磨いていく。
最後に口をゆすぎ、洗顔剤とぬるま湯で再度顔を洗う。
タオルで顔を拭き、髪を整えていく。
本来このような事は、専用の浄化術式で一瞬なのだが、私はこの朝の一連が好きだ。
一日の始まりを感じさせるから……。
ご主人様はおきて、即座に浄化術式を使用する。
正にダメ人間(?)である。
「……ふう」
全ての工程が終わればもう目は完全に覚めている。
全てが終わったなら次は部屋に戻って着替えだ。
クローゼットから本日の侍女服を出し着替えていく。
着ていた下着、ネグリジェを脱ぎ、改めて昼用の下着、侍女服に袖を通していく。
今日の下着は上下共に薄いピンク色の物だ。
下着というのを知ったのは人間界に来てからだ。
始めはどうにも慣れなかったが、慣れると以外に便利。
どこがどう便利、とはいわないが……。
侍女服を着終えたなら最後に、カチューシャをつける。
……。
本来ならこの後は化粧でもするのだろうが、ご主人様は化粧をしていても、していなくても気になどしないだろう。
男性として、女性のファッションには気を使ってもらいたいところだが……、ご主人様にそのようなことを望むのは無駄な努力である。
ここに他の男性でもいれば話は少しは変わったのだろうが、あいにくとこの屋敷は基本女所帯。男性はダメ人間(もしくはダメ悪魔?)一人しかいない。
それに、少々傲慢かもしれないが、私も白髪の同僚も、すっぴんでも全然問題ないと断言できる程の容姿だ。
……見せるべき相手が、ご主人様だけというのはなんとも力が抜けますが。
……。
最も、私もスターシャも例え着飾るとしたらご主人様のためだけ。
……着飾るとしても、女性のファッションに疎く無頓着な相手のためのみとは。
……。
「……まぁ、惚れた弱みですね」
苦笑しながら身だしなみをチェックする。
……問題は、なし。
「では、本日もお勤めと参りましょう」
朝食の用意をする。
本日の献立は、オーソドックスにトーストにジャム、それにジャガイモのスープと簡単なサラダだ。
パンは近くのパン屋から朝一で買いに行ったもの、今だに焼きたてのような食欲をそそる香りがする。
ジャムは自家製の薔薇のジャムだ。
屋敷の庭で作っていた薔薇から作ってみたのだ。
「今度は自家製のパンを作ってみるのもいいかも知れませんね……」
料理のレパートリーを増やすのはいいことだ。
横ではスターシャがスープの様子を見ている。
以前は大雑把な料理しか出来なかった同僚も、最近では一般家庭の食事、という感じで料理を作れるようになってきた。
元々は宮廷所属の魔導騎士、それも最年少でその地位まで上り詰めた人間だ。料理などの花嫁修業に分類されるようなことは一切やっていなかったのだろう。初めてここの厨房に立ったときなどは中々に…………。
……いや、まぁ、中々に不器用だったと言っておきましょうか。
……。
お玉でスープを一掬い。塩胡椒で味を調えている。
お鍋の蓋を閉めたところを見ると、納得のいく味になったのだろう。
後一煮込みで完成といったところだろうか?
と、スターシャがこちらを向くと声をかけてきた。
「エル様、私はミレイを起こしてきたいのですが」
「分かりました。此方も殆ど出来上がっていますから大丈夫ですよ。戻ってきたら食器の用意と紅茶をお願いします」
「はい。それでは少し失礼します」
穏やかに微笑すると、軽く一礼し厨房を出て行った。
スターシャが出て行った後は、使った調理器具や必要のない道具を洗浄ししまっていく。
後の片付けは最小限にするのがプロというもの。
……。
全てが終わった後は一息つく。
先程もスターシャに言ったように、後は料理の盛り付けとちょっとした作業ぐらいである。
濡れた手を布巾でぬぐうと、厨房の片隅に歩いていく。
そこにあるのは岩から削りだした箱。
私個人の秘蔵の調味料やソース、シロップ等を納めた一種の庫だ。
岩から薄く削りだし、中に冷却術式と時間停止の術式を刻み込んで作った保存庫。
開けると、中には大量の瓶類が納められていた。
そこから一つの瓶を取り出す。
中には林檎と砂糖を煮詰めて作ったシロップが入っている。
それをティーカップに少量移し、料理の片手間に作っておいたお湯で割る。
朝早くから起き働いていた身としてはこの程度のご褒美は許されるだろう。
厨房に備え付けの椅子に座って、一息。
「美味しい」
自然の甘みと程よい酸味が胃に心地いい。
朝から働いていた体に温かい感触が広がっていくような気がする。
少し肌寒い季節に、温かく甘い飲み物はたまらない一品。
天界や魔界にいるときも似たような事をしていたが、やはり調味料の多様さや食材の豊富さは人間界が一番だ。
そもそも料理を本格的に手がけるようになったのはご主人様と出会ってからだ。
始めて手料理を要求された時は驚いたものだ。生物の魂や生命力より、並みの食事を求める悪魔、しかも魔王など天地創造以来ご主人様唯一人だけだろう。
「……ふふ」
くすりと思い出し笑いをする。
魔界に連れてこられて始めての要求が「飯を作れ」だ。あの時は本当に唖然とした。思わず虜囚の身であるにも関わらず「貴方は本当に魔王ですか?」と聞いてしまったほど。
微笑みながら、手に持ったティーカップに温熱術式を展開する。
再び一口すする。
鼻腔をくすぐる林檎の香りが心地いい。
……。
ガチャリッ。
ドアが開けられる。
この気配はスターシャとミレイ、それに……。
「……ご主人様?」
ご主人様がこの時間帯に起きたことは今まで一度もない。
それに三人から感じる気配には多少以上に暗いものが混じっている。
ティーカップを机の上において立ち上がった。
……。
開口一番にご主人様が告げた。
「毒殺娘と婆さんが来るぜ」
……。
とりあえずは、何をどうすればその答えを得られるのか説明して欲しかった……。
曰く、ミレイが夢を見たそうだ。
深い闇が訪れ、同時に大地が腐食していく光景。
それを延々と見せ続けられたらしい。
そしてその災禍が一人立っていたミレイの足元まで這いよって来たとのこと。
……。
もはや疑うまでもない。
来るのだろう、例の二人が。
結界に包まれている以上もう少し時間があるかとも考えたが、相手は三界でも最高の術者の一人、魔女リリスである。何らかの手段でここに当たりをつけたのだろう。
……。
「二人とも……、今更何のつもりだ」
ご主人様が前髪をかき上げ、苛つくような口調で呻く。
「他世界の侵略はおろか、魔界の覇権にすら興味を示さなかったくせに……。今更人間界に欲でもでたのかよ……」
……。
一瞬。
ほんの一瞬だけ、サマエルとリリスに同情した、…………気がする。
やがて、その刻は訪れた。
朝食が済み、陽が天頂に上り始めた時。
唐突に。
ビシリッ!
と、屋敷中に硝子が砕けるような音が響き渡る。
そして理解した。
「……っ!結界が!」
屋敷を覆っていた結界に亀裂が走ったのだ。
屋敷を覆っている結界は私が技術の粋を凝らして編み上げたもの。
当然、高度な自己修復機能も備えている。
……なのに。
ビシビシビシッ!
……亀裂が。
ビシビシッ、ビシビシビシッ!
……止まらない。
やがて。
パリィィィィィィィンッ!
甲高い音と共に屋敷を覆っていた結界が跡形もなく、砕けた。
ミレイを眠らせ当初の予定通り、方舟に乗せる。
アポロンとアルテミスのみが彼女の護りだ。
……。
屋敷の玄関を開ける。
最初に見えた光景は、消し飛んだ正門とグズグズと崩れていく庭の木々草花。
丹精をこめて育てていた薔薇や花が無残にも枯れていく。
奥歯をかみ締め、消し飛んだ正門に視線を合わせる。
そこには二つの人影があった。
小さい人影と大きな人影。
……。
紫髪紫眼の娘と黒髪紅眼の少女だった。
黒髪紅眼の少女が歪に嗤う。
瞬間。
ズンッ。
周囲を吐き気がするほどの魔力が押し包んだ。
少女が身に秘めていた魔力を解放したのだろう。
……。
思わず膝が落ちる。
本能が生存を求め、逃亡を叫ぶ。
心の奥底から恐怖という名の感情が鎌首をもたげる。
狂気で研ぎ澄まされ、殺意で塗り固められた魔力が、身を、心を蝕んでいく。
見ればスターシャの顔も、青を通り越して白くなっている。
並みの人間であれば、これだけで心が砕け廃人になるだろう。
それほどに濃く、禍々しい魔力であった。
だが、次の瞬間。
ゴウッ。
私達の背後から暗く深い闇を匂わせながらも、どこか温かい魔力が放たれ……。
……。
狂気に満ちた魔力を押し戻した。
「久しいのう、ルシファー……」
外見に相応しい、可愛らしい声だ。
だが、その声に反応する余裕は欠片もない。
全身に怖気が走る。
……間違いない。
あの少女の姿をしたものこそが、天上の主神と対極に位置する者。
天地創造より生まれ生き続ける原初の悪魔、リリス。
私の思考を肯定するかのように、ご主人様の声が響く。
「ああ。久しぶりだな、婆さん……」
「……何の用だ?」
「なぁに、気にするな。ただ、おぬしを探しに来ただけじゃよ」
ご主人様の問いに、リリスが返す。
……やはり。
思わず顔をしかめる。
同時にリリスの後にいる、紫髪紫眼の女性に注意を向ける。
一度は殺されかけた身だ、間違えるはずがない。
……サマエル。
伸ばしっぱなしにした紫髪、視点の定まっていない瞳、分かりにくい虚ろな表情。
醜いわけではない、むしろ大した美女だ。
……。
………。
……まぁ。
幽鬼的、という言葉が必要ではあるが。
(エル様、もしやあの二人が……)
念話でスターシャが問うてくる。
(はい。先頭の少女がリリス、後方の女性がサマエル。見かけで油断はしないで下さい、絶対に。単身で世界を滅ぼすことのできる力の持ち主が二人。十分にハルマゲドンが起こせる戦力です)
スターシャの問いに、説明を交えて返す。
と。
「ルシファーよ、共に魔界に帰らぬか?」
リリスが本題らしき話題を切りだした。
「いまさらお主に王になれなど言わんよ。ただ……、まぁ、わらわとしてはお主がいてくれたほうが良いからのう」
リリスの頬に僅かに朱がさしている。
……驚いた。サマエルだけじゃなくて、リリスにまで好かれていたとは。
「……なるほど。だが、断る!」
ご主人様の宣言が響く。
……まぁ、そうだろう。
ニート(?)を信条とするご主人様は既に人間界の生活を大いに気に入っている、今更魔界に戻ろうとは欠片も思わないはず。
だが、リリスも苦笑の表情を浮かべながら言う。
「まぁ、そうじゃろうな……」
と。
「…………お兄様……」
今まで黙していたサマエルが唐突に喋りだした。
「…………一緒に、魔界に、帰ろう」
「断固拒否する!」
「…………」
「……」
「…………ダメ?」
「絶対に帰らん!俺は今の生活が気に入っている。エルにどつかれるのは……、まぁ、あれだが。スターシャとミレイに癒され、エルの作った物を食い、働かずにごろごろするこの生活が大好きだ!」
大声で宣言するような言葉ではないのに、…………なぜか格好良く聞こえてしまった。
……不覚。
だが。
「…………エル?スターシャ?ミレイ?」
急速にサマエルの瞳孔が開いていく。
「…………そいつら、お兄様の、何?」
「俺の女達だ!」
ご主人様の宣言が再度響き渡る。
スターシャの頬が薄紅色に染まっている。きっと、今の私の顔も微妙なことになっているのだろう。
しかし、サマエルの反応は顕著だった。
「…………そう」
サマエルの瞳から完全に光が失われたのだ。
横でリリスが「おお!闇化しとるのう」などと暢気に呟いている。
……。
唐突に、サマエルの口から呪詛の如き呻きが漏れだした。
「…………殺す。…………その女達、殺す、そいつらがいなくなれば……お兄様も帰ってきてくれる、はず……。……殺す……。帰ってきてくれ、る…………、イナクナレバ、…………殺す殺すコロス殺すコロスコロス殺すコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス…………」
サマエルの体からリリスの魔力より濃密で禍々しい狂気が漏れ出し始めた。
この感じは……、来る!
「スターシャ、防御を……」
ギギィンッ!
風を編んで作り出した防御盾がサマエルの撃ち出した雷光を弾く。
スターシャを狙って放たれた雷光は、間一髪でご主人様の防御壁が弾いていた。
しかし。
「…………やはり、あの女達、が、いけない……。あの女達が、あの女達が、あの女達が、あの女達が、あの女達が、あの女達が、あの女達が、あの女達が、アノオンナタチガアノオンナタチガアノオンナタチガ……」
壊れた蓄音機のように空恐ろしい言葉を吐き続ける。
サマエルの足元から大地が次々と腐食していく、……猛烈な速度で。
……うわぁ。
思わず、内心でうめき声を上げた。
本来のサマエルは割かし大人しく、魔族としての本能もそれほど濃くはない。
聞いた話しでは日がな一日、書斎や植物園でのんびりとしているのが日常らしい。
争いごともあまり興味がないらしく、悪魔らしい行動を取りはするものの、周囲の大悪魔達のように魔族の本能のままに行動する、といことは余りないらしい。
魔界でもご主人様に次ぐ異端児。
……。
……なのだが。
事がご主人様に関係あるとなると、あのように暴走する。
……発狂?
初めてサマエルと対面した時、ご主人様が私のこと紹介した瞬間、冗談抜きの速度で手刀が放たれた。魔力と毒をたっぷり練りこみ、……その上、心臓を狙って。
なまじ強大な力を持っているだけに対処に困る。
見ればご主人様も眉間に皺を寄せ、渋い顔をしていた。
と。
ゴウゥッ!
サマエルの身から膨大な魔力が放たれる。
そして、怨嗟に満ちた声で一言。
「…………Die!!」
瞬間、姿が掻き消える。
……。
否。
目に映らない程の速度で動いたのだ。
場所は……。
「……っ、後!?」
大気の流れを読み、サマエルの移動先を予測する。
背後を振り返りながら、掌打を放つ。
手刀と掌打。
……。
次の瞬間、強大な神力と魔力が激突した。
「エル!」
ご主人様が叫び、加勢しようとするが。
ガギィンッ!
金属同士の激突音が響き渡る。
……。
一瞬で間合いを詰めたリリスが白銀の巨剣を振り下ろし、それに反応したご主人様が漆黒の大剣で弾いたのだ。
「帰らぬ意思があるのなら無理にでも連れて帰る、邪魔者がいるのなら邪魔者を排除する。実に魔族らしい思考じゃ。くく、良い♪」
「婆さんもかよ!お転婆はサマエルだけで手一杯だっつーに!」
「サマエルはお主を好いておるからのう。多少、歪ではあるが……。まぁ、あれも愛の形じゃよ」
「歪すぎだからね!あれは!」
そんな会話をしながらも、ご主人様とリリスが人智を超えた速度での剣の応酬を繰り広げている。
「女から求愛されたのだ、男ならば受け取らんか!」
「そんな愛はいらん!帰れ!」
「「……」」
「くく。愛とは得る物にあらず、奪うものじゃ」
「……はい?」
「サマエルから頼まれておる。お主の四肢をもいでおけ、とな」
「…………ヲイ」
「くく……。略奪もまた愛の形の一つ。神々が語るような生ぬるい愛などよりはよほど好感が持てるというものじゃ」
「「……」」
「俺はなまぬるい愛の方が、好きだけどね!」
「はははは!」
ギィンッ!
一際大きな激突音が響き、互いに鍔競り合いの状態になる。
「くははは!安心せい。四肢をもいだ後は呪詛で再生を封じるが、そのぶん我らが面倒を見てやる。特にサマエルは気合をいれて面倒を見てくれるぞぇ」
「心の底から、いらんつーに!」
「なぁに、遠慮するな♪」
「しとらん!これだからお前らはー!!」
……。
一瞬思った、ご愁傷様、と。
横でご主人様が何やら喚いている、が。
此方もそれどころではなくなってきた。
高速で繰り出される、拳打、掌打、手刀、魔術を捌いていく。
一撃一撃が高密度の魔力と毒属性を帯びているため、一回でも掠ったら即アウト。
いや、私自身は解毒が出来るが、それでも蓄積していくダメージはなくならない。
……。
「スターシャ、例の計画、お願いします!」
「はい!」
私の言葉にスターシャが応じる。
それは。
「方舟、起動」
スターシャの言葉と共に、いつの間にか屋敷の上空に停滞していた方舟が光り輝く。
次いで。
「転移」
その言葉と共に、一帯が白い光に包まれた。
気づけば、視界が一変している。
……。
薄紫の暗い空、ひび割れ荒れた大地。
生命の香りが存在しない、冷たい風。
……。
「…………ここ、は……」
「……ほう」
サマエルが何かに気づいたように、とリリスが感心したよう、に呟く。
「ん?なにやら、見たことある風景が多々……。はて?」
ご主人様も、頭上に?マークを乱舞させている。
……ご主人様だけは正確に気づいて欲しかった。
戦いの最中でなければ、思わず光の矢を打ち込んでたかもしれない。
……。
まぁ、一先ずは、それらの声に答えよう。
「そうです。ここは、魔界の辺境。ご主人様が魔王になる前に住んでいた、ルシファー直轄領です」
……。
昨日、会話である。
……。
「しかし、私達がこの地で戦闘を行えば……」
「そこらへんも考えてあります。この後ご主人様のところに行って方舟を借り受けます。そして、方舟の次元転移能力を使用して、私達をまとめて魔界のとある地域に飛ばします。他者より介入を受けにくく、またどれだけ被害を出そうが問題ない、地」
「そんな都合の良い土地があるのですか?」
「あるんです。名を、『ルシファー直轄領』。ご主人様が魔王になる前に住んでいた地、魔界の辺境中の辺境です。王都からも遠く、どの門からも遠く、それこそ土地の住人でなければ絶対に寄り付かない土地……」
「……」
「魔界の大悪魔達は、皆、自分の直轄領を持っていたます。ご主人様だけじゃありません。サマエルもリリスも、アスモデウスも、ベルゼブブも、サタンも、皆持っています。そしてその直轄領で起こった出来事は、王や他の悪魔達に報告する義務が存在せず、全て所有者にゆだねられます」
「……なるほど」
「はい。理解できたようですね……。ご主人様の直轄領でならどれだけ被害が出ようと、誰からも干渉されることはありません。なぜなら、持ち主はご主人様本人なのですから。後は……」
「後は?」
「そう、後は……」
……。
「なるほど、俺の土地を使ったのか……」
「確かにのう……、ここならいくら暴れようが問題ない」
少し離れた地から、ご主人様とリリスの感心した声が聞こえる。
今だに漆黒の大剣と白銀の巨剣で鍔競り合っている。
「はい。この地なら、どれだけ被害が出ようと一切の問題がありません、後は……」
一呼吸の後に、宣言する。
「後は、……負けなければ問題なしです!」
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クーデレのラファエルさん、新たな一面!すなわち、料理好きwww
最近エルの影が薄いので、今回魔界から来ちゃった編の佳境をエルの語りで進めてみることにしました。