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39話 魔女達の珍道記②

誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。

 東の空に数多くの翼竜が見える。

 翼竜の背には、白い装束を纏った神官兵達。

 軍団の先頭は一際大きな黄金の鱗を持った翼竜。

 背には、白金の鎧を纏った精悍な顔つきの青年。

 青年は腰にさした剣を掲げ、……振り下ろした。

 ……。

 空を飛んでいた翼竜達から聖歌が聞こえ、同時に莫大な神力と共に厚い結界が広がった。


「……ほほう、あれが今代の勇者か」

 リリスが愉しげに呟く。

 ……。

 神術の結界が私達を圧迫する。

 大人数による縛魔結界。

 結界の威力と範囲からして、高位の術具を相当数使用しているのだろう。

 下手をすれば、上位の天使クラスの威力はある。

 並みの魔族なら、口を開くことすら出来なかっただろう。

 だが、私達クラスの魔族には対して効果は、ない。

 私には多少皮膚がざわめく程度の効果しかないし、リリスに至っては、無意識下で展開している魔力障壁で完全に凌いでいた。


 チカッ。

 黄金の翼竜に乗っていた青年の影が、僅かに光る。

「…………っ」

 闇が私達を覆う。

 リリスだ。

 ズダァンッ!

 遠距離より放たれた光の槍の一撃が、闇の防御壁に阻まれ、爆散した。


「宣戦布告もなしに、強襲とはのう……。くく、合格じゃ♪」

 声に不満はない、むしろ嬉々としている。

 私達を覆っていた闇が解けた。

「いまいましい神の名を語り、正義を口ずさみ正面から来る。そのような者は不合格じゃ」

 リリスの小さな体躯が圧倒的な魔力を纏う。

 人の身には届かぬ領域。

 深淵よりいでし暗黒。

 巻き込まれぬよう、そっと後に下がる。

「我ら魔族と汝ら人間の間にそのような者、不要!あるのは唯一、生者(しょうり)死者(はいぼく)のみ」

 バッ。

 リリスの背に、真紅の模様が入った漆黒が広がる。

 それは、さながら蝶の翅の如く。

「舞台の上に上がることが許されるのは、役者のみ……」

 ふわっ。

 リリスの体が重力の鎖を引きちぎり、宙に舞う。

 翼竜の軍団から、再度光の槍が放たれる。

 しかし。

 シャリィンッ。

 槍が近づいた瞬間、硝子が散るような音と共に、霧散した。

 リリスが翅から発生させている、闇の波動が光の槍を無効化させたのだ。


 ――『黒耀の翅片』

 リリスが生み出した闇の術式兵装。

 蝶の如く見える翅は、高密度の魔力と魔方陣。

 積層立体型魔方陣とはまた違う、魔方陣の究極形。

 攻防一体型魔方陣。

 それは、魔方陣自体が攻撃の手段であると同時に防御の手段。


 既にリリスの身は空高く。

「雑魚は下がっておれ」

 パチンッと指を鳴らす。


 たったそれだけ。

 術式の構築も、呪文の詠唱も、魔力の放出も、それら全てが一切無い。

 ただ一度、指を鳴らしただけ。

 それだけで……。

 ……。

 ……世界は変わった。


 リリスの背後にある翅から、闇の波動が放たれる。

 放たれた波動はリリスを中心として世界に広がり、神術の結界を粉砕した。

 ……。

 否。

 結界を粉砕しただけではなく、翼竜と翼竜に乗っていた神官兵の大半が消滅した。

 ……塵芥すら残さずに。

 ……。

 一瞬にしてクルセス国軍の九割以上が消滅。

 生き残っていたのは、今の波動に耐え切れる程の結界障壁を纏っていた少人数のみだ。


 先頭を飛んでいた勇者も、なんとか生き残っていた。

「ほほ、当然じゃ。今のぐらい耐えてもらわねば遊びがいがない」

 空を飛ぶリリスが、嬉々とした口調で嗤う。

「サマエルよ!残りのゴミはお主にまかせる!」

 それだけ言うと、翅を纏い、爆発的な速度で進撃していった。


 ……。

 あいも変わらずに身勝手な悪魔である。

「…………」

 ふぅ。

 思わず深いため息が漏れた。

 でも、一方的とはいえ、任された以上はその責務を全うしよう。

「…………仕方、ない」

 ――照準・射出。

 自らの周りに高密度の雷球を無数生成すると、それを撃ち出した。

 ……。

 ……勇者以外の神官兵の頭部に向けて。


 光速で走ったレーザーの一撃は、防御も回避も許さずに神官兵達を皆殺しにした。

 最初の神術による結界が展開されてから、僅か五分もしない内の出来事。

 残りは勇者だけ。

 ……。

「…………リリス、あと、任せた」

 それだけ言うと、リリスが放り出していった馬の手綱を握った。


 縛魔結界が私達を圧迫していたときも馬車は普通に進んでいた。

 ゆるり、ゆるり、と。

 草原の街道を進む。

 彼方の上空でリリスがなにやら、嗤っている気がする。

 ……。

 ……いい天気。

 頬を撫でる風が気持ちいい。

 頬を照らす陽光が心地いい。

 鼻腔をくすぐる草花の香りが……。

 ……。

 再び、まどろみが襲う。

「…………う」

 眠い。

 白い靄が視界を覆う。

 睡魔がなけなしの抵抗力を根こそぎ刈り取っていく。

「…………あ」

 ……こくり、こくり。

 ……眠い。

 ……こくり、こくり。



 ―――リリス―――


 背後の翅から爆発的な推進力を発生させる。

 周囲の風景が光速で背後に流れていく。

 数十キロはあるであろう距離を一瞬で駆け抜ける。

 眼下には黄金の翼竜。

 そして、その背には白金の鎧を纏った青年がいた。


 サラサラのブラウンの髪。

 澄んだ鮮やかな碧眼。

 端整な顔立ち。

 勇者というより俳優をやらせたほうがよいかもしれない。


「お主が今代の勇者かえ?」

「おのれぇ!悪魔共め!」

 ……聞いてないのう。

 思わず苦笑が漏れる。

「人の質問には……」

 と、最後まで言い切る前に。

「退け邪悪なる者よ!」

 こちらに向けた勇者(?)の右手が光り輝いた。


「無駄じゃ」

 背後より放たれた波動が、祓魔の力を無力化する。

「人の質問には、ちゃんと答えよ。お主が今代の勇者かえ?」

 改めて、質問する。

 すると。

「そうだ!私は勇者、勇者トレイン!お前ら魔族共を根絶やしにする男だ!」

 高らかに宣言し、翼竜の鞍に吊ってあった突撃槍を構え突進してきた。


 ……やれやれ、熱血をしておるのう。

 再度、苦笑すると、空中でひらりと身を舞わす。

「そのようなもの、あたらぬよ♪」

 舞姫のように軽やかに、されど確実な動きで回避していく。

 自らの力で舞う者と、自らの力で舞わぬ者とでは大きな差がある。

「くそぉ!」

 ……ふむ。

 先程、馬車で見たものと同じように、刃に聖句が刻まれていた。

 おそらく、材質も銀。もしくは希少金属か何かだろう。

 突撃槍の切っ先を危なげなくかわし。

「そら、返礼じゃ」

 ――展開、射出。

 闇で編まれた、魔弾をばら撒いた。


 が。

「効かぬ!」

 キキンッ。

 勇者の全身が、光り輝いたかと思うと、魔弾が全て弾かれた。

 相当に手加減した一撃だったとはいえ、見事に防いだのだ。

「おお!お主、なかなかやるのう」

 思わず、感嘆の声が漏れる。

 全力の欠片もないとはいえ、その威力は並みの人間だったら抗うことすら許さずに抹殺できる威力。

「これは、これは。中々に楽しませてくれそうじゃ」


「聖なる光、魔を払う輝き、いと高き天空。主の御心をもって万魔を祓う剣と成れ」

 再度、勇者の手に純白の光が集う。

浄断の光(エクスキューショーナ)!!」

「……ほう」

 おそらく、神術の高位攻撃呪文。

 勇者の右手に、強烈な祓魔の光が宿る。

 けれど。

「無駄な努力じゃ」

 シャリィィンッ。

 硝子が砕けるような音と共に、神術そのものが砕ける。

 黒耀の翅片が放つ波動は、自身と同等以上の実力を持っていなければ一切の魔術・神術、その他の術法を無力化・無効化する。


「ならば!」

 自らの術が無効化されたというのに、一瞬の硬直もない。

 ……強いのう。

「これで、どうだぁ!!」

 再度、突撃槍を構え突っ込んできた。

 遠距離砲撃戦を捨てての近接戦。

「面白い!付き合おう!」


 勇者と二人で天上の舞踏。

 遥か上空、超々高速での空中機動戦。

 一人は自らの翅で、一人は翼竜の翼で。

 漆黒と黄金の軌跡が蒼穹の空で何度もぶつかり合う。

 直線、曲線、時には螺旋。

 魔力を込めた拳と、神の加護がかかった刃が何度も何度も激突し合う。

 激突しては離れ。再度激突する。

 ……。

「はははは!よいぞ、勇者よ。お主は中々に楽しめる!」

 正直、人間がこの領域で戦えるとは思わなかった。


 雲上の世界。

 空気は薄く、気温は低い。

 人間が生存できる世界ではない。

 だというのに、勇者は立派に食い下がってきている。

「ここまでついて来れるとのう!」

 ガッ、ガッ、ガッ、ガッ、ガキィッ!

 十重二十重と拳と突撃槍が激突する。

「褒めて遣わすぞ!人間!」

 一際、力を込めて打ち据える。

 ガリィィィンッ!

 突撃槍が砕けた。

 余りにも圧倒的な暴力と濃密な魔力に、突撃槍が絶えられなくなったのだ。

「さあ!お次はどうするのじゃ!」

 ――収束、射出。

 収束した魔弾を高速で撃ち出す。

 先程の魔弾が散弾銃による広範囲散弾とするなら、今度はライフルによる一点狙撃。

 威力、貫通力、弾速ともに先程より上だ。


 しかし。

「まだだ!」

 シャラン、キィンッ!

 なんと、腰から引き抜いた剣で弾いたのだ。

 一点集中の狙撃を紙一重で斬り払った。

 驚いた。

 それに……。

「……」

 ……あれは。

 白金の長剣。

 刀身に神聖四文字。

 なにより、忌々しい存在の力を感じる。

「…………その剣は……」

「そうだ!神剣『テミス』、クルセスに伝わる聖剣だ!」

 わらわの疑問に応じるかのように、勇者が叫ぶ。

 ……やはり。

 勇者の聖剣か……。


 ――神剣『テミス』。

 勇者の代名詞。

 天上の神より与えられし降魔の剣。

 過去、様々な悪魔を滅ぼし魔界からの侵攻を幾度と無く退け続けた、人間界の力の象徴。

 その刃には、主神の加護。

 清廉な心持って振るう者に、万軍の力を授ける神器。


 くくく。

「くはははは!よいぞ人間!我をもっと愉しませよ!」

 嗤う。

 嗤う。

 嗤う。

 テミス。主神の力が宿りし御剣。

 面白い。


 だが……。

 勇者の「引き出し」はテミスだけではなかった。

 両足で翼竜の胴体をきつく挟み、鞍に固定すると。

「まだ、まだだ!『デミウルゴス』!」

 叫び、空いた左手で二振り目の剣を腰から長剣を引き抜く。

 何やら、いろいろと手が加えられている剣だ。

 ……?

 鍔の部分に何やら機工部品が付属し、刀身と一体化している。


 勇者が叫ぶ。

「『デミウルゴス』解放!」

[ OK! System ” Demiurge” Liberation!! ]

 そして、その声に応えるように、剣から音声が放たれた。

 ガシュッ。

[ Mana Cartridge Loading…… Complete! ]

 圧縮された空気が解放される音が鳴り。

 ブゥンッ!

 デミウルゴスと呼ばれた剣が強大な神力を纏い始めた。


 ミスリルで鍛えられた刃、刀身一面に細かく刻み込まれた神聖文字、何十何百と付与された加護。

 何より、擬似的に付加された神の片鱗。

 そこから導き出される答えは、唯一つ。

 すなわち………………、人造の聖剣。


 ……。

「はは、ははは!はははははははははははははははは!ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」

 狂ったように哄笑が、口から次々と湧き上がる。

 雲上の世界。

 曇りなき蒼穹の世界に、狂気と狂喜が入り混じった哄笑が響き渡る。

 ……素晴らしい。

 素晴らしい。

 素晴らしい!

 嗚呼、素晴らしいとも!

 人間とは、何と素晴らしい種族であることか! 

 人造の聖剣とは……、愉しませてくれる。


 嗤う。

 嗤う。

「よい!よいぞ!人間!」

 お主はわらわが喰うべき、敵じゃ。

「お主が剣を持つのなら、わらわをまた剣を取ろう!」

 宣言し……。

 影の異空間から、白銀の巨剣を引き抜いた。

 ……。

 さながら巨人が持つかのような大剣。

 リリスの体躯を超えている。

 剣先から柄の端までが、どんなに贔屓目に見ても二メートルを超えている。


 ――魔剣『ヨルムンガンド』。

 魔王の宝剣『ニーズヘッグ』と双璧をなす、魔界至高の剣の一振り。

 その銘が表すは、世界を喰らう蛇。

 天地創造の頃よりリリスの愛剣として、数多の神々、人間を屠り続けた魔刃。

 その刃が撒き散らすは恐怖と絶望。

 あらゆる物を飲み込み、消滅させる、至高の魔宝具の一。



 巨剣を肩に乗せ、力強く宣言する。

「さあ!尋常ではない剣舞を演じようではないか!勇者よ!!」


「わらわを愉しませよ!!!」

ご感想・ご意見・各種批評・間違いの御指摘などをお待ちしております。


復活後、第一弾!

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