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38話 魔女達の珍道記①

誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。

 夜が明ける。

 黄金の光が世界を染め上げ、夜の残滓を駆逐していく。

 山際より顔を出した太陽が眩しい。

 ……尤も。

 朝日に照らされた周囲一面は、真っ赤な血の海だった。


「やれやれ、全然清々しくないのう……」

 リリスの声が聞こえる。

 だが、この惨状を作り出したのは自分だということを忘れないで欲しい。

「まぁ、良い。とりあえずはあやつの居場所はトレースした。正確な位置はなにやら妨害されていて分からなかったが、大体の方向はつかめた。時間もあることだし、ゆっくりと行こうではないか」

「……(コクッ)」

「まぁ、とりあえず湯が欲しいのう。汚れを落としたい気分じゃ」

 今のリリスは、全身が血で真っ赤になっている。

 一応、女の身としては身だしなみが気になるのだろう。

「服は闇を物質化すれば良いが、肌についた汚れを落とすには湯が一番じゃ」

「…………同感」

 後半のセリフに関しては同感だ。肌についた汚れを落とすなら湯が一番いい。

 私も髪や肌についた臭いを落としたい。

「適当な川でもあれば、ろ過して沸騰させるのだが……」

「……(コクッ)」

 まぁ、よい、行くか。といってさっさと歩き出してしまう。

 ……?

「…………飛んでいかない、の?」

 飛翔魔術を使えば一瞬なのに。

 すると、リリスは呆れたような顔をして言う。

「雅を理解せぬやつじゃのう。わらわにとっては久方ぶりの現世じゃ、いろいろと見て回りたいのじゃよ」

「……」

 雅?

 正直、この惨状を作り出した者の言葉じゃないような……。

 私の沈黙に何か感じたのか、怪しげな笑みを浮かべ問うてくる。

「何か文句でもあるのかえ?」

「…………(ブンブンッ)」

 首を左右に振る、割と必死気味に。

「……ふん。まぁ、よい」

 右手を、つっと南方に向ける。

「こちらの方角じゃ。行くぞ」

「……(コクッ)」

 頷き一つ。

 さっさと歩き出した、リリスの後を追った。



 長い道を歩く。

 リリスが鼻歌を歌いながら進んでいく。

 相当に久しぶりの人間界だからか、やや浮かれ気味だ。

 リリスは基本、魔界の最下層に住んでいて滅多に動かない。

 だからこそ、「人間界に行かないか?」誘われたときは驚いたものだ。

 天界、人間界はおろか魔界側もリリスが人間界に来ていることに気づいていないだろう。

 もし気づいているなら、主神が降りて来て既に全面戦争に発展している。

 ……。

「――♪」

 可愛らしい鼻歌が口から漏れている。

 見た目は非常に幼い少女だ。

 髪を引きずらないように頭の上で結って黒いリボンで結んでいる。

 その姿は実に愛らしい。

 ……。

 最もその心のうちは、どの悪魔よりも残酷で冷酷だ。

 天地創造のおり、数多くの神々と人間を殺し、その数は間違いなく魔界一。

 あらゆる世界、あらゆる同胞からも恐れられた殺戮魔、それが悪魔・リリス。

 面と向かって「婆さん」などと呼べるのはルシファーぐらいなものだろう。


「――♪お!」

 鼻歌を止めると、なにやら気づいたように声を上げる。

「あれは、馬車じゃのう」

「…………」

 目の前の街道を失踪してくる馬車が一台。

「良いタイミングじゃ」

 そういうと、手を振って御者にコンタクトを送った。


「どうしたのかね、おじょう、ちゃ、ん……」

 御者の声は後半に行くほど小さくなっていき、やがて消えた。

 まぁ、仕方のないことだろう。

 リリスの小さな体躯は鮮血にまみれており、さながら殺人現場から抜け出し来たかのようだ。

「うむ。そこの人間、その馬車と持っている金を全て寄越せ」

 また無茶を言う。

 先ほどは雅やら言っていたくせに……。

「な、何を言っているんだい?」

 リリスの言葉を冗談と受け取ったのだろうか、苦笑いしながら聞いてくる。

 ……。

 ……哀れな男。


 ヒュパンッ。

 鋭い音が鳴り、ボールのような丸い何かが宙を飛ぶ。

 ……。

 ボールには、目と鼻と口が付いていた。

 そして、目の前にいた御者の首から上がなくなっていた。


「二度言う趣味はないのう」

 つまらなそうに呟くと、更に。

 ヒュパパパパパパンッ。

 連続して、鋭い音が鳴り響き。

 御者の体がバラバラに切り刻まれた。


 ……。

「ほほ、馬車というのは面白いのう♪」

 横でリリスが嬉々として馬を走らせている。

 馬も休み無く走らされているためか、その身に宿る生命力がくすんできている。

 そのうち死ぬかも……。

 ……。

 私は、というと。

「…………♪」

 チャリンッ。

 殺した御者の死体から回収した銀貨や銅貨を積んで遊んでいた。

 金、銀、銅の色が連続して続いていく様は中々に面白い。

 男はどうやらこれから仕入れを行う商人だったようで、そこそこ金を持っていた。

 なんの商人だったかというと……。


「しかし、武器商人とはのう」

 リリスが面白そうに呟く。

 ……。

 そう、男は武器商だった。

 強奪した荷馬車には試作品らしい武器が積んであった。

 ライフル銃らしき物もあった。

「この手の、機工武器を作っているのはアーク共和国かのう……」

 ……どうだろうか。

 ついっ、とリリスに小さな円柱状の物を渡す。

「…………これ」

「なんじゃ?」

 リリスは円柱状の物を受け取り検分する。

 やがて。

「ほう……。これは、これは……」

 と、感心したように呟いた。


 火薬と鉄から出来ている機工武器は我ら魔族には効果が無い。

 魔力をもたない武器は、我らの肉体に傷を付けることが出来ないのだ。

 だが、人間には我ら神や悪魔ですら時に驚嘆する知恵を持つ。

「これは機工武器――小銃の弾薬か……。生意気にも語られざる四文字を刻んでおるわ」

 祖に位置する悪魔の少女はめんどくさそうに、だが、どこか面白そうに文句を吐く。

 そう、薬莢に神聖四文字「YHWH」と刻んであった。

「たしかにのう……。これなら、決定打には遠くとも牽制打程度にはなろう」

 神聖四文字が刻まれた弾丸だ。

 下級悪魔にとっては効果的だろう。

 尤も、私達クラスの悪魔には意味などないが。

「しかし……、機工武器に神聖文字を刻み込むなど、人間も面白いことを考えるのう」

 今度は、リリスに長剣を渡す。

「むっ。これは銀の剣に聖句を刻んであるのか……」

 そう。

 今渡した剣は、祝福された銀に、神聖文字を刻み込んであった。

 ……。

「なるほどのう……。これらを作ったのはアーク共和国ではなく、ルナ大公国か……」

 もしくはクルセスかのう……。などと呟いている。

 おそらくは、クルセスだろう。

 物体に『神の言葉』を刻み込む業は、今のところ人間界ではクルセスぐらいしか確立していない。


「サマエルよ、御者を代われ」

「…………?」

 いったいどうしたのだろう、先程までは嬉々として御者をやっていたのに。

「その荷、本格的に見たくなった」

 ……なるほど。

「……(コクッ)」

 頷いて馬車馬の手綱を受け取る。

「では、頼むぞ♪」

 そう言って、後の荷台に引きこもってしまった。



 周囲を淡い緑の光景が流れていく。

 草原を縦断する形での街道だ。

 前にも後にも、他の馬車や人はいない。

 上空を鳥が横切っていく。

「……」

 風が頬を撫でる。

 実にいい気持ちだ。

 魔界の風は常に暗い気配が満ちていた。

 嫌いではないが、常にそんなものを味わっていれば流石に飽きる。

「…………♪」

 人間界の風もたまにはいいものかもしれない。

 鼻腔を草花の匂いがくすぐる。

「…………あ」

 花の香りは嫌いではない。

 静かに訴えるような、涼やかな香りは精神を穏やかにさせる。

「…………いい、香り……」

 淡い陽光に照らされた頬は心地よい温度になっている。

 ……。

 頬を撫でる風。

 鼻腔をくすぐる香り。

 頬を照らす太陽。

 魔界に居ては味わえない、この感触に思わず眠気を催す。

「……」

 こくり、こくり……。

 次第に意識に靄がかかってくる。

 こくり、こくり……。

 視界が白濁し、意識がゆっくりと薄らいでいく。

「…………zzzZZ」

 ……おやすみなさい。



 ―――リリス―――


「しょうもないやつめ……」

 おもわず苦笑しながら、手綱をサマエルの手から引き抜き、握る。

 そのまま闇を物質化し、毛布を作り出しサマエルの体にかける。

 武器商らしき者の荷の検分を終えて、御者台に戻ってみればサマエルが軽やかな寝息を立て、夢の世界に旅立っていた。

 人間界に来て少々の時間がたったゆえか、体内時計が人間界の時間の流れに合致したのだろう。

 わらわの体内時間の流れが合致するのは、まだ当分先かのう……。


 後の荷は中々に面白い物があった。

 銀の刀剣類、神聖四文字が刻まれた弾薬、多にも聖水や聖句の書かれた紙束。

 試作品らしく、少量しかなかったが、どこからどうみても悪魔退治の一式であった。

 恐らくはクルセスが生産したものだろう。

 検分が終えた今なら、確信を持って言える。

 魔術文字ならともかく神聖文字を自由に扱えるのはクルセスぐらいなものだ。

 流石に歴史だけはある国。

「くく、このような玩具、無意味だというに……。まこと、人間は可愛いのう」

 目の前で、聖句がかかれた紙を揺らす。

 ほんの少しだけ力を込めてみると。

 ボゥッ。

 黒い炎が吹き上がり、紙を燃やし尽くした。

 聖句に込められた魔を祓う神力と、わらわの魔力が反応した結果。

 ……他愛ない。



 ……。

 太陽が天頂に輝く。

 馬車に乗ってから暫くの時間が経つ。

 サマエルはいまだ夢の世界。

 ……。

 陽光が頬を温める。

 頬を撫でた風が気持ちいい。

「このような時は、わらわも争いなどしたくないというのにのう……」

 皮肉げに囁くと、遥か彼方の空を見上げる。


「あれは、翼竜か……。くく、団体様のご到着とな」

 見えるだけでも、翼竜らしき影が三百超。

 ……。

 別に気配は隠していないし、抑えているとはいえ、魔力も普通に発散している。

 隠蔽・遮断系の魔術も使用していない。

 魔族専用の探知魔術を使われれば直ぐにでも居場所などばれるだろう。

 だが……。

「あれはもう国家級の戦力じゃのう」

 流石に、これほどの団体様が来るとは思わなかった。

「しかも、あの円と三角の合わさったような記章は」

 そう、あの印は……。

「クルセス!どうやら勇者直々のご登場か!」

 テンションが高まる。

 以前虐殺してやったルナ大公国の兵どもは、あまりにもあっけなかった。

 しかし、勇者なら少しは歯ごたえもあるだろう。


「起きよ」

 サマエルの頭を軽くどつく。

「…………ん、あ」

 微妙に艶っぽい声を上げて、緩やかに目蓋を上げる。

「…………リリ、ス?」

「客じゃ」

 リリスの問いに簡潔に返し、彼方の空を指差す。

「……」

 しばらくの間、じっと見つめていたが。

「…………勇者?」

 激しく述語が抜けている気がする。

 だが、まぁ。

「おそらくのう……」

 軍団の中に、一つだけ大きな気配があった。

 それが、おそらく勇者だろう。

「勇者とはわらわが遊ぶ、手をだすな」

 サマエルが微妙に呆れた目をするが、頷き一つで応じてくれる。

「しかし、わらわ達がこの世界に来てからまだ、一昼夜も巡っていないというのにのう……。迅速なことじゃ」

 思わず感心する。

 ……。

 サマエルとリリスはあずかり知らないことだが、クルセスの上層部は今回の魔族討伐に全霊をかけていた。

 誰よりも、何よりも先に、強大な魔族の討伐という戦果をあげる必要があったのだ。


「まぁ、良い。参れ人間達よ。その力を見てやろう」

 冷酷に、されど童女のように、心底楽しそうな笑顔で囁く。


「生命の最も輝く瞬間は死の間際……。さぁ、その身に宿る命、輝かせてやろう……」

ご感想・ご意見・各種批評・間違いの御指摘などをお待ちしております。


次話は、VS勇者ですww

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