29話 毒と夜
誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。
「……まだ、見つからない?」
私の問いに、目の前の情報士官三人は恐怖に引きつった顔を見せた。
顔は蒼白を通り越して、真っ白だ。
歯も、ガチガチと鳴っている。
「もう一度……」
これは最後通牒。
「……まだ?」
私の問いに。
「も、申し訳ありません!方々に手を伸ばしているのですが……」
……。
玉座の周囲にあった絨毯が黒ずんでいく。
近くにおいてあった酒は濁り、果実は溶け崩れていく。
私の体から無意識に漏れた毒が周囲を蝕んでいるのだ。
「「「ひぃ!」」」
情報士官達が悲鳴を上げるが、逃げることはしない。
否。
逃げられないのだ。
魔界は完全な実力至上主義。
弱者は強者に従う、魔界の数少ない掟の一つだ。
私は彼らに「下がって、良い」とは言っていない。
このまま彼らは私の毒で死ぬことになるだろう。
「……」
無能者にはいい教訓だ。尤もその教訓が次に活かせるかどうかは知らないが。
「……」
お兄様、あなたはいったいどこにいってしまったのだろうか?
「「「ひぃぃぃ!」」」
無能者の悲鳴は耳障りだ。
と。
ゴウゥッ。
闇が逆巻いたかと思うと、私の毒を散らした。
「……?」
無意識に漏れたものとはいえ、私の毒だ。
それを散らせるものなど、現状、この魔界には数人しか居ない。
……。
ギィィッ。
玉座の間の扉が開き、逆光が一つの影を映し出した。
幼い……、本当に幼い少女だった。
見かけは十二、三歳頃だろう。
しかし。
異様な容姿をしていた。
漆黒の髪に、真紅の瞳。
肌はしみ一つおろか傷一つない、病的なまでに白い肌。
何より、その髪だ。
信じられないほどに、長い。
墨を流したような漆黒の髪は本人の背丈を超え、床に引きずるままになっている。
少女の背丈の数倍はあるだろう。
……。
と、件の少女が口を開いた。
「久しいのう、サマエルよ。いらつくのも分からなくはないが、部下はもっと大事にせい」
苦笑のこもった、古めかしい口調の言葉に。
「…………久しぶり、リリス」
と、だけ簡潔に返した。
――サマエルとリリス。
共に魔界にありて、畏怖の名もって語られる者達である。
一方は、世界を滅ぼす不治の病にして、千を滅ぼし万を殺す無限の毒。
片や、全魔族の母にして、天地創造より永劫を生き続ける原初の悪魔。
共に魔界有数の大悪魔であり、その力は先代魔王・カイン、当代魔王・ルシファーを除けば恐らく魔界最強に位置する二人である。
単純な戦闘能力で言えばベルゼブブ等も彼女達に匹敵するが、それでもサマエルとリリスの二人は抜きん出ている。
サマエルはその固有能力が……、リリスはその魔力が……。
……。
「まずは……。お主ら、下がれ」
リリスが平伏している情報士官らに声を掛けた。
情報士官たちはこちらに視線を向ける、が。
彼らにはすでに興味もない、頷き一つで下がらせることにした。
リリスがここに訪れたということは……。
……。
「時に、サマエルよ。愛しのお兄様は見つかったか?」
「……」
分かって言っているのだろうか?
「くく、冗談じゃ」
「…………なら、言わない」
「気をつけよう」
リリスは「くくくくっ」と、一頻り笑うと本題を切り出した。
「先日、人間界にてケルベロスが消滅した」
「……」
驚いた。
今の平和ボケした人間に、あの犬がやられるなんて。
「今の人間界には、たいした戦力はないと踏んでいたのだがのう……」
コクリッ。
頷きでその意見を肯定。
「うむ。今の人間界で我らクラスの悪魔に対抗できるのは<勇歌と聖歌の国>クルセスの勇者、<草原と牧歌の国>ガラリヤの騎士王、<四季と和の島国>ジパングの姫巫女、<夢幻と最果ての国>アバロンの幻王、<幻想と異郷の国>エイスの守護龍。そして、現在消息不明の<覇者と戦の国>レイヤード大帝国の魔導戦姫ぐらいなものじゃ」
確かに……。
人間界で我らに少しでも対抗出来そうなのは今言った、五人と一匹ぐらいなものだろう。
その上、最も危険視されていた帝国の魔導戦姫は既に表舞台から姿を消している。
……。
……ん?
では、誰がケルベロスを討ったのだろう?
と、リリスが私の考えを見抜いたかのように。
「ケルベロスの襲撃した国は、<叡智と魔導の国>ルナ大公国。技術はたいしたものだが、戦力としては精々足掻くのが限界じゃよ。…………だが、現実としてあの犬は死んだ」
「…………おかしい」
思わず呟く。
ジパング、アバロン、エイスはローム大陸。
ルナ大公国はゼア大陸。
一応、ガラリヤ、クルセス、レイヤード大帝国はゼア大陸だが、知っての通り魔導戦姫は既に消息不明。その中で勇者と騎士王が動けばいくらなんでも、魔族の情報網に引っかかる。
しかし、勇者と騎士王、どちらも動いたという情報はない。
……。
……今回のケルベロス消滅はあまりにも不自然すぎる。
と、リリスがにんまりと笑いながら爆弾発言を投げてきた。
「わらわの術法で解析をしたのだがのう、かの怠け者が飛んだ先はどうやら人間界らしい」
「!」
お兄様!
「まぁ、人間界らしいという所までは追跡できたのだがのう……、そこから先は消されていた。恐らくは、あの天使の仕業じゃろう」
「……」
…………また、あの天使か!
お兄様の寵愛を受けていた天使が思い出され、視界が真っ赤に染まる。
じわっ。
体からにじみ出た毒が全てを朽ち果てさせていく。
殺したい……。
あの天使が憎い……。
憎い、憎い……。
「ちょ!サマエルよ、毒を押さえろ!魔界を汚染する気か!」
!
気づくと、私を闇の結界が覆っていた。
どうやら、私から漏れた毒を押さえ込んでいたらしい。
「…………………………抑える」
とりあえず、周囲の毒を無力化した。
「これは、わらわの推測になるのだがのう、……犬を討ったのはあやつかもしれん」
「……?」
私の疑問に、リリスは苦笑混じりで答えてくれる。
「あやつは、普通の悪魔と違って人間に対して悪徳を実行するという本能が無いようじゃ。ならば、気に入った人間に手を貸すことぐらいはやりかねん……」
「……」
……確かに、お兄様なら……。
「サマエルよ、わらわは人間界に行こうと思う。お主はどうする?」
……?
首を傾げる。
どうするとは?
「お主は、あやつ以外ではとことん鈍いのう」
苦笑すると。
「わらわと一緒に人間界に行って、あやつを探さんか?と聞いておる」
!
「尤も、わらわ達が配下を大勢連れて行けば人間界と天界との全面戦争に発展しかねん。ゆえに配下を捨てての二人旅だがのう。……どうするかの?」
「……」
正直、私が配下を連れているのは、ただ私が他より強かったからに過ぎない。
ゆえに、興味も執着もない。
「……行く」
ただ、簡潔に一言返事して立ち上がる。
伸ばしっぱなしにしていた紫紺の髪が揺れた。
リリスは大きく頷くと。
「うむ、『開け』」
リィンッ!
私達の目の前にゲートが生成される。
たったの一言でゲートを造り出すあたりは、流石だ。
「では、行こうか。あの怠け者を探しに」
「…………(コクッ)」
我らが最愛の人、魔王・ルシファーを探しに。
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この話に出てくるヒロインは皆、長髪です。完全に作者の趣味です。
長さとしては。
リリス(床に引きずる)>スターシャ(足元ぐらい)>サマエル、ラファエル(腰下ぐらい)>>>ミレイ(肩)
ですwww
リリスとサマエルの二人はこの物語を構想した時点で用意していたのですが、今回ようやく出せました。一応ハーレム入りする予定の二人です。
コンセプトは<ヤンデレ属性妹風味>と<エロ熟女、でも合法ロリ>ですwww




