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26話 野犬退治の裏側で①

誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。

「あい!きゃん!ふらい!!」

 ……。

 変な掛け声と共に、飛んでいってしまった。

 しかも、スターシャを拉致して…………。


 ……しかたない。

 などと、諦めの境地に達していると。

 クイクイッ。

 スカートが引っ張られるので視線を落とすと、ミレイが心配そうな顔をしていた。

「エル様、シーファ様とお母さんは…………」

 ……ふむ。

 ……。

「大丈夫ですよ、ミレイ。ご主人様の事です、お腹が空いたら戻ってきますよ」


 ……。

「では、私たちは王宮に行きましょう。一先ずは今回のことについて報告したほうがいいでしょうから」

 行きましょう、と、目を丸くして固まっているルナ大公国の主従に声を掛ける。


 しかし。

「シーファ様とスターシャ様いったいどちらに……?」

 リーナが心配そうに聞いてくるので、簡潔に返す。

「問題ありません、ご主人様とスターシャは只今野犬退治に行きました」

「「「「?」」」」

 ……。

「今回の魔族襲撃を主導したであろう張本人。まぁ、黒幕です」

「「「「!」」」」



「暫く、お待ちください」

 客室に通され、案内してくれた侍女が声を掛けてくる。

「分かりました、ところで宜しければ、お菓子のような物は貰えないでしょうか」

 ミレイの頭を撫でながら、聞く。

 一瞬目を丸くするが。

「分かりました」

 ミレイを見て、微笑むと了承してくれた。

「ありがとうございます」


 侍女が茶菓子を届けてくれて、暫くの後。

 ポンッ。

 突然、ミレイが私の膝の上に飛び乗ってくる。

「ねぇねぇ、エル様」

「なんでしょうか、ミレイ?」

「シーファ様の昔話が聞きたいです!」

 ……。

 実はミレイには眠る前に、いつもご主人様の昔話を面白おかしく話していたりするのだ。


「そうですね…………」

 少し、考える。

 少女の情操教育に良くない話は弾いて行く。

 悪徳を笑って実行する悪魔連中が関係する話も弾いて行く。

 そうですね……。

「なら、魚を食べたいとか言って、海で釣りをして、巨大なシーサーペントを釣り上げた時の話でもしましょうか……」

 ……あの時、ご主人様は油断して丸呑みされましたね。

 ……胃の中が、素敵にカオスだったそうですよ。

 などと、本人が聞いたら軽くトラウマを抉りそうな話をすることにした。

 ……。

 余談であるが、この時シーファは凄まじい悪寒に襲われたそうな。

 ……合掌。


 ……。

「じゃあ、シーファ様は結局自力で脱出したんですか?」

「はい。単身で腹を突き破ったそうですが……、胃の消化液と胃の中の残留物、ついでに喰われたばかりで、まだまだ元気だったクラーケンと死闘を演じたそうです」

「うわー♪」

ミレイが目をキラキラさせている。

 だが、現場にいた当事者としては欠片も笑えない事態だった。

 今でこそ、昔話として語れるが、当時はご主人様が凹んで大変だった。

 ……。

 これまた余談になるが、シーファはそれから百年は釣りに行かなかった。



 コンコンッ。

 ドアがノックされる。

「どうぞ」

 ドアが開くと、王宮の侍女が入ってきた。

「失礼します。エル様、グリード様が是非とも会って、礼をしたいと申しております」

 ……。

「私だけでしょうか?」

 暗にミレイはどうするのかと問う。

 侍女は少し戸惑ったように答える。

「その、エル様を案内して欲しい、と……」

 ……。

 ……まぁ、いいでしょう。

 大公グリードは聡明で人格者という話。

 ……それに。

 視線をミレイの足元、具体的には足元に転がって寝息をたてている紅と蒼の毛玉に向ける。

 ……保険は十分以上にかかっていますし。

「わかりました、案内してください」



 謁見の間に通された。

 ……。

 流石に一国の主の間だけはある。

 重厚な造りに、高い天井。

 横に並ぶ、武官、文官。

 そして正面には、リーナとリーナ似の娘。

 一段高くなっている、玉座には……。

「……なるほど」

 誰にも聞こえない程の小声でつぶやく。

「……これが、なるべくしてなった君主ですか」

 威厳と覇気をたたえた壮年の男が佇んでいた。


 ……。

 ……随分と警戒されてますね。

 確認できるだけでも、部屋の外に合わせて四十八の戦士と魔術師の気配がする。

 それ以外にも、遠視の魔術を複数感じる。

 まぁ、あれだけの魔族を一瞬で屠ったのだ、警戒するなという方が無理だろう。

 と。


「はじめまして。私の名はグリード・テスタ・フォン・ルナだ」

 目の前にいた壮年の男性が話しかけてきた。

「この国の国主を務めさて貰っている者だ。……まずは、この国を救ってもらった事と、娘を無事に送り届けてくれた事に感謝しよう」

 一度切ると。

「ありがとう」

 頭を下げてきた。


「しかし、たいしたものだな、たったの三人であれだけの数の魔族を屠ったのだから。その上、今は二人だけで魔族の親玉を倒しに行ったというではないか。さぞ名のある方とお見受けするが、名を聞いても宜しいかな?」

「……エルと申します。連れの娘はミレイ、と」

「ふむ、エルとミレイか……。今いない二人の名も聞いても?」

「……我が主人の名はシーファ、ミレイの母であり同僚の侍女の名はスターシャ・バレットと申します。閣下」

 聞いたことのない名だったためか少し瞠目した。


「なるほど……。時に、エル殿」

「何でしょうか?」

「ここにいない二人は何時帰ってくるかわかるかね?」

「……そうですね、二時間見れば確実かと」

「ふむ。実は、魔族との戦での戦勝パーティーを開こうと考えていてな。君らも招こうと思うのだがどうだね?」

 ……そうですね。

「……断る理由はありません。お受けいたします。我が主人も豪勢な食事なら参加するでしょう」

「そうか、そうか」

 頷いた後、ニカッと笑うと。

「では、料理長に腕によりをかけて作るように言っておこう」

「ありがとうございます」

「うむ!」

 これで謁見は終りとなった。


 大公は問題ないですね、ただ……。

 ……。

 謁見の間で会話している間、周囲の人間を観察してみた。

 結論から言うと、中々に優秀な人材が揃っていた。

 ただ……。

「どこにでも、ゴミは紛れ込むものですね……」

 思わずため息が漏れる。

 ……面倒ごとになる前に片付けますか。



「只今戻りました、良い子にしていましたか?」

「うん」

 ミレイが抱きついてきたので、優しく抱きとめる。

「そうですか……」

 と。

 コンコンッ。

 ドアがノックされた。

 知っている気配だ。

「どうぞ」

 すると。

「失礼します」

 入ってきたのはリーナと。

「その、失礼します……」

 リーナに似た容姿の娘だった。


「なるほど……」

「リーナお姉ちゃんの妹さんですか」

 私とミレイの問いに。

「その、あの……、はい」

 と、恥ずかしそうに答える。

 随分と内気そうな娘だ。

「ユウナリーア・フォン・ルナと申します。この度は姉を助けていただいてありがとうございます」

「かまいません、ご主人様の決めたことですので」

「えと……、それでも、助けていただいたのは確かなことなので……」

「……」

「……」

 沈黙を拒絶と受け取ったのか、俯いてしまった。

 ……やれやれ。

 心の中で、僅かに苦笑すると。

「お礼はご主人様にもいってあげて下さい、きっと何だかんだで喜ぶと思いますよ」

 最近めっきり悪魔らしくなくなってきた主人の顔を思い浮かべる。

「あっ……、はい!」

 こちらが受け答えしたのが嬉しかったのか、ほっとしたように微笑した。


 それから、女四人で談笑を交わす。

 と、ご主人様のことに話が及んだときだ。

 ミレイが思い出したように言った。

「あのね、シーファ様が言ってたよ。女の人の下着を愛でるのは男の浪漫なんだって」

「「「…………」」」

「箪笥の中の色とりどりのお花畑は、男の人の憧れだって……」

「「「…………」」」

「後は、えーと「最近エルの箪笥の中にフリフリの服が……、あいつも随分乙女だな、HAHAHA」、って……」

 ポンッ。

 ミレイの肩に優しく手を置く。

「ミレイ……」

 優しく、笑顔で問う。

「そのセリフ、間違いなくご主人様が言ったのですか?」

「え?うん、この間町に出かけたときに」

 ……。

 そうですか……。

 ……………………よし。

 …………………………………………殺そう。


 ……。

 コンコンッ。

 ご主人様の殺害、……もとい折檻を決意して暫く、扉が再びノックされる。

 ……。

 ……この気配。

 ……来ましたか。


「魔導騎士団団長のアミールです。少々宜しいでしょうか?」

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