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24話 野犬には十分の注意を②

誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。

 周囲を漆黒の星が縦横無尽に飛び回る。

 一切の光を受けぬ、闇よりもなお暗い漆黒の闇。

 星に触れた一切の物が削り取られ消滅していく。

 魔族の攻撃も、魔族自体も関係ない。

 ただ、削り取って消滅させていくだけ……。

 ……。

「いや、…………それは流石に反則でしょう」

 そう、呟いたのもしょうがない気がする。


 俺はニーズヘッグを片手に、スターシャは漆黒の星を携えて進む。

 と。

 ゴウッ!

 前方から灼熱の炎が迫ってきた。

 ……ほう。

「この魔力量に気配、いよいよお犬様のところに到着か」

 意識を集中する。

 ――展開・固……。

 いつものごとく結界を展開しようとする。

 しかし、星の一つが前方に移動したかと思うと。

 ゴゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ。

 迫ってきていた炎を完全に吸い込み消滅させた。

「…………」

 あー……。



 森の深部、一際開けた場所に、そいつはいた。

 GRYAAAAAAAA!

 金属質な咆哮が耳につく。

 ……。

 体の大きさは一つの屋敷ほど。

 首の数は三首、首の周りと尾は鱗に包まれている。

 唾液が滴り落ちた地面は、異様な臭気と共に白い煙を噴き上げている。

 GRYAAAAAAAAAAAAAAA!

 ……。

 その名は、地獄の番犬と名高い悪魔、ケルベロス。



「我が主、ここは私が……」

 止める理由はない。

 ゆえに許可を出す。

「我が騎士よ」

 一言。

「任せた」

 そしてまた、返答も一言。

「仰せのままに」


 スターシャが加速すると、ケルベロスに進撃した。

 ……。

 さて。

「俺は、ここら一帯の浄化だな」

 結局一度も使うことのなかったニーズヘッグを苦笑しながらしまう。


 パンッ。

 拍手を打つ。

 拍手は一種の神事であり、その意味を真に理解しているものが使うなら、それは一つの儀式となる。

 拍手が響くと同時に、淀んだ空気が祓われた。


「……よし」

 呼吸を整える。

 向こうでスターシャとケルベロスが激突しているが、それすらも意識の外に追い出す。

 これから行うのは繊細な儀式。

 口を開き。

「――――♪」

 歌を歌った。

 鎮魂歌だ。

 ……。

 同時に、旋律に神力を乗せる。

 神官などが行う『鎮め歌』だ。


 全ての死者に安寧なる眠りを。

 ただそれだけを祈って、歌を歌う。

 ……。


 ――鎮め歌。

 神術の一つにして、その象徴。

 悪徳を旨とする悪魔には一生かかっても修得できぬ業。

 しかし、俺は……。

 以前、エルに神術の手ほどきを受けたときについでに教えてもらっておいたのだ。

 尤も、手ほどき受けた当時の俺には行使は不可能だった。

 でも……。

 今なら……。

 スターシャとミレイに関わり、仁愛の意味を理解し、その心を手に入れた今ならいける。

 そんな自信があった。


「――――♪」

 森の中を緩やかに旋律が流れていく。

 やがて。

 …………ほう、これか。

 ……なかなかにキレイなもんだな。

 森のそこかしこから青白く輝く、光の玉が浮かび上がっていく。

 これはおそらく、この地に縛り付けられていた人々の魂だろう。

 ……。


「――――♪」

 歌に誘われるようにして、光の玉は天を目指して昇っていく。

 ……できれば、来世では幸せになって欲しいもんだな。

 ……。

 想いを込めて、願いを込めて、祈りを込めて鎮魂歌を歌い続けた。



 ―――アナスタシア・フォン・バレッタリート―――


「仰せのままに」

 主に一言返すと、大地を踏みしめる足に力を込め。

 ダンッ!

 高速で間合いを詰めた。


 纏っている漆黒の星を三つ前方に撃ち出す。

 同時に。

「七つの星よ、在れ」

 周囲に七つの光弾を生み出し撃ち出した。


 ケルベロスはこちらの攻撃に反応して避けようとする、が。

「遅い」 

 星が発した重力場がそれを許さない。

 ドドドドドドドンッ!

 七つの光弾が直撃した。


 次の瞬間。

 ゴウッ!

 先程と同様に灼熱の炎が一直線に迫る。

 どうやら、光弾の直撃は身に纏った魔力障壁で防がれたらしい。

 だが。

「……予想通りですね」

 ポツリと呟き、纏った星の一つを動かす。

 星が迫った炎を食い散らした。


 ケルベロスの能力を聞いた時点である程度、予想は出来ていた。

 ……。

「魔力の量にものを言わせた、防御障壁ですか……」

 喰らった相手の魔力を取り込む力。

 確かに強力だ。

 術師の力量は主に、魔力量と術の技量、そして経験の数で決定する。

 他にも要因はあるが、基本はこの三つだ。

 そして、その魔力量を限定的とはいえ、無限に増やせるのだから弱いわけはない。

 尤も。

「……無様」

 嘲笑する。

 先の一撃で、ケルベロスの体には抉られたような傷がついていた。


 一方的な展開であった。

 ケルベロスの魔力量は確かに莫大であったが、そもそもスターシャ自身の魔力量も桁外れであった。もともと人類でもトップクラスだった彼女だが、シーファとの契約でさらに膨れあがったのだ。その魔力量は三界でもトップクラスであり、いくら強化されていようとケルベロスでは足元にも及ばなかったのだ。

 なにより、技量の差が天と地ほどもあった。

 スターシャの技量はシーファが驚嘆する程であり、そもそも人類有数の軍事国家で魔術研究院の院長を経験していた程だ。むしろ彼女以上の技量を持った術者など存在しないだろう。


 ……。

 一瞬で接近すると。

「ふっ」

 ズドンッ。

 魔力を込めた右の拳を横腹に突き刺す。

 同時に。

 ドォンッ!

 指向性持たせた爆発を生み出す。

 拳とケルベロスの体の間で紅蓮の華が咲く。

 が。

「……まだ」

 左手に装填していた魔術を解放する。

 どんな強力な障壁も、零距離からの攻撃ではその性能を十二分に発揮できない。

 ィィィィィィィィィィンッ!

 強力な振動波がケルベロスの内臓を引き裂いた。


 GRYAAAAA!

 それは、最初に聞いたような威嚇するような咆哮ではなく、苦悶の咆哮だった。

 ケルベロスとて一方的にやられている訳ではない。

 口から炎を吐いたり、爪や尾で反撃する。

 当然、魔術で反撃もしてくる。

 だが。

「無駄です」

 スターシャの纏った星がそれを許さなかった。

 星は接触した部分を削り取り消滅させる。

 また、重力場で相手の捕縛、斥力場での防御障壁……。

 スターシャにはかすり傷一つついていない。


 先程の魂達の慟哭の中に、ミレイのような子供のものがあった。

 母親を求める声だった。

 ……。

 私のように娘を持つものの声もあった。

 自らの子を求める声だった。

 ……。

 許さない。

 ……罪には罰を。


 ケルベロスが爪を振るってくる。

 ギシィッ。

 星の一つが展開した斥力場がそれを防ぐ、同時に。

「……」

 ゴキュッ!

 その腕を、星の重力場で握り潰した。

 GRYAAAAA!


 一方的な攻撃は続く。

 その光景を、サタンやベルゼブブなどの大悪魔が見れば戦慄に震えただろう。

 ケルベロスは、魔界の中ではそれなりの実力者だ。本来人間のレベルでは逃げることすら難しい程である。

 だというのに。

 ……。

 漆黒の星が頭を削り取る。

 重力場が四肢を握り潰す。

 振動波や光の槍がその体を射抜く。

 拳打や脚打がその巨体を宙に舞わす。

 ……。

 その実力は人間に許された次元を遥かに超えていた。


「はっ!」

 ケルベロスの腹を蹴りぬく。

 ズンッ!

 その巨体がノーバウンドと吹き飛び、森の木々を倒しながら停止した。

 ……。

「そろそろ終りです」

 ケルベロスの四肢は全て握りつぶされている。

 顔も一つしか残っていない。

 GRYAA。

 弱々しく鳴くが、……許しはしない。


 未来を奪われる悔しさは誰よりも知っている。

 生きたいと願い、それがかなわない無念さは誰よりも知っている。

 ゆえに。

「理不尽に殺された人たちに詫びて、滅びよ!」

 八つの漆黒の星がケルベロスの巨体を取り囲み。

 ギシィッ!

 強力な重力場がその身を拘束した。


 右手を天に伸ばし、詠唱する。

「全天の王。自ら輝く、誇り高い光の主。私は汝に希う」

 自らの持てる、魔術の粋。

「その光は世界を貫く雷に、その光は紅蓮の炎に、その光は災厄を祓う剣に」

 エラトステネスの周囲の魔物を殲滅した術が範囲攻撃なら、これは一点集中攻撃。



「光よ、雷火の剣となれ!」



 世界が黄金の光で満たされた。

ご感想・ご意見・各種批評・間違いの御指摘などをお待ちしております。


感想ありがとうございます。


確かに語尾には少々気をつけてみます。

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