21話 忘れてて……
誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい
「魔力収束砲『プトレマイオス』?」
「はい。対魔族用の決戦兵器です。クリスタルクラウンと共同開発していた物です。私がクリスタルクラウンに居たのも、帰りを急いだのもこの晶体を届けるためなんです……」
懐から取り出した、無色透明の結晶体を見せてくれる。
先ほどまでは死人のようだったリーナも随分と持ち直したようだ。
「これは『神の結晶』、プトレマイオスのコアであり、我が国とクリスタルクラウン、両国の技術の結晶です」
「ほほう」
……なるほどね。
リーナの手の中にある結晶は高い効率で魔力の収束と増幅を繰り返していた。
……。
「ところで、シーファ様……」
「お?」
「………………このような物を持っていたなら、最初から使って欲しかったのですが」
後ろでリーナの侍女一同もうんうんと頷いていた。
「あー……、なんというか、わりぃ。たったさっきまで存在そのものを綺麗さっぱり忘れててな(笑)」
……。
そう。
現在、俺達一行は空飛ぶ船に乗ってアーベルからエラトステネスまで高速で移動していたのである……。
これは、かつて俺が主神の神殿に侵入したときに片手間に強奪した、主神の神器の一つである。
名を次元潜航艇『ノアの方舟』。
この船は世界間の次元の壁を通り抜け、好きなときに好きな場所に移動できる力を持っている。
その上、他にも空を飛ぶ力等を持っているのである。
動力は船主の神力、または魔力。
……。
強奪した後、影の異空間に放り込んでおいたのだが、俺自身は翼や魔術で空を飛べるし、次元の移動も備え付けのゲートや俺自身が魔術で擬似的にゲートを作り出せるため、使う必要が欠片もなく、文字通り今まで倉庫で埃を被っていたのだ。
……。
なんとも渋い顔をしたリーナたちを客室に下がらせた後、ふと思いついて。
「ミレイ、おいで」
ミレイを呼び寄せた。
懐から『月の涙』を取り出す。
「?、シーファ様?」
「まぁ、見てろって……」
意識を集中して、魔力を込める。
「我が願を持って、一つの命となれ」
ィィィィィィィィィィィィィィィィィンッ。
膨大な魔力が集束し、次の瞬間。
ポンッ!
鮮やかな群青の毛並みの子猫が現れた。
「こんな時だ、保険は多いに越したことはない」
アポロン同様に俺の全魔力の一%を込めておいた。
「まぁ、ある意味、アポロンの兄弟だな……」
青い子猫をミレイに手渡す。
しかし。
「………………………………」
「………………………………えと……」
「………………………………」
「………………………………シーファ様」
「………………………………頼む、何も言うな」
「………………………………はい」
ミレイの問いに呻くように答える。
しかし。
「流石はご主人様、なんとも期待を裏切りませんね……」
「えーと、えーと、その、あの…………(ニコッ)」
半眼のエルの呟きと、スターシャの「私は全てを受け入れます!」的な笑顔がなんとも心に痛い。
……。
そう、青い毛並みの子猫は、……………………熟睡していた。
……。
とりあえず、二人は影の異空間に引きずりこみ肉体言語でお仕置きしてやった。
当然、俺のやつあたりだ。
影の異空間を選んだのはミレイの情操教育を考えてのこと。
引きずり込む瞬間は、ご丁寧に時間停止結界でミレイ他多数を止めてみた。
……。
「ええと、アポロンの兄弟なら、名前はアルテミスで……。って、あれ?エル様とお母さんは?」
「ああ、二人なら仲良く寝てるぜ」
「?」
影の異空間では全身をほんのりと赤く染めた全裸の美女二人がぐったりと倒れ付していた。
「失神するまでやったのは流石にまずかったか……。てへっ♪」
「とりあえず、後十分程で首都エラトステネスに到着する。でもって、現在の状況を説明する、……エル」
俺の参謀様に説明と作戦を求める。
「御意」
一言で応じ、説明を始める。
まぁ、侍女二人の雰囲気が微妙に艶っぽいのは考えない方向で。
……。
「現在は魔導騎士団の残存勢力が首都防衛を担当しているようですが……、現在の魔族の戦力から考えて長くは持たないでしょう。むしろ現在まで防衛に成功していたことが既に奇跡です」
エルの言葉にルナ大公国の主従一同が暗い顔をする。
「今回の作戦はいたって簡単。形としては、奇襲です」
説明を続ける。
「この船を利用し、上空から大きな一撃を相手に叩き込み、そのまま離脱。分かりやすく言うならばヒット&アウェイ。そして、そのまま離脱後は速やかに王宮に移動します」
……ふむ。
「戦闘に参加するのは私とスターシャ。ご主人様はこの船の制御と上空からの援護射撃をお願いします。後、リーナ様」
エルがリーナに声を掛ける。
「先ほど魔力通信設備を作りましたので、今のうちにエラトステネスに連絡をお願いします」
「わかりました」
エルが一つ頷くと。
「以上です。質問がある方は今のうちにどうぞ」
……。
「一つ、いいでしょうか?」
リーナだ。
「この国を救っていただく方に、失礼かもしれませんが、どうしても気になって……」
何度かためらっていたが、心を決めたのか、聞いてくる。
「シーファ様、そしてエル様、スターシャ様、ミレイ様、……貴方達は一体何者ですか?」
「「「……」」」
「傭兵団を壊滅させた山賊を単身で滅ぼしたこと、今回のこの船と、無謀とも思えるこの作戦。何もない空間から様々なものを出す業。それに、よくよく考えれば始めてあったときに感じた魔力量や魔力密度。とうてい常人のものとは思えません……、貴方は、貴方達は、一体?」
……。
「「「……」」」
……さて、なんて答えようかね。
などと考えていると、突然横合いから声が飛んできた。
「シーファ様は、シーファ様だよ」
……。
ミレイだ。
「お母さんと私を助けてくれた人。未来という、希望が溢れる日々をくれた人。そして……、私とお母さんの大好きな人!」
……。
ミレイの裏表のない声にリーナ達が黙り込む。
しばらくミレイとリーナが視線を交わす。
やがて。
「……申し訳ありません、下世話な質問でした」
と、頭を下げてきた。
「どうか、我が国を宜しくお願いします……」
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どうにも、上手く書けない……。