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20話 報酬は『月の涙』、そして幼い希望

誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい

 アーベルの町に到着した。

 予定では、そこでルナ大公国の首都であるエラトステネスから迎えが来る手はずになっている。

 一応、クォーツの町を出る際には、魔力通信を利用して今の時間に到着することを伝えてある。

 道中で特に時間が遅れるようなこともなかったはずだ。


 ……。

 しかし。

「迎えの姿なんて、影も形もないぜ」

「そんなことは……」

 そう、アーベルの町に到着しているのにも関わらず迎えが来ないのである。

 ……。

「姫様、グリード様に連絡を入れましょう」

 困り果てたリーナにそう提案したのは、イネスである。



 ―――フィーレリーナ・フォン・ルナ―――


「では、行ってきます」

 そう言って、アーベルの町の公共通信施設に入る。

 通信施設とは魔力通信を行うための施設である。


 施設の操作用の水晶端末に触れる。

 ポウッ。

「フィーレリーナ・フォン・ルナが使用を宣言。接続先をルナ大公国首都・エラトステネスのルナ家に……」

 同時に魔力と、ルナ家に接続するための専用の接続術式を入力する。

 しばらくして、目の前の水晶板に画像が映る。

「お父様!」

 本来は、ルナ家の通信官が出るはずだ、なのに……。

「おお!リーナよ、待っていたぞ……」

 水晶板に映ったのは、頬がこけ、疲れ果てた自らの父だった。


「まず最初に迎えをやれなかった事を謝ろう……」

「お父様……」

 私の父はもっと覇気がある人物だった。

 私が見なかった二ヶ月の間にいったい何が……。

「もし、お前からの通信が入った場合は私の元に転送されるように通信官に頼んでおいたのだ。リーナよ、お前は今居るのはアーベルの町で間違いないか?」

「はい……」

「ならば……」

 父は何度か迷っていたが、私に向かって言った。

「そのまま、クリスタルクラウンに戻り亡命せよ」


 ……。

 何を言われたか理解できなかった。

 いや、もしかしたら理解していたのかもしれない。

 ただ、私の理性が、本能が、……理解することを拒んでいた。

「魔族の攻撃は熾烈を極めた、もはやエラトステネスの陥落も時間の問題。お前の持つ『神の結晶』が届いても状況の挽回は厳しいだろう。……我らは既に覚悟を決めた。だが、お前はここにはいないのだ、ならば、……お前だけでも生き残って欲しい」

「ち、ち、……うえ」

 言葉が続かない。

 息が苦しい。

「……ユウナから言伝を預かっている、「お姉ちゃん、元気で。また、いつか会おうね」と」

 チチウエハイッタイナニヲイッテイルノダロウ?

「……私とユウナは、これよりマーリィに会いに行く」

「……」

「先ほど、サロアに連絡を入れておいた。お前のめんどうを見てくれると言っていた」

「……」

「お前は聡明な娘だ、私にはもったいないほどの……、頼む、生きてくれ」

「―――!」

 口から自分の声とも思えない絶叫が漏れる。

 だが。

「最後に娘の顔を見れたのだ、悔いはない」

 そう笑って父上からの連絡は途切れた。



 ―――シーファ―――


 通信施設の中からリーナの絶叫が聞こえた。

 イネスが施設内に走りこんでいくのが見えた。

 ……。


 施設から出てきたリーナはふらふらと座り込んでしまった。

 ……。

「リーナ」

 声を掛ける。

「……」

 リーナの目からは生気が完全に抜け落ちていた。

「……何があった」

「………………」

「………………」

「父上が逃げろって……」

「?」

「もうすぐ、この国は滅びるからって……」


「「「「「!」」」」」

 その場に居た全ての人間が驚愕の表情を浮かべる。

 ただ、人外の二人組み、俺とエルは大して驚きはしなかった。

 今回の騒動の原因となっている悪魔を知っているだけに、この結末は充分予想できたのだ。

 ……。


 衝撃の告白を聞いた三十分後にティアード達は去っていった。

 リーナをアーベルに送り届けるのが仕事だが、それが完了したのだ。

 その上国の滅亡を国主の口から聞かされれば去りたくもなる。

 去ったとしても、誰も文句は言えないだろう。


 問題はリーナだ。

 目は虚ろで、顔には一切の生気がない。

 イネスが慰めてはいるが、大して効果が上がっていないようである。

 蒼白になっている顔も相まって、文字通り人形のようだ。



 と。

「ねぇねぇ、シーファ様」

「お?」

 ミレイだ。

 俺の外套の裾を掴んでいる。

「シーファ様なら助けられると思うんですけど……」


 ……。

「なぜ……、そう思う?」

 確かに可能だ。

 ケロベルスとその眷属程度なら鎧袖一触、というより寝ボケてても殲滅可能だ。

 だが、ミレイがそれを知る術はない。

 しかし、ミレイは可能だと仄めかした。

 ……なぜ?

 と、ミレイが驚愕の答えを発する。

「夢を、……夢を見たんです」

「……夢?」

 ミレイはこくりと頷くと。

 どうやら、昨日の夜に妙な夢を見たらしい。

「最初はリーナお姉ちゃんが泣いてました。でもシーファ様が手を差し伸べたら」

「差し伸べたら……」

「笑ってました!」

「笑って……?」

「はい!」

「皆、笑ってました!シーファ様とエル様、お母さん、私、リーナお姉ちゃん、リーナお姉ちゃんに似た女の人。皆が楽しそうに笑ってました!」


 ……。

 夢?

 ……。

 !

 まさか!

「エル!」

「御意。ミレイ、少し失礼します」

 エルの手がミレイの頭に触れる。

 ……。

「ご主人様、おそらくご想像の通りかと……」

 いつもは無表情に近いエルの表情が驚きに彩られていた。


「……予知能力」

「ええ、まちがいありません。まだ僅か片鱗ですけど……」

 ――予知能力。

 時間を先取りし未来を認識する力。

 人間が発現する能力の中でも、最も希少価値が高く、同時に最も危険な能力の一つである。

「驚いたな……」

「ええ」

 俺の言葉にエルが応じる。

 スターシャも目を丸くして驚いている。

「ミレイにそんな力が……」


 ……。

 しかし……。

 ……。

「ミレイ……」

「?」

 ミレイに問う。

「俺達は、……笑っていたのか?」

「はい!」

 ……そうか。


 ……。

 ……なら。


「エル、スターシャ。……俺は信じてみようと思う」

「「?」」

 俺の侍女二人が不思議な顔をする。

 俺はミレイを抱きしめ、言葉を口にする。

「ミレイは未来を指し示した。皆が笑っているという未来を……」

 ……。

 もしこの未来を表すなら、この言葉以外はない。

 そう、それは……。

「……希望」

 そう、皆が楽しく笑っていられる未来への希望。

 それは、永久に続く明日への願い。

 だから。

 最近の俺は、本当にらしくない……。

 と苦笑してから。

「……アフター・サービスだ。首都エラトステネスまで行く」

 宣言した。

「この国を救ってやろうぜ!」

 俺はミレイの見た未来を、信じてみたくなった。



 人形のようになってしまったリーナの前に来る。

 膝を下ろし、目線の高さを合わせる。

「リーナ……、もし君は国が救えると知ったら、その代償に何を差し出す」

「……」

 リーナが俺の言葉に反応しのろのろと顔を上げる。

「……救える?…………お父様を?ユウナを?」

「そうだ。救えるなら君はどのような覚悟を示す?」


 これは悪魔の契約。

 代償を糧に、願いを叶える禁断の裏技。

 悪魔の怒りを買えば、その五体は引き裂かれ、魂は永遠に煉獄をさまよう。

 ……。

 リーナの目に希望という名の光が宿る。

「……もし、救えるのなら…………」

 ……。

 ――けれど。

「私は、この命を犠牲にしても……」

 ……。

 ――もし、悪魔の歓心を得たのなら。

「けして、後悔はしない」

 ……。

 ――人の身では叶わぬ願いが現実となる。


 リーナのその言葉はけして、力強く宣言されたわけでも、言い切られたわけでもない。

 しかし。

 その言葉に込められた意思は本物。

 悪魔は一切の嘘を見抜く。

 ゆえに、その言葉の内に込められた狂おしいまでの願いと、絶対の覚悟を理解する。


「……」

 リーナの胸元に手を伸ばし、胸元に付けられていたブローチを手に取る。

 以前報酬として渡された『太陽の微笑』と酷似している。

 だが、中央の宝石の色は鮮やかな、青。

 周りの銀細工はおそらく同様にアダマンダイト。

「これは?」

 横で、俺達のやり取りを見守っていたイネスに尋ねる。

「そのブローチは『月の涙』。太陽の微笑と二つで一つの我が国の至宝です」

「そうか……」

 イネスの答えに満足する。

 ……流石にタダ働きは嫌だからな。


「リーナ、報酬はこのブローチだ」

 俺は宣言する。

「代価は、ルナ大公国の未来」

 そして、目の前の娘、フィーレリーナ・フォン・ルナに問うた。

「この仕事、俺に依頼するかい♪」

ご感想・ご意見・各種批評・間違いの御指摘などをお待ちしております


最近再びのスランプ状態に……。


文章が安定しない気がする……。

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