19話 はじめてのごえい⑤
誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい
「ただいまー」
俺がエルやスターシャ達と合流したのは後一時間程で夕方になる、という時間だ。
走行中の馬車に降り立つ、……尤もエルもスターシャは驚かない。
ただ、ミレイが、すごーいと目を輝かせてくれたぐらいだ。
……なんとも味気のない反応。
「では、山賊は壊滅したんですね?」
「おう、一人も討ち漏らしていないはずだ」
「そうですか」
エルが優しさを滲ませた声で応じてくれる。
「無事でよかったです」
こちらは、スターシャだ。
「おう。俺が、あんな雑魚共に後れなんかとらんさ」
カカカ、と笑う。
と、そうだ、そうだ。
「ミレイ、いい子で待ってたか?」
「うん、いい子で待ってたよ!」
元気良く返事を返してくれる。
「よし、よし♪」
影の異空間に手を突っ込むと、あるものを取り出す。
「なら、これをミレイお嬢様に進呈しよう♪」
……。
スターシャからは微妙な目で見られ、エルはもう全てを悟った目をしていた。
……。
ミレイに渡したのは、なんと淑女用のドレスだったのだ。
漆黒でスタイルが出る、着る人を選ぶドレス。
ちなみに、山賊の宝庫の中にあったやつだ、もちろん新品。
……。
「ええと、シーファ様」
「ほわっつ?」
「私にはまだ、着れないんじゃなかいなぁ……」
ミレイがなんとも難しい声で呟く。
……ふ。
そんなこと……。
この魔王・ルシファーに抜かりなし!
「大丈夫!」
目指せ、〇源氏計画!
「八年後に俺とけ……」
……。
俺の後頭部を誰かの手が掴む。
「……ええと、このドレス、ガラリヤ産の最高級布を使った、高級ドレスでだな……」
「……」
「王侯貴族でも中々手に入らなさそうな一品でだな……」
「……」
「将来、ミレイが着れれば中々に……」
「……」
無言が非常に怖い。
「……」
「……えーと」
「……遺言はそれだけでしょうか?」
……。
「すいません!自分調子に乗りました!」
恥も外聞も捨てて、土下座した。
……。
何とか許してもらえました(泣)。
「ミレイにはこっちを渡しとくよ」
そう言って、渡したのは子供用のピンク色の可愛いドレスだった。
「いいんですか?」
「ああ、本当はこっちを渡すつもりだったんだ」
そう言って、ミレイの頭を撫でる。
「……あの、その」
「ん?」
「……ありがとう、シーファ様」
頬を赤くしてお礼を言ってくるミレイが、思わずてごめにしてしましそうな程に可愛いかった。
やべぇっ、本当にロリコンに開眼しそうになった。
……気を取り直して。
「このドレスはスターシャに渡すよ」
スターシャに先ほどの黒いドレスを渡す。
「いいのですか?」
「おう、本当はこのドレスはスターシャに渡す予定だったんだ」
……ん?
スターシャさんの顔が熟れたトマトのように真っ赤だ。
「えと、その、ご主人様……」
「お、おう」
なんだか凄いうぶな反応に戸惑う。
「私、こういう風に男性からプレゼントを貰うのは初めてで……、その……、このドレス、大切にしますね///」
……。
キュンッときた!
妙齢な美女が、少女のように頬を赤らめて嬉しそうにする様は、なんとも来るものがあった。
じー……。
さて、この視線は、と……。
横を向いて、口笛などを吹いてみた。
~~♪
じー……。
~~♪
あっ、目に涙が溜まってきた。
じー……。
~~♪
おお、なんとも。
俺にSの才能があったとは……
先ほどの仕返しもかねて、もうちょっと苛めても……。
と、次の瞬間、信じられないものが聞こえた。
……グスッ。
!
やばい!
苛めすぎた!
全力でエルに謝る。
「スマン!ちゃんとエルにもお土産あるから!」
……。
とりあえず、その後、光の矢を撃ち込まれ、アイアンクローで頭蓋骨を握り潰された。
……。
最後に見た光景は、スターシャが自分の娘の耳と目を塞ぎ、本人も顔を背けていた。
……。
いざ、南無三~♪
……。
……回復後。
「はい、エル様にはこちらのドレスをご進呈いたします……」
臣下の礼で、鮮やかな群青のドレスを進呈した。
「本日は、ここで野営を行います。明日の午前中にはアーベルの町に着きますので、皆様もうひと頑張りでございます」
……。
昨日同様に影の異空間から料理器具や食材を出して、夕食の準備を進めていく。
今回は、リーナの従者達も協力してくれたため昨日より早い段階で食事の準備が整った。
……。
ズズズッ。
食後の紅茶を啜る。
砂糖とミルクを入れるのはご愛嬌。
俺は甘いものが大好きだ。
と。
「では、山賊はもう出てこないのですか?」
本日の顛末を話しての第一声だ。
「とりあえず、はな。だが、山賊なんていくらでも沸いて出てくるもんだ。根本的な解決を望むのなら、騎士団の詰め所でも作ることだな」
「そうですね……」
何やら、考え込んでしまった。
と。
「そういえば、助け出した娘達はどうなったのでしょうか」
こちらはイネスだ。
「そちらは、適当に護衛をつけて返したよ。足と護衛を付けたんだ、早ければ明日にでも何処かの町についているだろ。……たしかクリスタルクラウンの方に向かっていったぜ」
「そうですか……、ありがとうございます」
「気にすんな、行きがけの駄賃だ」
「……はい」
……。
その言葉で本日はお開きとなった。
……。
夜はティアード達が歩哨に立っていてくれたようだが、そもそもの原因がなくなっていたので、何も起きなかったそうだ。
三日目。
とりあえず、朝食も済み、出立の準備も終える。
「では、行きましょう」
リーナのその言葉で一行は出発した。
ガタガタッ。
馬車が揺れる。
……。
エルが唐突に話しかけてきた。
「ご主人様、どうかしましたか」
「ん?」
「なにやら、難しい顔をしていたので」
「ああ、どうもな……」
「「「?」」」
場車内に居た全員が首を傾げる。
……。
「もう少し立てばエルも感じるだろうよ……」
「?」
「随分と懐かしい気配だ。こちらに来てまだ一週間たったか経たないかなのに、懐かしく感じるよ……」
全員首をかしげている。
ミレイにいたっては頭上を?マークが舞い踊っている。
苦笑しながら、種明かしをする。
「感覚を研ぎ澄ませ。さすれば自ずと理解する……」
「「……」」
「……」
「これは強い魔の気配……」
スターシャがポツリと呟く。
そう、ルナ大公国から力ある悪魔の気配を感じた。
そして……。
エルは理解したようだ。
「これは!……確かに懐かしい気配ですね……」
「だろう。……群雄割拠とは言ったものだな」
あいつがこちらの世界に出てきているのだ、魔界は今どうなっているか非常に気になる。
「まさか、門番の仕事を放り出して、人間界に攻め入るとはな……」
エルと二人で苦笑を浮かべる。
今だ理解できていないスターシャに答えを教える。
「その首は三つ首、竜の尾と蛇の鬣。滴り落ちる唾液は猛毒、咆哮は青銅。来る死者を迎え、去る死者を噛み殺す、地獄の番犬。名を……」
歌うように、その名を告げた。
「ケルベロス」
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もう少しシリアスが続くかも……。