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18話 はじめてのごえい④

誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい

 辛くも砦の崩壊は免れた。

 ……とりあえずは。

「……あの男、殺す!!」

 ニーズヘッグを片手に部屋の窓から躍り出た。


 ……。

 ズバァンッ!

 勢い余って地面を大きく抉ってしまった。

 が、気にしない。

 今は。

「よお。手下を見捨てて、一人逃げ出すとはいい身分だな」

 目の前には山賊の頭。

 砦を一人逃げ出そうとした所で捕まえたのだ。


「ちくしょう!」

 頭は曲刀を構えると突進してきた。

 ガキンッ!

 それを易々と弾くと、返す一撃で曲刀を叩き折る。

「この、化け物がぁ!」

 折られた曲刀を捨てて、小刀を投げてきた。

 ……ふんっ。

 ドンッ。

 一瞬だけ体から魔力を解放すると、その余波で小刀を弾き飛ばす。

「……な!て、てめぇ!」

 頭が、今度こそ恐怖で顔を青くした。


「死にたくなければ、山賊などしなければよかった……」

 一歩近づく。

「殺しなどするべきではなかった……」

 また、一歩近づく。

「誰かを殺すというのなら、自分も殺される覚悟をするべきだった……」

 ……近づいて行く。

「ひ、ひぃ!く、来るんじゃねぇぇ!」

 ……。

 …………悪魔の言葉ではない、だが。

「罪には罰を。死ね」

 逃げようと背を向けた山賊の頭に一瞬で肉薄すると。

 ザシュッ!

 頭頂部から股下まで一息に両断した。



 ……。

 とりあえずは、囚われている人達を救出することにした。

 ……。

 出会う山賊を、次々殺しながら地下の牢に向かって進む。

 山賊たちは今まで、この地を通る人々から財や命を奪い、略奪の限りを尽くしてきた。

 かける情けなど一片も必要はない。

 ……。

 しかし、殺すたびになんとも言い難い気分になるな。

 悪魔なら、他者の命を奪うたびに快楽を覚えるはずだが……。

 どうにも、俺にはそういう感覚はないっぽい。

 俺としては、殺しを行うぐらいならエルやスターシャ、ミレイたちとのんびりと暮らしたほうがいい。

 ……。

「どうにも……、略奪者にはなれないね、俺は」

 思わず苦笑がもれた。



「いやあああああ!」

「ひっ、や、やめてよぉ!」

 地下牢に辿り着いた瞬間、そんな声とともに下卑た笑い声が聞こえてくる。

「……チッ」

 思わず舌打ちがもれる。


 想像通り、想像通りに嫌な光景が広がっていた。

 年頃の娘達が山賊共の慰みものになろうとしていたのだ。

 両腕を拘束されて、衣服を剥ぎ取られている娘が何人も……。

「下衆が!」

 怒りに任せて、ニーズヘッグを暴風のように振り回す。

 ザシュザシュッザシュザシュザシュザシュザシュッ。

 次の瞬間には、十人以上居た山賊がただの肉塊に変わっていた。


「……」

 無言のまま、牢の鉄格子や拘束具、縄や鎖を斬っていく。

「とりあえず、上にいた山賊はまとめて始末した。生き残りたいならついて来い」

 ……最悪の気分だ。

 と。

 一糸纏わぬ裸の娘が泣きながら訴えてきた。

「あ、あの、足が動かないんです……」

 ……。

 ドゴンッ!

 怒りに任せて壁を殴りつけた。

 ……。

 女性達の何人かは、逃げられないように足の腱を切られていたのだ。


 話を聞いてみると、逃げられたら困る娘などの腱を切ったようだ。

 クリスタルクラウンやルナ大公国の貴族の娘や高官の娘をさらって人質にしていたらしい。そのため逃げられないように足の腱を切った、との事だ。

 どうやら、両国の騎士団の対応が遅れたのは、国境付近というだけではなかったようだ。

 幸い、と言っていいのか分からないが、攫ってきた娘たちを強姦するなどのことはおきていなかった。

 おそらく、例の参謀の男が禁止していたのだろう。

 山賊をあれだけ統制していたのだ、そこらへんも注意していたのだろう。

 しかし今回、砦が崩落しそうになるなどの事態が発生し、混乱をきたした一部の山賊たちが暴走したらしい。


 怒りを、どうにか押さえ込むと深呼吸をした。

「……ふう」

 ……。

 影の異空間から、今回の護衛の依頼に合わせて持ってきていた毛布や布類など取出し、衣服を破られた女性を優先的に配っていく。

 牢にいた女性の数は全部で十三人。

 内、両国に関係ある女性が八人。

 この八人が足の腱を切られていた。

 残りの五人は最近近くの村から攫われて来たらしい。

 この五人は腱を切られた娘の世話役だったらしい。

 本来はもっと人数がいたのだが、先日に奴隷商人が来て買って行ったとの事だ。


「……ひどいな」

 切られた腱を見て思わず呟く。

 人間の医療技術では治療は不可能に思えた、二度とまともに歩けないだろう。

 ……いや、神術ならいけるか。

 ……。

「ちょっと、待ってろ」

 意識を集中すると、地上の様子を伺う。

 地下に来る前に、地上に召喚術でガルムを多数呼び出し、放っておいたのだ。

「……ふむ」

 地上に生き残りは居ないようだ。


 娘達を抱えると、地上に上がる。

 抱えきれなかった娘達は、腱を切られていない娘の手をかりて運んだ。

「おっと、ここ、ここ」

 目の前には、一台の大型の幌馬車があった。

 山賊たちが使っていた物のようだが、その山賊も既にいないのだから問題ないだろう。


 全員を馬車に乗せると、一言。

「とりあえずお前ら、足を治してやるから、見せろ」

 俺にしてはサービス精神が旺盛だ、だが。

 山賊にさらわれて怖い思いをして、その上、今回は純潔まで散らされそうになったのだ。

 多少ぐらいは優しくしてやってもいいだろう。

 ……。

 ……まぁ、中々に眼福的なものも見せてもらったしね♪

 綺麗な肌色や、ピンクや白のレースやフリルが頭の中で再現される。

 ふふふ♪



 淡い光を当てて、足の腱を修復する。

 回復ではなく修復。

 神術の最高位に位置する業だ。

 以前、エルから神術の手ほどきを受けたことがあった。

 尤も悪魔である俺が、神術を修得するのは相当に苦労した。

 使用する力が魔力ではなく、神力。

 ……そもそもからして、持つ力のベクトルや存在が大きく違う。

 また、神術と魔術では、その術式の形態も大きく違う。

 しかし。

 長年試行錯誤を繰り返した結果、魔力を神力に変換する技術を編み出した。

 俺自身の固有技術だ。

 尤も変換効率が異常に悪く、普通の魔術師や悪魔では意味がない。

 だが、俺に限って言えばその心配もない。

 ……結果、神術の修得に成功した。

 ……。

 今回、魔術ではなく神術を行使したのは、方向性の問題だ。

 魔術は攻撃や防御など戦う業には優れているが、回復などの癒しの業には乏しい。

 逆に、神術は攻撃や防御などの業は少ないが、回復や修復等の癒しの業は豊富である。

 ちなみに、以前にスターシャの病を完治させた業は魔術神術を複合させ、それぞれをいいとこ取りした、俺固有の秘術だったりする。


 ……。

「ほら、これで大丈夫だ。歩いてみろ」

 足の腱を修復した後に、声を掛けてみる。

 すると、二、三歩歩いた後に。

「ああ!歩ける。歩けます!ありがとう、ありがとう、ございます……」

 泣きながら感謝された。

 ……。

 その後。ガルムらを集めて馬車の護衛をさせると。

「とりあえず、ここで待っててくれ」

 それだけ言って、娘達を残し砦の中に戻った。


 ……。

 先ほどの探査魔術の結果どおりに進むと、一つの重厚な鉄扉に辿り着く。

「ここか、……セイッ」

 ガキンッ。

 ニーズヘッグを振るって、鉄扉を両断する。

 すると。

「おほ、おほほほほほ♪いいね、いいね♪」

 目の前には金銀宝石、美術品、魔剣や呪物などが山のように現れる。

 ……。

 とりあえず、まとめて影の異空間に放り込んでおいた。



 馬車とともに砦から脱出する。

 ……ここらへんか。

 砦から、一キロほど離れたところで、砦を支えていた氷結魔術を解除する。

 途端に砦が崩壊を始める。

 ズズズズズ……、ズドォンッ!

 よし、次。

 ――集束、固定。

 ォォォォォォォォォォンッ、ゴウッ!

 砦を中心に漆黒の球体が出現し、砦とそこら一体の土地を削り取っていった。

 超高重力による、虚無の闇。

 ……。

「証拠隠滅♪証拠隠滅♪」


 さてと……。

「とりあえず、金はやるから、後は自分達で何とかして欲しい……」

 そう言って、影の異空間から取り出した金貨や銀貨を配る。

 先ほどで、今回の元はとれるので全然問題ない。

 と、腱を切られていた娘の一人が声を掛けてくる、薄い金色の髪と目をした娘だ。

「すいません、自宅まで護衛をお願いできないでしょうか?もちろん報酬はお支払いいたします……」

 他の娘たちもこちらを見ている。


 ……やれやれ。

 苦笑しながら答える。

「申し訳ないが、既に依頼を受けている身でね……。依頼の重複はやってないんだ」

「……そうですか」

 ……本当にやれやれ、だな。

 今回の俺は本当に悪魔らしくない、そろそろ神でも名乗ってみようか、と苦笑する。

「まぁ、ちょっと待ってな」

 それだけ言うと。

 意識を集中する。

 ――形成、固定。

 ボンッ。

「わ!」

「きゃっ!」

 などの驚きの声が聞こえる。

 ……。

 なんと、そこには俺と瓜二つの顔と姿をした男がたたずんでいた。


「魔力で形作って、自立行動できるように擬似人格と記憶知識を与えたんだ。こいつに君たちを護衛させるよ。」

「え?」

「ん?いらないなら消すが」

 冗談を言ってみると。

「いるいる!いりますよぉ」

「いりますってば」

 などと焦った声が聞こえてくる。

 くくく、まったく……。

「では、俺が出来るのはここまでだ。まぁ無事でな……」


 別れの際に、腱を切られていた娘で、赤い髪と青い瞳をした娘が聞いてくる。

「あの……、名前、教えてもらってもいいですか?」

 ……ふむ。

 ま、二度と会うこともないだろうしな。


「シーファだ。ただのしがないニートだよ」

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