17話 はじめてのごえい③
誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい
「よっ」
掛け声とともに、馬車の外に躍り出る。
同時に飛翔系魔術で自身の身体を宙に浮かせる。
「まずは……」
雇い主に報告だな。
コンコンッ。
馬車のドアをノックする。
流石にお嬢様の載る馬車だけあって、俺たち幌馬車とはちがって高級そうな馬車だ。
「な!な!」
こちらを見てギョッとしている。
とりあえず。
「チャオ♪」
……。
「そうですか……」
「ああ、ちょいと仕掛けてみる。一応侍女二人を置いてくから、困ったら相談してくれ」
「分かりました。……どうかご無事で……」
「……ん」
一言頷くと。
「じゃあな、また後で♪」
バッ。
再び走行中の馬車から、躍り出た。
あい・きゃん・ふらい!
ヒュオオオオッ!
周囲を風が通り抜けていく。
現在は上空一キロ程のところを浮かんでいる。
……。
「さて、と……。……トレース」
周囲に探査魔術の網を広げる。
昨日の感じた気配を頼り探してみる。
……どれどれ。
……。
……。
お、発見!
ルナ大公国よりの渓谷に砦があった。
中に居る人数は……五十人程か……。
「百聞は一見にしかず。とりあえずは行くか」
影の異空間から魔王の宝剣『ニーズヘッグ』を引き抜いた。
ザンッ。
砦の見張り台にいた人間を、一太刀で切り殺す。
ばれるとめんどくさいので、幻術と封音結界で周囲からは普段どおりに見えているはずだ。
「しかし……、ただの山賊とは思えんな……」
ここに進入する際、侵入者対策の結界が張ってあった。
それに、砦を上から見ると、統制も取れているし、見張りもきちんと仕事をしていた。
どうにも……。
……。
「……ふむ」
……。
死体を簡単に修復すると、操作系の魔術で死体を独立行動できるようにする。
これで、この死体は文字通り、完全に破壊されるまでは俺の望むとおりに動くはずだ。
「……よし。やれ」
ドォンッ!
爆音が轟く。
操った死体の中に、簡単な魔術を仕込んでおいた。
今のあの死体は、完全に壊されるまで戦い続け、なおかつ魔術まで使用する、悪夢のような存在に成り果てている。
……。
「死体の操作は、俺の専門外なんだがな……」
思わず、苦笑がもれる。
……ミレイには絶対に見せられない術だな。
ザンッ。
出会いがしらに、山賊を切り捨てる。
一応、この砦内部の構造は簡単に調査してあるし、どこらへんにどれくらいの人間が居るのかも調査してある。
そして。
ザンッ。
再び山賊を切り捨てる。
山賊の頭っぽい奴の居場所も、調べておいた。
……探査魔術万歳♪
ダンッ。
扉を蹴破る。
と。
ヒュォッ!
「……チッ」
ギャリンッ。
飛んできた風の刃をニーズヘッグで切り払う。
「……お前が頭か……」
……。
部屋の中には、中年の男女が一組に、手下らしい山賊が七人、山賊の頭らしいが体格のいい男が一人いた。
杖を構えた中年の女が例の魔術師だろう。
そして、商人のようなゆったりとした服を着た中年の男が例の参謀だろう。
「一人で、ここまで来るとはたいしたやつじゃねぇか!覚悟は出来てんだろうな!」
山賊の頭が大きなだみ声で叫ぶ。
が。
「そんなもん知らん」
ザザンッ。
一足飛びで、間合いに入り込むと、一太刀で山賊の手下二人を両断する。
次!
ズバンッ。
ニーズヘッグを振りぬき、その剣圧で手下の一人を叩き潰す。
ここまでで僅か、一秒たらず。
「……ふん」
――展開、射出。
ズドドドドドドドドドドドドドドンッ。
宙に生み出した多数の氷の弾丸で、残りの四人をひき肉状態にした。
「て、てめぇ……」
頭や参謀の男の顔が引きつっている。
「……」
と、今まで大人しかった魔術師がいきなり杖を振りかぶり。
「~~。フレア・ドライブ」
今まで、小声で呪文の詠唱を行っていたようだ。
莫大な熱量が集中する。
だが。
「……遅い」
――展開、固定。
リィンッ。
鈴のような音ともに小規模な虹色の結界が包み込む、……真紅の炎ごと、魔術師を。
ドォンッ。
結界内部で、炎が結界の壁にぶつかり爆発する、……魔術師を巻き込んで。
……。
炎が晴れると、上半身が消し飛んだ魔術師の死体が顕になる。
「残りは二人……」
参謀の男の顔が醜く歪んだかと思うと、喚く。
「貴様ぁ!殺す、殺してやる!」
……。
「……今まで、お前らが殺してきた人間は皆そう思っているよ。……今まで散々暴れたんだ。そろそろ年貢の納め時、……抵抗しないなら楽に殺してやる」
と。
「うらぁ!」
頭がいきなり、参謀の男を俺のほうに突き飛ばしてきた。
!
「チッ」
ザンッ。
参謀の男を一刀両断する。
しかし。
「あばよ、おれは逃げさせてもらうぜ!」
いつの間にか頭が窓から飛び降りていた。
「……貴様は今回の騒動の発端だ、逃がさん」
と。
ゴゴゴゴゴッ。
いきなり砦全体が揺れ始める。
……なんだ。
再度、探査魔術を実行する。
今度は広範囲・高密度にわたって調べる。
!
なんと、砦が崩れ始めていたのだ。
先ほどの頭の仕業だろう。
「くそっ」
探査魔術で調べた結果、この砦の地下には今まで攫われてきた女性が多数囚われている。
このままでは、全員生き埋めだろ。
本来なら見捨てたって問題ないはずだ。
……。
しかし、……なぜかそんな気分にはなれなかった。
……。
急いで参謀の男の死体に触れると、その魂の残滓から記憶・知識を強引に引き抜く。
……よし!
意識を集中する。
失敗は許されない。
今回の崩壊の原因は、砦を支えている支柱を抜かれたためだ。
参謀の男の記憶によれば、この崩壊は相手を巻き込んで自滅する最終手段で、参謀の男自身が一応の保険として仕掛けたらしい。
「めんどくさいことを!」
だが、文句は後だ。
「捕捉、捕捉、捕捉」
探査魔術を走らせ、砦の抜かれた支柱、崩壊が始まっている場所を捕捉していく。
「……」
次に捕捉した場所に効果が現れるよう、魔術式を調整していく。
早く早く、されど一つのミスも許されない。
何度も結果をシュミレートし、微調整を繰り返していく。
「握!」
魔術式を完成させた。
並みの魔術師が同じような作業をしたら、それこそ一年以上はかかる。
それを僅か二秒程度で終了させる。
魔王・ルシファー。
それはかつて、魔界の頂点に絶大な力と共に君臨した者。
そして、その力の一端が現される。
「……よし。白の息吹よ、晶の祝福を!」
パリーンッ!
ギシィィッ!
最初の音は砦内の補足した場所が凍りついた音。
次は、砦の崩壊が止まった音である。
「……とりあえずは、セーフだな」
深呼吸一つして、額を拭った。
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