16話 はじめてのごえい②
誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい
「認識できるだけで八十、ずいぶんと手荒い歓迎だこと……」
思わず呟く。
「しかし、山賊のようなならず者の集団をこのレベルで統率しているのですから、たいした物ですね」
とは、スターシャだ。
監視するような視線自体は飯時から感じていた。
しかし、もっと早く襲ってくるかと思ったのだが……。
だが、襲ってこなかった。それどころか尻尾をださずにこちらの様子を逐次観察していたのだ。
スターシャの言うとおり、よほど統率が取れていなければ不可能だ。
「エル、傭兵達に警告を促してきてくれ、スターシャは迎撃の準備。俺はミレイを連れてリーナたちのところに行ってくる」
「「御意」」
「ちょいと、いいかな」
「リーナ様はもうお休みになられましたよ」
「いんや、リーナはそのままでいい。一応注意を促しに来ただけだ」
「え?」
馬車の近くにいたイネスさんが首を傾げる。
「近くに山賊の集団がいる、それを知らせに来た」
「な!」
「エルが傭兵たちに教えに行ったし、スターシャは既に迎撃の準備に入っている。貴方たちはこの子と一緒に馬車の中に隠れていて下さいな」
そう言って、眠りこけているミレイを任せる。
「だ、大丈夫でしょうか?」
「問題ありませんよ、一応保険もかけてありますから」
足元のアポロンが、アウッ!と可愛らしく鳴く。
「この子犬は?」
「秘密だ♪」
ゴウッ!
エルがティアード達を伴って戻ってきたときだ。
遠くからいきなり巨大な火球が飛来した。
「おいおい……」
ぼやきながら仕事を全うすべく結界を展開する。
――展開、固定。
リィンッ。
鈴が鳴るような音ともに虹色に輝く結界が俺たちを包み込む。
「四大属性の複合結界!しかも無詠唱!」
ティアードの仲間の魔術師が驚愕の声を上げる。
ドォンッ!
結界にぶつかった火球は爆発を起こした。
「あー……、先手を取られたね、どうも……」
と、俺のぼやきに反応するかのように言葉が返ってくる。
「ならば、取り返せばいいのです」
スターシャだ。
「天空の星々よ」
右手の掌を天に掲げる。
ドドドドドドドンッ!
上空から多数のレーザー光が降り注ぐ。
「天属性!古代魔術!」
驚愕のうめき声がそこかしこから上がる。
……。
……気配が消遠ざかっていく。
「スターシャ……」
「ええ、どうやら逃げたようですね」
「最初のファイヤーボールは様子見か……、何人ぐらい仕留めた?」
「おそらく、五十人ぐらいは仕留めたと思いますが……」
「おいおい、容赦ないな……」
くすりと微笑む。
「我が主に敵対する者には容赦ありませんよ、私は」
「頼もしい限りだな」
こちらも思わず苦笑する。
……。
森があったはずの周囲は、スターシャの魔術で焦土になっていた。
やれやれ、と。
「これは?」
後から声がかかった。
「起きたのか?リーナ」
「はい、大きな音が響いたもので……、しかし、これは一体……」
周囲の惨状を見てうめき声を上げる。
「あー……、俺の侍女の仕業だ。森ごと山賊をなぎ払ったらしい」
リーナの様子に苦笑しながら答える。
「!」
ルナ大公国の大公息女は絶句してしまった。
夜が明けて、朝である。
昨日襲撃があったが、俺とスターシャのおかげで被害は皆無だ。
……。
「だが、少し警戒が必要かもしれないな……」
食卓でリーナに声をかける。
「一応注意しておいてくれ」
「わかりました」
リーナも神妙な顔で頷いてくれる。
「でも、シーファ様が護ってくれるのでしょう」
「……まぁ」
「信じていますよ」
リーナの浮かべている信頼の微笑がなんとも言えずに、気まずい。
そもそも、悪魔が人を守るなど常識外れもいいところだ。
居心地が悪い。
「……アーベルまでは」
馬車の幌の中から流れる風景を眺める。
つい二時間前、朝食が終わって馬車で移動を始めた頃は森だった。
しかし、今はどんどんと岩肌が多くなってきた。
「ご主人様」
「ん?」
エルが話しかけてきた。
馬車はサロアの雇った御者が動かしているため四人とも中にいるのだ。
「このまま、アーベルまで何事もなく行くと思いますか?」
「無理だろうな」
即答する。
昨日の夜の感じから考えると、このままでは、もう一度などといわず、もう何度か戦うことになるかもしれない。
「事前の情報では、高位の魔術師と頭の切れる参謀がいるはずだ。なら、まだ何かあるだろうな」
「「……」」
「もし、俺が敵なら、真っ先に俺たちを潰す」
断言する。
「悪いが昨日の動きから見てティアード達だけでは厳しいだろう、というより無理だ。ティアードとその仲間も弱くはないが、……相手が悪い。多勢に無勢、その上地理も向こうのほうが把握しているだろうしな……。ここから先は確か……」
地図を広げる。
「渓谷と山道、奇襲する機会には事欠きませんね」
スターシャが苦い顔で呟く。
……。
……ふむ。
「エル、スターシャ」
二人に声をかける。
「「はい」」
「二人とも、ミレイとリーナ達を頼む、俺はちょいと出かけてくるぜ」
ニヤリと笑う。
「……………………まさか、ご主人様」
エルが呻く。
流石に付き合いが長いだけはある。
俺の考えを正確に読み取ったのだろう。
「私が行きます。ご主人様のお手を煩わせるには及びません」
「いったい何を?」
前者はエル、後者はスターシャだ。
エルがスターシャに渋い顔で説明する。
「おそらく……、ご主人様は単身で山賊の根城に奇襲を仕掛けるお積もりでしょう」
正解。
こういう盗賊のような輩は、攻撃することになれていても攻撃を受けることには不慣れだ、おそらく上手くいくだろう。
スターシャが絶句する。
「まぁ、そういう事だ」
と。
「ご主人様、私かスターシャが行きます。ご主人様のお手を煩わせるほどではありません。私達におまかせ下さい」
「そうです、我が主。ここは私かエル様が……」
と二人して進言してくる。
だが。
「いや、俺が行くよ。俺が頼まれたんだ……」
脳裏には先程の信頼の笑みが浮かぶ。
――シーファ様が護ってくれるのでしょう。
……。
この気持ち……そう、この気持ちを表すなら……。
――信義。
かつて病に伏したスターシャと涙を流すミレイに感じた、仁愛の心。
それと似て非なる感情。
信義の心。
悪魔が持つはずのない感情。
魔王とは対極に位置するはずの感情。
……でも、いいと思うんだ。
……この広い世界に、俺のような悪魔が一人ぐらい居ても。
確かに俺はニートだ。
働くなんてもっての他。
けれど、……今回は例外。
「俺は行くよ……。俺の中に生まれたこの感情を、守ってみたいんだ……」
……。
「ご主人様」
「我が主」
……。
契約で俺と繋がっている二人だ、何か感じたのだろう。
二人して姿勢を整えると、一礼する。
「わかりました。ここは私たちが死守致しましょう……」
「仰せのままに、我が主。ご武運を……」
……本当にいい女達だ、俺には勿体ない程の。
二人を両手で抱き寄せ、強く強く抱擁する。
「ああ、行ってくる」
二人とも顔が真っ赤になる。
「「あう///」」
「じゃあ、行ってくるぜ」
「「はい」」
目を丸くして見ていたミレイの頭を一撫ですると、立ち上がる。
「シーファ様?」
「ちょいと、お出かで♪アポロンでも撫でて待っててくれや。いい子にしてたらお土産でも持ってきてやるぜ♪」
優しく笑いかけ。
「よっ!」
走行中の馬車の外に躍り出た。
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