13話 あれ?俺って……
誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい
「そうか……」
おもわずため息が出そうになる。
スターシャが戻ってきて程なくしてエルも戻ってきた。
二人の報告を聞いて、思わず一言つぶやく。
どうにも今回の騒動の発端は、クォーツの町と隣国ルナ大公国領内の町との交易路に山賊が出現したことが原因らしい。
国境付近に出没するため、正規の騎士団の対応が遅れており、そこを通る商人が金を出し合って大規模な傭兵団を雇ったのだが失敗に終わったそうだ。
山賊の仲間内に強力な魔術師と軍団指揮に優れた参謀がいるらしく、雇った傭兵団は僅か三日で壊滅しらしい。
困り果てていたところ、傭兵ギルドに単体でロック・ドラゴンを討った傭兵がいると聞き、俺のとこに来た、というのが事の真相だ。
「……ミレイを攫おうとは、随分思い切った行動だな。サロアとかいう男がよほど手段を選ばない男だったか。もしくは、それほど余裕がないか……。まぁ、俺には関係ない話だがな」
ズズズッ。
紅茶を啜る。
……ほう。
と。
「ご主人様、どうします」
エルだ。
「ふむ……。俺らは自分で身を守れるから問題ないが、ミレイは問題だな。しばらは一人で行動させないほうがいいだろうな」
「分かりました、敷地内を出るときは目を離さないようにしましょう」
「ああ。しかし、……もう一波乱ありそうだな……」
……。
俺の言葉すぐに現実になった。
「俺に殺人容疑……、ね」
薄暗い詰め所の床に寝そべりながら、思わず苦笑する。
……。
事は夕食の準備をしていたときだ。
……。
リンゴーン。
呼び鈴がなる、たまたまおきていた俺が応対することになったのだが。
ドアを開けて早々に。
「シーファ様ですね、現在あなたに殺人容疑がかかっています。大人しく我々と同行してください。くれぐれも抵抗はなさらないように」
ドアを強引に開かれ、町の警備隊に囲まれる。
「なんのつもりだ?」
「できれば大人しくついてきてください」
……おいおい。
「……一応言っとくが、俺は殺しなどやっていないぞ」
「それを判断するのは、我々ではありません。しかし、今のところ貴方の疑いが濃厚なので、詰め所まで同行してください」
にべもない……。
「なんの根拠を持って、犯人が俺だと?」
「答える義務はありません」
「……どこで、だれが死んだ?」
「……答える義務はありません」
「…………………………………………………………なるほど」
「ご同行を」
「……」
……はぁ。
ため息を一つ、念話で侍女二人に連絡を入れる。
(ちょっとめんどうなことになった。どうやら俺が人を殺したことになってるっぽい。今から詰め所に連行されるわ……。まぁ、今晩は夕飯は一緒に食えない。ミレイに謝っておいてくれ)
そのまま、強引に馬車に引きづられて行き、気づいたら牢の中だ。
……やれやれ、どうにも、前者だったぽいね、サロアってお方は。
それから二時間くらいたっただろうか。
コツッ、コツッという石畳を叩くような音が聞こえてくる。
……来たか。
やがて、壮年の男性が顔を見せた。
「初めまして、私はこの町の町長をやっているサロア・イーザだ。商業ギルドのギルド長もやっているよ」
「……」
「……ふむ」
「……」
「随分と嫌われたかな」
「……」
「……」
「……で?」
「ほう、で、とは?」
「あ、そう」
有利に交渉を進めようとする紳士にそっけなく答え、開けていた目を閉じた。
……。
寝転がっている俺と壮年の紳士の間でしばらく時間が流れる。
「……君に依頼をしたい」
先に痺れを切らしたのはサロアの方だった。
「実は、最近……」
「知っているよ、この町とルナ大公国の間に山賊が出没してんだろ」
「っ!き、きみ、は…………」
「情報は命だぜ、商人さん♪」
「……」
「……」
再び時間が流れる。
「依頼を受けて欲しい、報酬は用意する。もちろん容疑を晴らした上でここからも出そう」
「…………断った時は」
「一生この中だ」
「……随分とまぁ、汚いことをする」
「清廉潔白などとは言うまいよ。目的のためなら手段は選ばない、違うかい?」
お互いに顔に笑みをうかべる。
尤も俺は冷笑、サロアは苦笑だが。
「ロック・ドラゴンを単身で倒せるほどだ、それなりの実力の持ち主とお見受けする。それに私のお抱えの傭兵を全滅させたのは君のところの侍女だという話だ……」
……スターシャのことか?
「一つ頼めないか?」
「嫌だね、めんどくさい。俺はニートだ、働くなんて絶対にしたくないな」
「…………ここから出られなくてもか」
やれやれ、まだそんな事を言っているのか……。
ゴウッ!
目の前にそれぞれ色が違う四つの光球が出現する。
赤、青、緑、黄。
それぞれが炎、水、風、地の属性を帯びた魔力球だ。
魔術師でもない人間に視認可能な程の魔力密度である。
「な!」
サロアの顔が真っ青になる。
「一発一発がこの町を消し飛ばしてなお、釣りが来るほどの威力がある。俺がここで待っていたのは、俺をはめた人間に挨拶するため。こんな牢、出ようと思えばいくらでも出られたんだけどな」
「……」
口をパクパクとさせて固まってしまった。
「立場を理解するべきだったな。お前の目には俺は囚われの無力な傭兵に映っただろうが、俺の目に映ったあんたはただの力ない人間だよ」
つまらん。
俺はこんな人間に、ニート生活を邪魔されたのか……。
会話こそ冷静だが、心の底は激怒一色だ。
「じゃあな、死ねよ」
「待ってください!」
俺が魔力球を撃ち出す直前で、若い女性の声が割り込んだ。
「んー?」
目を開けると……。
そこにはワンピースを着た年若い女性が息を切らしていた。
「誰だ?」
「私は……」
「お嬢様!なぜ、こんなところに!」
「えと、信じられないほどの魔力の反応を感知したので、いそいで来たんです」
「しかし、こんなところに……」
ギシッ。
信じられないほどの威圧感に空間が軋む。
「……おい、質問をしたのは俺だ、答えろ♪」
二人そろって青い顔をする。
「それとも二人揃って死んでみるか?」
……。
「なるほどな」
OK、把握。
「つまりは、そこのお嬢さんがお隣のルナ大公国のお偉いさんの娘で、本来ならとっくに帰っているのに、山賊のおかげで帰れない、と」
「ああ、そのとおりだ……」
「すみません……」
「で、そろそろ本当にまずくなったので、少々強引な手段に出た、と」
……。
あれ?
「……俺って、完全に被害者だよね?」
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