12話 事の発端は
誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい
俺――シーファの朝は遅い、いつも太陽が降り始めた時間ぐらいに起きる。
しかし最近は、朝の九時ぐらいに強制起床させられる。
誰にって?
HAHAHA、決まってるじゃないか。
「シーファ様!起きてくださいよ」
ドーンッ!
「ゲフゥッ!」
いくら十歳児の小柄な体といえど、寝てるところにフライング・ボティプレスを叩き込まれれば、……死ねる!
……。
頭の中に、新聞の見出しが……。
――魔王・ルシファーをしとめたのはなんと十歳児!!
……。
いやいや、まだ死ねないから!
「早く、朝ごはんに行きましょうよ♪」
「俺は、まだ眠いっす……」
「行きましょうよ!シーファ様と一緒に朝ごはん食べたいです!」
「おにーさんは、後十年は寝たい……」
「シーファ様、ダメですか……?」
「……zzzZZZ」
……。
「シーファ様、シーファ様、シーファ様、シーファ様!」
ガクガクガクッ。
「や、ヤメレェェェェェェェェェッ!」
……。
朝の食卓である。
「ひどい目にあった……」
「――♪」
隣の席ではミレイが上機嫌で座っている。
と。
「大丈夫ですか?なんか、絶叫が聞こえましたが……」
俺のカップに茶を注ぎながら尋ねてくるのは白髪紅眼の美女、スターシャだ。
俺に忠誠を誓った魔導騎士兼侍女である。
本来は娘のミレイ同様に金髪碧眼だったらしいのだが、不治の病・白病に侵された結果、全身が真紅の瞳を除いて雪のように白くなってしまったらしい。
……ちなみに白病自体は俺が完治させてみた。
「あー、スターシャよ。娘の教育はもうちっとしっかりとして欲しくてだな……」
「……まさか、今朝もですか?」
思わず、苦笑が浮かぶ。
俺の表情で全てを察したのか。
「すいません。後で注意しておきます……」
「頼む」
「ご主人様が毎朝起きてくれるのですから、いいのでは?」
と、今度は厨房から出てきた銀髪碧眼の美女が言う。
「私としては、この時間に起きていただけると毎朝助かるのですが」
エルだ。魔界時代からの奴隷である。
「手厳しいな、でも俺としては昼ぐらいまで寝ていたいぜ」
「シーファ様!」
「ん?」
「早起きは三文の徳ですよ!」
「……聡いな、この十歳児」
……。
朝食の後。
エルとスターシャは侍女としての仕事が大量にあるため、屋敷の中を動き回っている。
元々、屋敷が大きいため二人は忙しいのだ。
特に、スターシャの方は侍女としてはまだまだなので余計に時間がかかる。
ミレイは母親の言いつけどおり自主勉強の最中。
……。
ちなみに俺はソファーで惰眠を貪っていたりする……。
と、呼び鈴がなった。
リンゴーン。
……。
「ご主人様」
「……zzzZZZ」
「……ご主人様」
「……zzzZZZ」
「…………ご主人様」
……。
ガシッ、ギリギリギリギリッ!バキィッ!
「ほわああああああああああっ!」
頭が、頭があ!
「おおおおおおおおおお!」
……。
とりあえず、スターシャに頭に包帯を巻いてもらいながら自己再生を実行した。
「とりあえず、……お客さんは俺に用事があると?」
「はい、」
「りょーかい、ったく。もうっちょっとましな起こし方はなかったのかよ……」
「仏の顔も三度まででございます(ニコッ)」
「……」
「♪(ニコッ)」
とりあえず、スターシャにしがみついて泣いてみた。
……シクシクッ。
「始めまして、シーファ様。私の名前はルークと申します、この度はサロア様の使いで参りました」
……ふむ。
サロアというのは確かこの町の町長の名であり、同時に商業ギルドの長の名前であったはずだ。
「とりあえず、前置きはいい。なんのようだ?」
ろくでもないことしか起こらなさそうな予感しかしない。
「はい。実はこのたび、シーファ様の実力を見込んで、一つ依頼をしたいのです」
……。
「実は、最近……」
「断る、帰れ」
「……まだ、何も言っていないのですが」
「知るか、そんなこと。そんな物は傭兵ギルドを通じて、他の傭兵に頼め。俺を巻き込むな」
「……しかし」
「とりあえず、帰れ」
僅かに、圧力をかける。
とたん老人の顔から汗が滝のように噴出した。
「俺は他人の指図に従うのが死ぬほど嫌いだ、それが面倒ごとならなおさらだ」
俺の圧力を受けてか、それとも別の理由からか、老人がうめき声を上げる。
「……。エル、お客様のお帰りだ」
「お待ちください、報酬は約束します。どうかお話しを……」
ギシッ。
空間が軋み、悲鳴を上げる。
「帰れ♪」
ルークと名乗る老人が肩を落とし、陰鬱な雰囲気で退散していった。
たく、面倒ごとになったものだ……。
「ご主人様……」
「ご主人様……」
エルとスターシャが声をかけてくる。
「……おそらく、俺がロック・ドラゴンをしとめたのを誰かから聞いたのだろう」
本当に面倒なことになったものだ。
「これからどうしますか?」
エルだ。
「別にどうにもしないさ……、これ以上の面倒ごとがあるならこの町を出るだけだ。俺は静かな暮らしが送れれば、どこで暮らそうと構わないしな……」
……。
「エル、一応、サロアとかいうやつが何を考えているか調べてみてくれないか?」
「御意」
一言で応じると、そのまま部屋を出て行ってた。
「スターシャ、茶を一杯頼む」
「分かりました」
そう言って、スターシャも厨房へ向かう。
「……ふう、面倒ごとは嫌だなぁ」
「どうぞ」
「おう、サンクス」
紅茶を受け取ると、ミルク落として静かに啜る。
……ふう、やはり甘い物はいい。
と。
!
……。
「面倒ごとの予感は外れず、か」
やれやれ……。
「スターシャ」
「御意、我が主」
それだけ、言うと部屋を出て行った。
―――アナスタシア・フォン・バレッタリート―――
……気配は全部で七人。
戦士の物が四人、同業の物が二人、神官らしき物が一人。
……先手必勝ですね。
全身に魔力を通し、体を『強化』する。
ダンッ!
入り口を出て、一足飛びで屋敷の塀を飛び越える。
そのまま、空中で反転しながら。
「七つの星よ、在れ」
――補足、射出。
ボボボボボボボッ!
七つの光の塊が、それぞれの気配に向かって進撃していく。
「くそが!」
「うわあああああ!」
「魔術師!」
「キャアアッ!」
という、複数の声が聞こえる。
トンッ。
地面に降り立つと、一番強そうな気配がする相手に向かって駆ける。
ゴウッ!バチチッ!
右手に炎の剣、左手に雷の剣を作り出すと。
「シッ」
左右から連撃を繰り出す。
タイミング差と時間差の攻撃。
アナスタシア・フォン・バレッタリートは元・帝国・近衛魔導騎士団・大隊長だ。
つまり、魔術師としては間違いなく人類最強である。
さらに言うなら魔道騎士を任じるだけあって剣の腕前も人並み外れている。
それに加え、先日の契約で身体能力と魔力の桁が跳ね上がっているため、文字通り無双状態である。
炎の剣で相手の剣ごと腕を焼き尽くすと、返す雷の剣で相手を切り捨てる。
雷の刃は、相手の体に食い込んだ瞬間、刀身の内部に封じられている雷撃を解放した。
ガガッ!
全身の筋肉と神経を雷撃で引き裂かれ一瞬のうちに行動不能になる。
「次!」
ドドドンッ!
無詠唱で風の塊を戦士二人と、魔術師に叩き込む。
風の塊を叩き込まれた三人は大きく吹き飛び、そのまま戦闘不能になる。
「最後」
先程の空中での一撃で既に魔術師一人と神官が戦闘不能になっている。
最後は戦士一人である。
左手の雷を解放し、風の短剣を作り出すとそのまま投擲する。
ザシュッ、ザシュッ。
次に、右手の炎剣を振って、相手の武器ごと腕を焼き尽くすと。
ダンッ!
押し倒し、馬乗りになり、戦士の顔の真横に炎剣を突き立てた。
「ひっ、ば、化け物」
「まず、なぜこの屋敷を張っていたか教えていただいても宜しいでしょうか」
ゴウッ。
炎剣の熱量が上昇する。
「このままでは、顔が炭になりますよ」
「ひ、ひぃぃぃぃ、は、話す。話すからやめてくれぇ!」
……。
「つまり、貴方たちはサロア町長に雇われていて、その命令でシーファ様を調べていた、と?」
「は、はいい!そうです!」
「で、今回依頼を断られたため、ミレイを攫って言うことを聞かせようとしたと?」
「はいぃ!」
実際は精神干渉系魔術で目の前の男の記憶は全て読み取ってある。
そのため、この尋問はある意味証拠を確定するための儀式みたいなものだ。
「なるほど……」
念話で主と二、三会話した後、男の上からどくと、炎の剣を解放する。
「遺憾ですが、今回は見逃しましょう。しかし、次はありませんよ」
冷たく一瞥すると、屋敷に向かって歩き出した。
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