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11話 本当の意味で自宅警備員

誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい

 現時刻、夜中の午前零時三十分である。

 俺――ルシファーもといシーファは、屋根の上で管を巻いていた。

 横には、近場のブドウ園から購入したワインの空き瓶が多数。

「ヒックッ、ちくしょう、エルのやつめ……、ヒックッ」

 ……。

 正直に言おう、完全に酔っ払いである(笑)。


 事の原因はいたって簡単である。

 エルが俺の頭部を鷲掴みにして、いい笑顔で一言。

「今晩は不穏な気配がするので、夜間の警備をお願いします(ニコッ)」

 ……。

 屋敷の主人にやらせることじゃないだろう!とか。

 そういうのは侍女である、エルかスターシャがやるべきだ!とか。

 いろいろと、言いたいことはあった。

 しかし。

「ご主人様は、か弱い女性を夜中に働かせるおつもりですか?」

 ……。

 結局はエルのアイアンクローの前に屈した。


「うー、ちくしょう……、ヒックッ」

 思わず、視界が涙でにじむ。

 初めて知ったが、どうにも俺は泣き上戸だったらしい。

 ヒックッ、ヒックッ。

 グスンッ。

「くそー、エルのやつおばえていろよー……」

 屋根の上で横になる。

 一応、屋敷を覆う形で結界を展開しているから、侵入者が近づけば俺が解る。

「おれはー、寝るぞー……」


 そもそも、この屋敷はエルの結界で厳重に覆われているため、一般人は侵入すらできない。

 中に入る方法は、屋敷の正門を正規の手続きで通るしかないのだ。

 まぁ、屋敷の住人たる俺とエル、スターシャ、ミレイはいつでもどこからでも入れるが。

 しかも、今回はさらに俺が結界を重ね張りしているため、主神ですら侵入不可だ。


 ……。

 と、いうわけで。

「ぐーてん・なはと♪」

 ……。

「……zzzZZZ」



 喉に渇きを覚えて目を開ける。

 ……。

 微妙に頭が痛い。

 ……。

 視界には満点の星空とサラサラとした白い糸が映っている。

 ……。

 頭の下に柔らかい感触がある。

 ……。

 鼻腔を甘い香りがくすぐる。

 ……。

 このまま、もっと寝ていたいな……。

 ……。

 そんな事を考えていると頭の上から優しげな声がかかる。


「起きましたか?ご主人様?」

 ん?

「こんなとこで、寝てしまいますと、風邪をひきますよ」

 ……。


 視界に白髪紅眼の女性の顔が映る。

 エルじゃないなー……。

 酔いの取れない頭で状況の把握に努める。

「あー、……スターシャか……」

 ようやく、自らの現状を把握する。

 現在俺は、屋根の上でスターシャに膝枕をされているらしい。

 ちなみに、スターシャというのはギルドでの偽名であると同時に、本人の愛称であるらしい。

 俺の侍女になった時にそう呼んで欲しいとお願いされたので、そう呼んでいる。


「はい。お部屋に運ぼうと思いましたが、気持ちよさそうに寝ていたので……」

「なるほど……、俺の周囲に張られている、結界はスターシャが?」

「はい、気温調節を」

「そうか……」


 会話が続かない。

 尤も、今の俺はアルコールで相当に酔っているし、まともな会話など難しいだろう。

 本来、悪魔は酔わないのだが、今回は無理やり体内にアルコールを押し込んだ。

 その結果、見事に酔いつぶれたのだが……。

 ……酔いつぶれた悪魔なんて、俺が始めてかもなー。

 などと、どうでもいいことを考えていると。


「ご主人様」

「んー」

 唐突にスターシャが話しかけてきた。

「私は、白病に侵されてから、いつ死ぬことになるかと毎夜毎夜怯えていました」

「……」

「ミレイもいましたから……、日々絶望を感じながら生きてきました」

「……」

「ですが、私は助かりました。夜のお怯えから、日々の絶望から解放されました」

「……」

「大切な娘と抱き合うこともできるようになりました」

「……」

「私が心から望み、けれどけして叶うはずのない夢と諦めていた日々が、手に入りました」

「……」

「ご主人様にはどれだけ、感謝してもしきれません……」

「そうか……」

「ご主人様……」

「んー?」

「……………………ご主人様は人間ではありませんよね」


「…………まーね。一応、いつ気づいたと聞いておくべきかい」

 まぁ、スターシャほどの魔術師ならすぐに気づくだろう。

「私の白病を治していただいたときに、「俺には人間の病はきかない」と。それにエルさんもそうですが、この屋敷を覆う結界は人間の業ではありません。特に術に精通している者なら、なおさらそう感じるでしょう」

「そうか……」

「……」

「で、どうする?俺は別に俺たちのことを黙っていてくれるなら屋敷を出て行ってもらっても構わんよ。俺は他人を縛るのも、他人に縛られるのも嫌いだから。まぁ、エルは数少ない例外だけどな」

 けへへへへ、と変な笑い声をだすあたり、俺もまだ大分酔ってるね……。

「いえ、私は出て行きなどしません。ご主人様の手によりすくわれたこの命、ご主人様のために使いたいのです」

「俺は配下なんていらねーぜ」

「……筋金入りですね」

 クスクスと微笑む。

 おう!本当に美人さんだ。

 白髪紅眼が満点の星空に映え、神秘的な風貌だ。


 笑顔をやめ、凛とした顔をしたかと思うと、宣言した。

「我が名はアナスタシア・フォン・バレッタリート。我は貴方に忠誠を誓い、何時いかなるときも忠実な臣であることをここに宣言する。我が身、我が魂、我が誇りは我が主のために。我はこの神聖なる誓いをもって、わが身の全てを捧げることを契約する」

 ……。

 苦笑が浮かぶ。

「なんか騎士の誓いっぽいぜ、それ」

「そうですよ、私は元・騎士ですから」

「今は侍女だがな」

 ふふ、そうですね、と言ってスターシャは微笑した。


 ……。

「しかし、実際のところ配下や部下はいらねーぜ」

「私ではダメですか?」

「……スターシャほどの女傑なら、どこも欲しがるだろうな、けど」

「……けど?」

「俺は、他人の上に立てるような者じゃあない。それは俺自身が一番知っている」

「……」

「他人の上に立つ、ということは下のやつを背負ってやらなければならない。俺は自分がそこまで強いとは思っていない。俺はエルを背負うだけでいっぱいいっぱいだ。これ以上誰かを背負う余裕なんてないよ……」

「ご主人様……」

「んー?」

「それは、傲慢です」

「…………なんだと」

 思わず、横たえていた身を起こす。

 アナスタシア・フォン・バレッタリートと名乗る女性と真正面から向かい合う。

「それは傲慢です。我らは、背負われなければならないほど脆弱ではありません」


 !

 その目に映るは、力強い意志、何者にも負けぬ信念。

「……」

「確かに我らは貴方に背負われることになるでしょう。されど、我らもまた貴方を支えることができるのです……」

「……支える、だと」

「はい」

 俺は、悪魔だ。目の前の女性が嘘を言っていないことは一目で分かった。

 だからこそ……。

「……支える、俺を」

「はい」


 ……。

 スターシャの言葉で、ふと、思い出す。

 魔界で空虚な日々。

「………………」

 だが。

 だが、ラファエルと過ごした日々は確かに色づいていた。

 騒がしくも、激しくも、……けれど確かに、色づいていた

「………………俺は、支えられていたのか……」


 ……。

「ご主人様……」

 スターシャの方を向くと、問いかける。

「俺は人間じゃない、……もしかしたら魔族かもしれない。それでも俺に、……俺に忠誠を誓うのか?」

「はい」

 即答。

 苦笑が浮かぶ。

「例え、ご主人様が神であろうと、魔王であろうと、我が忠誠は違えることはありません」

 ……魔王であろうと、か。

「そうか……、なら」

 ……これも、運命か。

 ははは、今日の俺は随分とロマンチストだ。

 ……本当に。

 ……。

 後になって考えれば俺は完全に酔っ払っていたのだろう、だからこんな言葉も出る。

「なら、俺と契約するか?」


「俺の寿命は人間とは比べ物にならないほど長い、おそらくは不老不死だ。もし俺と共に歩むつもりがあるなら……」

「ええ、契約を」

 全てを言い切る前に返されるとはな……。


「我が名、アナスタシア・フォン・バレッタリートを持って宣誓する。我が魂は汝の物に、我が名は汝の物に、この身朽ちても、我は永久に汝も物である」

 スターシャが詠唱を行う。

 青い光の円が二人を包み込む。

「我が名、ルシファーを持って受諾する。汝が魂は我が物に、汝が名は我が物に、汝の身が朽ちようと、我が身朽ちぬ限り汝の身もまた朽ちぬ」

 俺が詠唱する。

 俺の名を聞いたスターシャの顔が驚愕に彩られた。

 けど、……契約は結ばれる。

 この契約に必要なのは本人の意思。

 スターシャは嫌がってはいない。

 魔王でも……、というのは本心からだったのだろう。

 ……本当に、たいした女だ。

「「我らここに契約の完了を宣言する」」

 カッ!

 屋敷の屋上に青い光が爆発した。

 ……人間は本当に…………強いな。


 ……。

「本当に魔王でしたとは……」

「元だけどな、驚いたかい?」

 今はまた、星空の下、スターシャの膝枕で横になっている。

「わりと驚きましたよ、ふふふ。……ところで私はどうなったのでしょうか?」

 苦笑しながら聞いてくる。

「とりあえず、今の状態から年をとることはなくなったよ。また俺が死なない限り君も死なないな、まぁ、俺依存の不老不死だ。後は副作用として君の身体能力と魔力の桁が 跳ね上がったくらいじゃないか?まぁ、三界を見渡しても今の君に勝てるやつなんて十人といないだろうね」

「そうですか、……でも、ミレイはどうしましょう」

「まぁ、もう少し年をとったら契約するか聞いてみるさ」

「本当ですか!」

「君ら親子ぐらい背負ってやるさ」

「……相変わらず傲慢ですね」

「傲慢でなければ悪魔なんてやってられないさ」

「そうですか。なら私たちは貴方を支えましょう、この身尽きぬ限り」


「そうか……」

「はい……」



 ……。

 ん?

 俺が張った結界に反応があった。

 敷地内に侵入は出来ていないが、塀の外をうろうろしている。

 ……しょうがないな。

 よっ、と立とうとするが、その肩を抑えられる。

「ん?」


「私が行きましょう」

「いや、俺が任されたものだし……」

 すると、申し訳ないような顔をして、今回の原因を説明する。

「実は、今回ご主人様がこんなところで見張りをやっているのは、ミレイが原因なんです」

「ほわっつ!?」

「実は、ミレイがご主人様にお菓子を作るって猛練習をしていまして……、その練習を見られたくなかったのではないかと」

「では、俺がエルに追い出されたのは……」

「多分……」


「はは、はははは、ははははははははっ!なんだ、そういうことか、うむうむ……」

「ご主人様?」

「いや、なんでもないよ。くくく。なら俺はおとなしくここで見張りをしているよ」

 思わず笑いが漏れる。

 だが、エルやミレイに対してなんの怒りも不満もない。

「ならば。スターシャ、我が忠勇なる騎士よ、君に任せていいかい?」

「仰せのままに、我が主」


 バッ。

 スターシャが三階の屋根の上から飛び降りる。

「おお、豪快♪」


 ……。

 ついでに、侍女服のスカートの奥に、白いレースとフリルの聖域が見えたような……。

 眼福じゃ、眼福じゃ♪




 後日談。

「シーファ様、これどうぞ!」

 ミレイが可愛い笑顔で焼き菓子をくれた。

 ……ロリコンに開眼しそうになった。

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