10話 はじめてのくえすと②
誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい
世の中にロック・ドラゴンというモンスターが存在する。
全身が岩のような姿であり、その甲殻の硬度はゼア大陸でも一、二を争うほどである。
動きはそれほど俊敏でもないし、保有魔力もそんなに高くはない。
しかし、それらを補ってあまりあるほどの物理防御と魔力防御を誇る。
さらに、ドラゴンというだけあって力も強い。
討伐には一国の魔導騎士団が全力を費やして、どうにか撃退できるほどである。
ドラゴン種としてはそこまで危険度は高くはないが、とにかく堅くて倒すのがめんどくさいのである。
シーファとミレイは知らないだろうが、ロック・ドラゴンの討伐はランクBに相当する。
でもって、そのロック・ドラゴンが……。
「シーファ様、あのモンスターは何でしょう?」
「いやー、俺の目が悪くなっていなければロック・ドラゴンに見えるねー」
「……」
「……」
「「逃げよう(ましょう)!」」
ドォンッ!
とりあえず、満場一致で逃げ出そうとしたのだが……。
……。
ドォンッ!
……。
「ちょ、ま、ブレスの威力、強すぎ!」
右手に抱えているミレイが轟音で目を回している。
ふにゃ~、とか言っている姿は実にラブリーなのだが……。
ドォンッ!
三度、近場で爆発が起こる。
俺だけなら何発直撃しようとかすり傷一つ付かない。
しかし、ミレイが直撃したなら、まず間違いなく即死だろう。
……。
「スターシャなら直撃食らっても傷一つ付かないんだろうなー……」
思わず呟いたのは秘密DA☆ZE!
キィィィンッ、ドガンッ!
「ぬお!」
直撃を食らってしまった。
直前に魔力防壁を展開して防いだとはいえ、音と光だけはどうしようもない。
「チッ!」
ドガンッ!ドガンッ!ドガンッ!ドガンッ!ドガンッ!
五連続でブレスが防壁に当たる。
「ブレスの威力と連射性から考えると、随分と老成した固体みたいだな……」
ドラゴン種は基本老成すればするほど強くなる。
今回のロック・ドラゴンも例にもれず、相当に老成した固体なのだろう。
「本気を出せば逃げることも簡単だ。だが、この俺にブレスを当てたのだ。許さん!」
ミレイを地面に下ろすと安全地帯を作り出す。
「四大よ、集いて壁となれ」
――展開、固定。
リィンッ。
鈴が鳴るような音ともに虹色に輝く結界が生まれる
よしっ!
「ミレイ、ここから出るなよ」
ミレイがコクコクと頷くのを見て、結界の外に飛び出した。
……随分とでかい。
そう。
俺たちを襲ったロック・ドラゴンは全長が二十メートルぐらいはあるのだ。
ギロリッ。
……こちらに気づいたか。
十分にミレイと離れたことを確認する。
よしっ!
「俺を怒らせたことを後悔させてやるぜ!」
元・魔王なめんなよ!
……。
魔術式を展開する。
使用属性は風。
式は威力より速度と連射性を重視。
……。
一言。
「死ね」
ザシュザシュッシュザシュザシュザシュザシュッ。
ロック・ドラゴンの巨体がバラバラに切り刻まれた。
……。
見る人が見れば驚愕しただろう。
風の魔術は速度と連射性に優れるが、単純な威力は他の属性より低かったりする。
だが、シーファが使用した魔術は異常なほどの威力を誇っていた。
老成したロック・ドラゴンが文字通りバラバラになったのだ。
だが、真に恐るべきはそれを無詠唱で使用したことだ。
人間には永遠に到達不能な領域の業である。
「けけけ、ロック・ドラゴンごときが俺に刃向かううなど千年早い」
バラバラの死骸に近づく。
ふむ、確かロック・ドラゴンは……。
「あーるっかなー?」
……。
「お!あった、あった、これこれ!」
死骸の中から鮮やかな銀色に輝く金属片を見つけ出した。
金属の名を、アダマンダイト。
ロック・ドラゴンは生態上、金属を多く含んだ岩石を食べる。
そして、ある程度老成したロック・ドラゴンは体内にアダマンダイトと呼ばれる希少な金属を精製するのだ。
この金属は最高級品の触媒であると同時に最高クラスの武器素材でもある。
しかし、この希少金属が市場に流通する確率は天文学的に低い。
まず、手に入れるにはロック・ドラゴンを倒さなければならない。
が。
先程も説明したが、ロック・ドラゴンは一国の魔道騎士団が全力を傾けて撃退するのがやっとである。
そのためロック・ドラゴン自体を倒すのが困難なのだ。
次にロック・ドラゴンを倒しても、ある程度老成していて体がでかくなければアダマンダイトが採れないのである。
……。
「儲けた、儲けた。これだけのデカブツならあると思ったが、どんぴしゃだな」
ついでに。
(エル、聞こえるか?)
念話を試みる。
暫くして。
(なんでしょう、ご主人様)
(ああ、ちょっと質問だ。確か、討伐以外でモンスターを退治した場合は、素材となる部分をギルドに持っていけば買い取ってくれるんだよな?)
(はい、そのとおりです)
うむうむ。
(なら、ロック・ドラゴンの買い取ってくれる部位ってわかる?)
(ロック・ドラゴンですか……、少し待っててください)
ギルドで貰った、モンスターの部位買取表があったはずです、といって念話が切れる。
二、三分して、エルから念話が届く。
(ご主人様、とりあえず説明します)
(おう)
(まずは、牙と眼球ですね。これは頭部ごと持って行けばなおよしです。眼球はえぐりだすと鮮度が落ちるからだそうです。後は、甲殻と胃で精製される宝石類や鉱石類が高額買取ですね、骨は買い取ってくれますが、そこそこです。……ああ、後、体内から極稀にとれるアダマンダイトという希少金属が高いですね。これは天文学的値段です。多少でも取れたなら、平民が百年は遊んで暮らせますよ)
(OK、それだけわかれば問題ないぜ!)
(ところでご主人様、いきなりなんでロック・ドラゴンなんですか?)
(えーと、……目の前にバラバラになったロック・ドラゴンの死骸があって、手の中にアダマンダイトがあります。テヘッ♪)
(…………………………………………………………いろいろと過程を飛ばしましたね)
(……まぁ)
(……はぁ。まぁとりあえず、五時には掃除も終わるので帰ってきて下さいよ)
(あいあい)
では後ほど、と念話が切れる。
……。
さ・て・て、頭部に甲殻に胃の中身に骨だったな♪
おほ、おほほほほ、笑いが止まらん♪
「えーと、シーファ様、何をしていたんですか?」
「ん、宝探し♪」
ミレイの頭の上に?マークが乱舞する。
とりあえず、回収したロック・ドラゴンの部位は、影の中に新しく創った異空間にしまっておいた。
「よし、行くか」
ミレイを抱き上げアメジストの詰まった麻袋を背負うと、そのまま空に飛び上がった。
あい・きゃん・ふらい!
「たっだいまー♪」
再び空の旅を終えて、クォーツのギルドである。
ギルドカードを差し出して宣言。
「依頼が終わったぜ」
受付嬢が目を多少白黒させるが、プロ根性を出して応対してくれる。
「では、アメジストの提出を……」
「はいはい、これこれ」
ガラガラガラッ。
ギルドのカウンターの上にアメジストを1キロほど積み上げる。
「少々、お待ちください。今計量しますので……」
……。
「はい、おめでとうございます。依頼達成です。では、こちらが報酬になります」
と、銀貨二十枚を渡してきた。
「お疲れ様でした」
……。
よし、ある意味、本命。
「そうそう、途中で討伐したモンスターの部位も買い取って欲しいんですけど」
「モンスターの部位ですか?わかりました、ではこちらに提出をどうぞ」
……。
その後、ロック・ドラゴンの頭部、甲殻、胃の中にあった宝石類・鉱石類、骨を辺り一帯に積み上げたら受付嬢がフリーズしてしまった。
くくく。
……。
それから、ちょっとしたお祭騒ぎになった。
その場にいた傭兵たちは皆目を丸くしているし、賞賛の眼差しを送るし……。
ギルドの職員は、「あわわわわ、お金が、お金が~」などと騒いでいるし……。
最終的に、傭兵ギルドのギルド長が出てきて、金貨二千枚ほどで全ての部位を買い取ってもらった。
本来なら、もうちょっと高いのだが、ギルドの職員が総出で土下座をして「勘弁してください」というので、少しサービスしてやった。金には困ってないし……。
ちなみに、アダマンダイトは売らずに手元に残しておいた、あって困るもんじゃないし。
帰り際にものすごい数の勧誘を受けたが。
まぁ、とりあえず。
「うっさい、邪魔♪」
と言って、全部断ってやった。
来たとき散々馬鹿にしたくせに、掌返しやがって。
おにーさんは執念深いのだ、けけけけけ。
「そろそろ、日暮れだなー」
ふと、聞いてみる。
「ミレイ今日は楽しかったか?」
ミレイは力いっぱいに返事をしてくれる。
「うん、楽しかったです。それにシーファ様もかっこよかったです」
「そうか、そうか」
自然と微笑む。
今日は良い一日だった。
後日談。
例の宝石店の店主は普通より高めにアメジストを買い取ってくれた。
いい親父だぜ!HAHAHA!