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09話 はじめてのくえすと①

誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい

 バレッタリート親子が住み始めてから数日後の朝。

 エルが唐突に一言。

「ご主人様、出てって下さい」

 ……。

 ほわい!


 ……。

 まぁ、つまり、一度屋敷を大掃除するからその間屋敷を出ていて欲しい、ということらしい。

 まぁ、そんな感じで、本日の俺はミレイと二人で町を巡ることになった。

 ちなみにアナスタシアはエルの指導の下、目下侍女修行の最中である。

「が、頑張ります!」

 とは本人の談だ。



 今はミレイを肩車しながら町の大通りを闊歩中である。

 周りの人々が微笑ましい顔で見ているのがなんともあれだな……。


「シーファ様、あれ食べてみたいです!」

 元気いっぱいの声が、俺の頭の上から聞こえる。

 指し示したのは砂糖をまぶした焼き菓子だ。

「えー、さっき氷菓子を食べたばかりじゃないか……」

 ……子供の面倒は疲れるっす。

「甘い物は別腹なんです!」

「さっきも、甘い物だから!」

 思わず、十歳児に突っ込みを入れてしまった。


 ……。

「シーファ様、後でエル様とお母さんにお土産を買って行きたいんですが」

「おう、いいんじゃないか。エルも甘い物は好きだからな……」

「はい!女の人はいつだって甘い物は好きなんです!」

「これが、十歳児発言とは……」

「えへへへ」

「…………将来太るぜ(すんごい小声で)」


 ガプッ。

「ぎゃああああああああああああっ!」

 噛み付かれてしまった。

 小さくても乙女ということなんだろう。

 ……シクシクッ。


 ついでに町の中も案内してもらったりした。

 流石に生まれたときから住んでいたからか、中々堂に入った案内だった。

 八百屋や総菜屋、医者や神殿、各ギルドの場所等。

 中々勉強になるな……。

 この町で長く過ごすなら覚えておいて損はない。


「ミレイ、この町で一番偉いやつは誰だ?」

「ええと……。サロア町長さんじゃないかと思います」

「サロア?」

「はい、この町の商業ギルドのギルド長さんです」

「ほへぇー」

「シーファ様とは反対の町外れに住んでいるはずですよ」

 ……ふーん。

 後で見に行ってみるか……。


 そろそろ昼頃かな。

 などと考えていると。

「シーファ様って傭兵なんですよね?」

「んあ?あー、まぁ、一応な」

 まぁ、身分証がわりみたいな物だが。

 と、付け加える。

「シーファ様。私、傭兵ギルドに行ってみたいです!」

「え゛!」


 どうにも、アナスタシアも昔は傭兵ギルドで活躍していたっぽい。

 その話しを聞いて一度は傭兵ギルドに行ってみたかった、とのことらしい。

 ……やれやれ。



 ギルドの扉をくぐる。

 ……。

 なんというか……。

 やはり、子連れで傭兵ギルドに来るのはいかんな。

 ……。

 めっちゃ睨まれとるし!


 ……。

 まぁ、せっかく来たんだし、とりあえず案内もかねて掲示板だけでも見せとくか。


「ここで、依頼を決めて受ける、らしい」

「シーファ様は依頼を受けたことないんですか?」

「まぁ、俺はニートなので。ぶっちゃけ働いたら負けかなって……」

「はあ……」

「もし受けることがあっても、エルかアナスタシアに押し付け……っんん!任せるさ」

「今、押し付けるって……」

「気のせいっす♪」


 まぁ、せっかく来たんだし目ぐらい通しておくか。

 どれどれ、俺のランクで受けられるのは……。

 と、いきなり後から。

「ここはガキが来る場所じゃねぇ、けえんな」

「ん?」

 振り向くとゴリラのような風貌の傭兵がいた。


「ここは、託児所じゃねえ、俺たち傭兵が命を懸ける場所だ。子供を連れてくるなんて、俺たちを馬鹿にしているのか!」

「……」

 正直、うざい。

 俺はこの手のやつは死ぬほど嫌いだ。

 エルの忠告がなければ殺していただろう。

 ……。

「おい!なんか言ったらどうなんだ!ガキが!」

 グイッ。

 チッ、俺の胸倉を掴んできやがった。

「おい、てめぇ、すましてんじゃねぇよ!」

 まわりの傭兵の人たちも概ねこのゴリラに賛成なようで、俺を睨みつけている。

 中には「そうだ、帰れ」と野次を飛ばしてくる人達もいる。

「し、シーファ様……」

 ミレイが不安そうな声を出す。


 ……ふう。

 しょうがない、穏便にすますか。

 これ以上、ミレイを怖がらせるのも悪いしな。

 将来の紫の上のために♪。

 ……。


 ギシッ。


 空間が軋む。

 周囲に莫大な殺気と威圧感が解放される。

 今まで、叫んでいた傭兵や、俺のことを睨みつけていた傭兵達が一瞬で沈黙した。

 ……。

 腐っていようと、ニートになっていようと俺は元・魔王。

 全魔族の頂点にして、神々に刃を向ける者。

 悪いが、そもそも人間ごときとは次元が違う。


 ゴリラが俺の胸倉から手を離すと、よろめきながら後ずさる。

「お、おめぇ……、な、なにもん、だ」

 へぇ、この空間で俺に問いかけをするのか、たいしたものだ。

 殺気を束ねてぶつけてみた。

 フラッ、バタンッ!

 ゴリラが気を失って倒れる。

 ……ギリギリで耐えてたみたいだな、つまらん。

 よく見ると受付嬢や傭兵の何人かは既に気を失っている。

 中には呼吸困難で倒れている人間も多数。

 まぁ、気の弱い人間では俺の放つ威圧感に耐えられないだろう。

 気を失っていない傭兵たちも、完全に沈黙しているし。


 まぁ、とりあえず。

「文句があるなら、来い。傭兵流に実力で応じてやるよ」

 まわりの気を失ってない人間どもに言う。

「そこのお前。そうだ、お前だ」

 先程、帰れ帰れと野次を飛ばしていた傭兵を指名する。

「文句があるなら、相手になるが、どうする?」

 圧力をかけながら、問いかける。

 すると。

 バタンッ、ジョロロロロ~。

 気を失って、失禁してしまった。

「……ふん、雑魚が」


 殺気と威圧感を抑える。

 頭の上で、絶句していたミレイに優しく声をかける。

「ミレイ、怖くなかったか?」

 一応、ミレイには殺気と威圧感を当てていないが。

「う、うん、大丈夫だよ、シーファ様」

「そうか、そうか」

 軽く微笑んだ後、聞いてみる。

「そうだ、ついでだし、なんか依頼でも受けていくか?」

「え、いいの?」

 確かに俺はニートだが、それでも今回ぐらいは記念に受けてもいいだろう。

「おう。俺のランクはFだから、あまり高位の依頼は無理だが……、確かEランクとFランクの依頼だったら受けれるはずだぜ。ミレイが決めてみるか?」

「ほんと!」

 ヒマワリのように、明るい笑顔ではしゃぐ。

「おうよ♪」


「これ、行ってみたいです」

 そう言って、ミレイが選んだのはランクEの採取系依頼だ。

「どれどれ。鉱石採取で、とってくるものはアメジストの原石、報酬は銀貨で二十枚。期限は五日以内。採掘可能な場所は、……ちょいと遠いな」

「だめですか?」

「いや、別にかまわんぜ。この程度だったら。飛行系魔術か空間転移魔術で一瞬だ、行って帰って一時間もかからん。採掘も探査系魔術を使えばどうにでもなるだろうし」

 ザワッ。

 今まで、息を潜めていた傭兵たちが、おれの飛行系魔術と空間転移魔術という言葉に反応する。

 ……そういえば、人間界では伝説級の魔術だったな。

 ……。

 ま、いっかー。


 ビリッ。

 掲示板から依頼書を剥がすと、それをカウンターに持っていく。

「この依頼を……」

 ……。

 受付嬢は床で気を失っていた(笑)。



 ビュオオオッ!

 俺の横を風が通り過ぎていく。

 一応、結界の内側だが、飛んでいる速度が常識外のため、どうしても風が生まれてしまうのだろう。

 ちなみに、自分の翼で飛んでいないのは、悪魔だとばれないためである。


「すごーい。シーファ様凄すぎますよ!」

「もっと早くすることもできるぜー」

「お願いします!」

「あいさー♪」

 そうして、普通なら馬車を使い一日以上はかかる道程を僅か二十分足らずで消化した。


「ここか」

 目の前には切り立った崖と岩山、崖に作られた多数の採掘場がある。

 ふむ、どうするか、闇雲に掘っても見つからないだろうしな。

 ……。

 どれ。

「トレース……」

 探査魔術を実行する。

 見つけるべき対象は、アメジスト。

 ……。

 ほう、割とあるな。

「依頼内容はアメジストを1キロ程度だったな……、存外簡単に終わりそうじゃないか」


 意識を集中する。

 先程の探査魔術で見つけたアメジストを魔力で捕まえる。

「そーれっと」

 魔力で包んだアメジストを岩山や崖から引っこ抜く。

 バキッ、ガコッ、バキンッ!

 岩山や崖から、紫の結晶が次々手元に集まってゆく。

「すごーい」

 横でミレイが目を丸くしている。

「どうやってんですか?」

「おう、まず探査魔術でアメジストの場所を特定、その後、魔力で捕獲して引っこ抜いたんだ。我ながらなんとも力技だぜ」

 かんらかんらと笑う。


 軽く見ても10キロ近くある。

「ずいぶんたくさん集まりましたね♪」

「おう、余剰分は知人の宝石店で引き取ってもらうさ、HAHAHA!」

 初めてクォーツの町に来たときに世話になった宝石店の店主の顔を思い浮かべる。

 くくく。

 また、世話になる☆ZE。


 と。

 持ってきた麻袋にアメジストを詰めて軽量化の魔術をかける。

 さあ帰るぞ!というとき。

 いきなり岩山から。

 GAAAAAAAAAAAAAAAAAA!

 という、咆哮が聞こえてきた。


 とりあえず、呆然と一言。

「……おい」

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