カクゴの形
しばらくして私は入学手続きの書類を書いていた。
「ねぇ、本当にいいの、いや、まあ、ありがたいんだけど。」
「うん、いいの、今までわがまま聞いてもらったから」
何かというと、魔法軍学校には、生徒やその親に一時金として100万セルが支払われることとなっている、私はその一時金の全てをこの家に入れることにしたのだ。
「本当にいいの、いやね、軍学校だから給料も出るし授業料もいらないのだけど、何かといるでしょ、お金は」
「うん、いいの、だいたいの備品は学校が用意してくれるし、最後にお礼したいな、って思って。」
そう、これが自分にできる最後の恩返しだと思うから。
私の復讐が完了したら間違いなく私は殺されるだろう。
その時に私が家族に仕送りをしていた、ということで家族にまで矛先が向くのは避けたい、だからせめて最後の恩返しとして、この一時金は受け取って欲しいのだ。
「そう、分かったわ、じゃあ、ありがたくもらうわね。」
私のその言葉を聞くと、母はそう言ってほほ笑んだ。
「うん、そうして、そしてミュウたちに、美味しいものを食べさせてあげて。」
「そうするわ、ところでミュウを慰めてくれない?アザミが軍に行くって話を聞いてから、ずっと部屋に引きこもっちゃって。」
「わかった。行ってくる。」
私はそう言って、ミュウがいる部屋の前まで行った。
「ミュウ入るよ?」
そう言って、ドアを開けた先に見えたのは、ベッドの上で、涙で顔をクシャクシャにしたミュウだった。
「お姉ちゃんの嘘つき。」
枕に顔をうずめながら寂しげに話す、ミュウは、自分と顔を合わせてくれない。
「あはは、ごめんね~やらなきゃいけないことが見つかったからさ。」
私はミュウの言葉を笑ってごまかす。
「お姉ちゃん、たまには会える?」
ミュウはかすれた声でそう聴いてきた。
それに対して私は
「うん!たまには会えるし月に一度は手紙を書くよ。」
また【噓】をついた。
「本当?」
だが、ミュウはこちらを振り返り、願うようにそう問う。
「うん、本当だよ。」
「ちゃんと手紙書いてね。約束だよ。」
そう言ったミュウの顔には、笑顔が戻っていた。
「うん、約束。」
よくもまあ、自分の妹に向かって平気で嘘を並べられるものだ。
正直言って、泣きそうだった。だが、もう後戻りはできない。進まなくちゃいけないんだ。
「なあ、本当に行くのかよ。」
あれから数日、学校からの帰り道で、今までだんまりだった。ノアルがそう聞いてくる、私とは違ってちゃんと成長している、正直言って羨ましい。
「うん、本当に行くよ。」
「なあ、なぜなんだ、なんで行かなくちゃいけないんだ?」
「それは、この前言った通り…」
「おい、そうゆうことじゃない、おまえなんか隠してるだろ。」
ノアルが私の顔前に迫る勢いで近づいてきた。
「私は…」
「おまえ、母さんにも父さんにも、言ってないことがぜったいあるだろ、じゃなきゃおまえがいきなり軍に行きたいなんて言わないだろうからな、なあ、マジで何を隠しているんだ?」
「何にも、隠してない!」
私は焦って、ノアルを押し除けて走ろうとした。だが
「おい待てよ」
ノアルが私の腕を掴んで引き留める。
「離して!」
「離さない、おまえがちゃんと理由を言うまで。」
ノアルは今まで、見たことが無い真剣な顔で、私の腕を掴む力を強めていった、その力は対格差もあるだろうが、私の力では振り払うことが出来ない。
私は諦めた。
「……わかった、言うよ。」
そして私は話した、私の姉が軍の何者かに殺されたこと、その復讐のために、軍に行くことを。
何故、本当のこと言ってしまったのだろう。
でも、ここで嘘をついたとしても、ノアルはきっと納得しないし……
いや、違う、本当は分かってほしかったんだ。
私の痛みを、辛さを……
「おまえ…それマジで言ってるのか。」
驚いたように言うノアル。
「うん、マジだよ。このことを母さんたちに言う?」
私は覚悟していた、こんなことのために軍に行こうとしているのだ、ノアルがこの事を母や父に言えば父はもちろん、母でさえも、意地でも私を止めようとするだろう。
だが、ノアルは……
「いや、言わないよ。」
私はノアルのこの言葉に驚いた、だってこんな理由で家族が本当は行かなくてもいい軍に行くんだ、普通は意地でも止めるものだと思ったから。
「なんで、なの?」
その言葉が疑問だったので聞いた。
「実はさ、俺も拾い子なんだよね。」
「!!」
知らなかった…今までの4年間そんなことは母からも、ノアル本人からも聞いた事が無い。
「いや、まあ俺は戦争孤児なんだよ。第一次ポーネルン進行って知っているか?」
「今学校で習ってるやつ?」
「そうそれ、その時に親や兄弟を殺された、だからさ、わかるんだよ、その気持ち。俺も軍に入って仇うちでもしたかったさ。だけど、結果はD非魔力保持者さ、これじゃ軍学校には入れるわけが無い、現代の戦争は魔道兵同士の戦いだ。俺は何にもできない。軍の後方部隊にでも入って手伝いとゆう形で復讐しようとも考えたさ、だけどな、それじゃあなんか違う気がしてな。」
「…」
私は、何にも言葉が出なかった。自分よりも苦しんでいた人が、こんなに近くにいたなんて。自分は今まで記憶が消えていたが、ノアルは…
「だからな、これは俺の勝手な思いだが、アザミ俺の分も復讐……してきてくれ。」
この約束はものすごく身勝手なものだろう。だって復讐の約束だ、普通は受けないだが、私は……
「わかった。約束するよ。」
そう約束した、なぜかはわからないだが、なんでだろう。
こころが晴れていく感じがする。
「ありがとうな、アザミ。」
ノアルはそう言って、少し笑みを浮かべていた。
「私も頼み事していい?」
「なんだ、言ってみろ。」
「ミュウのことよろしく頼める?」
「どうゆうこと?」
「私は軍に入ったら家族と全ての連絡を断つ、だけど、あの子に、嘘を付いちゃったの。だからさ、ノアル、私が何年か分の手紙を書く、これを月に一度ポストに入れといて欲しいの。」
「……わかった、やっとくよ。」
答えるまでに少し間があったが、そう約束してくれた。
「ありがとう。」
私はそう言って笑った。あのことを思い出してから、初めて素直に笑えた気がした。
今後の作品作りの参考にしたいので、感想やここがダメとかいう批評文などを、送ってくれるとありがたいです。