灰色の男
しとしとと絶え間なく落ちてくる雨の雫。僕はぼろ傘をさして家路を急ぐ。
この街には学園がある関係で家に帰る途中に出来合いの料理を売る店があるのがありがたい。テラコッタ煉瓦の店はランプでどこか金色の光に満ちていた。料理は煮物各種と燻製のハムやベーコンの量り売り。油漬けになった貝などが並んでいた。
店の奥には初老のぽっちゃりとしたご婦人が頭を布巾で覆って灰色のワンピースで座っていた。
僕は煮物の鍋やそうした食肉製品をしばらく物色していた。
鶏と豚の二皿とパンを買って帰ることにした。この店では皿は洗って返せとご婦人に言われた。
包みと鞄と傘この三つをバランスをとりながら我が家に向かう。
ふと、目の前に人が立っている、中折れ帽を目深にかぶりだぼだぼのコートそしてそのコートの下のズボンと靴すべてが灰色のそれを着てただ雨に濡れていた。
誰だろう。
僕はその相手を怪訝な顔でしばらく見ていたが。軽く会釈した。
この街の人はほとんどがフレンドリーだ。挨拶を返さないことはまずない。
もしかしたらこの人は迷子になった別の街の人なんだろうか。もし迷子だったとしても僕も引っ越してきたばかりでこの街に詳しくないのだ。
しかし、この雨の中どうして傘も持たずこんなところに立ち尽くしているんだろう。
僕はそう思ったがせっかくの料理が冷める。早く帰って食事にしよう。
僕は足早にその場を後にしようと沿たとき手首に篤いものを感じた。
僕の腕にはまったブレスレットが熱を持っている。
何だろう。
僕は足早にその場を後にした。なんだかこの場所にいてはいけない気がしたのだ。
そして立ち尽くす相手に灰色の男に近づいてはいけないそんな気がした。
最後は駆けるようになる。
漸く家にたどり着いたときミランダさんが不思議そうな顔をして僕を見ていた。
「どうしたの、顔色が悪いわ」
僕は肌寒い雨の道を歩いたというだけではありえない暗い顔が蒼かったそうだ。
「ミランダさん、ブレスレットが熱くなったことがありますか」
ミランダさんは首をかしげた。
「ブレスレット? 熱く?」
僕とミランダさんの腕にはまっている色石だけが違うそっくりなブレスレット。この街の住人でありこの街の戦士であるという証明の腕輪。
「私は経験がないわ。でも戦闘が始まるまでは今まで意識したこともなかったし」
ミランダさんは自分の腕輪をしばし見つめていた。
「あ、いいです、あれなんだったのか」
ミランダさんが目を細めた。
「明日その状況を詳しく教えてくれるかしら」
ミランダさんにそう言われて僕はおとなしく頷いた。
その日結局家に戻ってぼくは煮物を温めてパンと一緒に食べた。
鶏はワイン煮込み煮込まれた玉ねぎがとろみになっていた。そして豚はトマト煮込みになっていた。細か刻んだ各種野菜と一緒に煮込まれていたので野菜と肉は取れていた。
なかなかおいしかったので今度別の煮物も試してみようと思った。
だけど、あの灰色の男はいったい何だったんだろう。